No.288 春
準備運動もままならず
ソフビ人形のような関節の動きに
春がやんわりと答えて
陽気の中でギシギシと歩いている
彼の頭のてっぺんは熱くなって
昨日見た夢が蒸発してしまった
とても良い夢だったような気がする
勿体ないと思って帽子をかぶる
どうせ散る花を 来年にまた咲く花を
彼はそこまでありがたがれなかった
道行く人は立ち止まり写真を撮っている
帽子を少し深く被り その横を過ぎる
結局夢は完全に忘れてしまったが
ひとひら落ちた花びらが鼻の上に止まり
彼の機嫌を取るように遊び
「まあ悪くないか」と心の中で呟いた
彼はいつの間にか知らない道を歩いていた
今日の予定まで蒸発してしまったらしい
別にどうでも良い 大したことではなかった
小鳥はそう鳴いているので そのまま歩いた
辿り着く場所は春の光景しかない
人々は呑気に上ばかりを見ている
青は桃色が気に入っているみたいだ
陽気は 天邪鬼さえも明るく照らしていた