No.416 詩未満まとめ

食べ残した肉たちが会話をしている

自家製のチーズがそれに耳を傾ける

彼のいびきは聞こえないフリをして

明日行くゴミ箱の中を予想している

 


「広がりすぎて縮まなくなった物」

「びろびろのラップ!あと新聞紙」

「言葉遣いの汚いやさぐれた容器」

「分別されずに泣いている空き缶」

 


夢を見るように泣いていた子供には

それが怪物の会話に聞こえてしまう

ぬいぐるみを抱き寄せても温もりは

どうやっても自分のものでしかない

 


「乾電池が三本に指輪が十二個だ」

「それは恐ろしい!キャベツの芯」

「裸の女の切り刻まれた写真だよ」

「草臥れた靴下と穴の空いた下着」

 


「もう十分だ!良い加減にしろや」

静まり返っていた電子レンジが怒る

「シャーーーーーーーーーーーー」

リビングから録画の始まる音がする

 


「二段ベッドの下で眠るあの子は」

薬の優しい呟きが一つだけ聞こえる

「きっとあなた方を恐れているよ」

肉たちや電子レンジは口を押さえる

 


二段ベッドの下で泣いていた子供は

恐怖の中にいて彼を起こすことなく

午前三時を過ぎた頃にやっと眠って

次の朝叩き起こされるまで短く休む

 


彼は子供を二段ベッドから追い出し

食べ残した肉をゴミ箱に捨てさせる

ゴミ箱の中には無数の残骸があって

肉たちは落ちる場所を知って震える

 


…そんな夢から覚めた彼はベッドで

(なぜこんな夢を)と思いながらも

食べ残してしまった焼き肉を捨てて

落とした先のゴミ箱の中に見入った

 


彼は夢の中で彼であり子供であった

彼が寝ている時は泣いていたようだ

子供が寝たら二段ベッドの上にいた

(不思議な夢だ)と思い頭を掻いた

 


この夢が伝えたかったことは何かと

自問自答をしながら朝日を見つめた

(食べ残しはしてはいけないとか)

(子供を泣かしてはならないとか)

 


スヌーズ機能でアラームがまた鳴り

彼はいつの間に点けていた火を消し

煙草の吸い殻をゴミ箱に投げ捨てて

昨日残した肉たちをもう一度焼いた

 


スーツに着替えて仕事道具を詰めた

鞄は鉄で出来ているように重かった

本物の空気が彼の周りを取り囲んだ

寒さと重苦しさで出来た扉を開いた

 


そして仕事場に向かってやんわりと

もしくはのっそりと走る電車に乗り

もう二度と会わない人間に会うため

胸ポケットの中の銃弾の数を数えた