No.525 (題名思いつかなかった)

 

 

無精髭をそのままにして

ぽりぽりと掻いたりして

退屈な時間を ぼうっと過ごして

誰かやって来ないかと待っていた

 


誰もいない街の中

勝手に持って来たチョコレートを

むしゃむしゃ食べて

変わらない空の色を見ていた

 


モノクロに少し色が付いたような世界は

たまに埃だらけになってしまうので

箒で掃除して回っていた

作業着は 何故かずっと新品のままだった

 


止まっている無数の車を覗いてみた

高そうな車 似たような車 ボロっちい車

中には何もないが 埃があった

ドアを開けて ピカピカになるまで掃いた

 


香りがする 何の香りだろうか

微かに 花のような? もしかして 春のような?

「こんなところに季節はないんだよ」

独り言は凍てつく響きで広がった

 


生徒のいない学校の前を通った

子供たちはどうしているだろうか

「ああ 結婚もしてないよ」

寂しいんだか 幸いだったのか

 


香りが強くなって くしゃみをした

はっくっじー げはげは がー っぺっ

痰はよく飛んで行った

そして教室を見ると 一人の女の子がいた

 


そりゃあもう とてもとてもとても驚いた

(何年ぶりに自分以外の人間を見ただろうか)

そして咄嗟に 大きな声でこう言ってしまった

「何でこんなとこに居るんだ!?」

 


女の子はこちらを見て

そりゃあもう 更に とんでもなく驚いていた

腕時計をカチリと握って

右に三百六十度回して 女の子を帰してやった

 


この腕時計で こっちとあっちが繋がるけれど

付けている本人は 絶対にあっちには行けない

あっちに行ってみたいとは思っても

こんな格好で 誰に会えと言うのだ