No.421 彼の完璧な一日

 

 

レストラン

ステーキをナイフで切る音

微かに聞こえる食洗機の音

ドリンクバーのコーラが出る音

 


彼は注文した

何から何まで完璧な午後

目の前に彼女が座っていたら…と

考えてはみたものの 少し切なくなった

 


後ろで騒ぐミニカーの無邪気な声

何故かヒソヒソと話すスーツの低い声

貧乏ゆすりのハイヒールの甲高い声

両手にハンバーグを持ったエプロンの疲れた声

 


彼のもとに食事が届いた

何から何まで文句のない午後

目の前にある空席を除けば…と

考えてはかき消して 切なさを忘れようとした

 


使わなかった誘い文句

訪れなかった甘いひと時

全て忘れさせてくれるような素晴らしい午後

そのはずなのに ハンバーグの味がしなかった

 


代金を払い 家に帰る途中 公園に寄る

木々が生い茂り 空気が新鮮な気がする

虫や鳥たちが生きている

土が靴の裏をくすぐっている

 


完璧で 文句のない 素晴らしい夕刻

彼は一人 ため息を吐く

今日はとても良い一日だったと噛み締めながら

「なんて残酷なのだろう」と呟く