No.508 熊のスポンジのヘイキチ

 

 

熊の形をしたスポンジが

シンクの上に立っていた

そこらに付いた水垢を

擦りたくて仕方なかった

 


熊の形をしたスポンジは

自分をヘイキチと名乗り

洗剤の泡と仲良く話して

皿やコップとは話さなかった

 


何故かって?

ヘイキチは働くのが嫌いだから

自分で綺麗に出来ない奴らも

あまり好きになれないからだ

 


皿やコップは それでもヘイキチを

かなり気に入っていて 話しかけた

無視をされても 昼と夜に

ヘイキチが洗剤と洗う時も 話しかけた

 


「いつも 僕らを無視して それでも」

「君は洗ってくれるから 良い奴だ」

ヘイキチを褒めている 皿とコップは

交互に話して 笑いを誘えると思っていた

 


しかしヘイキチは ヒグマのような顔で

泡だらけになりながら 洗い続け

口を開かずに 仕事を終えると

洗剤の泡と 昨日見た夢のことを話した

 


「とんでもなくデカい皿を洗っていたよ」

寝ても覚めてもやることは変わらないね」

洗剤の泡は小さなため息をついた

ヘイキチは 台所へ来た 小さな人間を見ていた

 


小さな人間は 奇声を発しながら

突然 皿とコップをフローリングに投げて

二つは 木っ端微塵に割れてしまい

二度と ヘイキチに話しかけることはなかった

 


ヘイキチは次の日から 寂しくないフリをした

スポンジの仕事は 少なくなってしまった

洗剤は 泡になる必要も無くなった

ゴミ箱には コンビニの弁当の容器が溢れて

 


しばらく経って カラカラに乾いたヘイキチも

その中へ飛び込むことになった

そこで 皿とコップの小さな破片を見つけた

一生懸命話しかけても 何も答えなかった