No.311 カスタネットとタンバリン
カスタネットの靴を履いて
カツカツカツカツ歩いている男
彼が俯くと 良く答えてくれた
彼がイヤホンをつけると 程よく答えた
タンバリンの服を着て
タンタンタンタン背中をかく男
彼が俯くと 背中が答えて
彼が仰け反ると 腹が答えた
彼らが友人になるには
トライアングルのネックレスをつけた女と
マラカスのカツラをつけたオヤジと
シンバルのピアスを開けた少年が必要だった
五人が揃うと 賑やかになった
借りてきた車の中は 轟音をたて
前の車は 自然と道を開けてくれた
隣で走っていた車が事故を起こした
カスタネットがタンバリンと運転を交代し
トライアングルがマラカスの機嫌を取った
シンバルは一人でゲームをしていたが
車酔いをしたので途中のコンビニに寄った
彼らが向かった先は 山奥の一つの小屋で
そこで思う存分かき鳴らそうと考えていた
彼らは周りの人間にうるさがられたが
決して挫けずに 絆を深めていくことにした
その小屋での休暇が過ぎ また退屈な毎日が戻った
カスタネットはすっかり落ち込み
タンバリンはたちまちにやせ細り
トライアングルとマラカスとシンバルは いつの間にか居なくなった
カスタネットとタンバリンは
会う理由を無くした ただの男たちになった
二人が訪れる場所で訝しげな顔をする連中も
全く違う顔 全く違う舌打ちになった
後にわかったことは
トライアングルとマラカスの間に子供が生まれ
シンバルは高校生になったということだった
カスタネットとタンバリンは別々の場所で心から祝福した
バランスはいつも取れなくて
耳が痛くなることばかり
愛すべき彼らの人生の悲哀について
トランペットの帽子を被った男は語った
トランペットは いつも風に吹かれていた
音色はカスタネットとタンバリンの耳に届き
また 不思議な予感だけを受け取っていた
そうして 二人は死ぬまで 会うことなく過ごした