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No.142 永い独り

夏が終わり 安堵している 日の光に目が焦げることもない 永遠の冬 雪のない田舎で 僕はただじっとしていたい 冷たい外気に触れぬように 毛布にくるまって数を数えて 誰に咎められることなく 朝と夜を交わしていきたい そして訪ねる人があれば 数十個ある鍵を…

No.135 少女とウサギとヒツジ

こそこそ話す ウサギの群れが 夢見がちな 少女の 夢の中で 陰口を叩くたび 少女は うなされて 首元を掻いて 明日の 6時間目の 心配をしながら 放課後の 友人たちとの 関係を 模索していると ウサギたちは 夢から出て ヒツジたちが 代わりにやって来るのは 人…

No.134 雄弁な木々

(詩とは 小さな物語? 大きな世界? たったひとつのもの) 木々が雄弁になると 窓ガラスは黙り込む 僕は椅子に座って そんな景色を見ている 冷えてしまったコーヒー 香りは出て来た頃より薄れて 飲む気力まで失せてゆくと同時に 僕は木々の語りに聞き入った …

No.133 変わることのない景色

変わることのない景色が彼を閉じ込めている 懐かしさに恋い焦がれ過ぎ去った時を磨いても 輝くのはひと時だけですぐに虚しくなる 忘れ去られた人々はいつも彼の周りを漂い 恨みつらみも無く ただただ報われずに嘆いている そんな彼を愛した人もいた そんな彼…

No.132 あいつ

感覚がなくなるまでつねった頰感覚がないのでいつまでもつねるつねる必要すら無かったと知り見知らぬ世界を歩き出す 知った顔が何人かいる時代や性別がごちゃ混ぜだがあれは担任の教師だったかあれはいじめっ子の女装か 不思議なことに人気者になれたあいつ…

No.131 お似合いの二人

何をするにも覚束ない男と何をするにもそつなくこなす女二人は出会ってたちまち恋に落ちて落ちた理由も分からぬまま真っ逆さまに 派手に着飾って飲み歩いた街並みに小鳥が飛んでカラスが鳴いて二人きり覚束ない足取りとそつなく動く頭で計算してみれば明日は…

No.130 怠慢な自由

書類の整理をしている退勤から7時間過ぎた1から10にAからZ無駄を省いて効率良く 息つく暇もなく書類を並べ畳んで切って貼り暗号のような列に苦戦頭の中は真っ白になる 白紙に戻れば書き出す書き出せば白紙に戻す出勤時間まで続く仕事シュレッダーは居…

No.129 分別できない朝に

何色に染めても黒く仕上がるなら羽ばたく白い鳩もいつかは染められてしまう すがることさえ出来ずに一人膝を抱えるなら冷たく白い瞳もいつかは気にならなくなるだろう 忘れてしまいたい全てを忘れてしまった時に大切なものと区別が出来ずに思い出そうと必死…

No.128 腐りゆく

小鳥さえずる向こうの山は 目前の木に雄大さを奪われ 忘れ去られた首吊り死体を 目前の木に影として映す 移動して来た彼は体を揺らし 小鳥のさえずりに答えようとする 僕は部屋からそれを見て 笑って涼しい午後を過ごす 鼻をくすぐる腐敗臭が 木の葉の緑にラ…

No.127 ある日の彼

照らされる薄墨の山を濃墨の木が切り取る鼠色の空を烏が切り取る 山々に近付いても美しさを感じられず緑色の退屈を感じる 壁に向き合い独り言の練習「空が低すぎて重苦しい」 潰されそうに小さな犬は庭ではしゃぐ猫が羨ましい 飛び立ちそうに大きな猫は車の…

No.124 8月25日

わかってはいてもわかりたくないこと 自分では変えられないもの それが自分のためにならなくても まとわりついて離れないこと 普通を装わなければいけない日々 仮面を代わる代わる付け替えなければいけない 僕は誰なのか 誰が僕なのか わからなくなる日々の…

No.122 いつかの君

僕は君に手を引かれて 嘘みたいに晴れた小径を歩く 木の葉が太陽に照らされて ゆらゆら揺れているから僕は眠くなる 君が教えてくれたアイスは美味しい 君が連れて行ってくれた場所は楽しい だから僕は眠い目をこすって 君の手を握りしめて歩いて行く 僕より…

No.112 性の船

涙も出ないほど悲しい性 夢も見れない苦しい性 妄想の中の抑え切れない性 やがて沈みゆく船のような性 どれも同じ人物の中で同じように収まる性 コップから溢れそうな水の上を悲しさや苦しさを抑え切れない船に乗る 性はまとわりつく衣のようで汗を吸わない…

No.111 短い散歩

気取った花が語りかける「そんな顔をしてどこへ行く?」寝不足で白い顔の僕は答える「君のいないところに行くさ」 湿ったアスファルトが濃い灰色で不貞腐れている水溜りは鏡のように雲を映し僕の不機嫌な靴を描いている 切符を買っても宛先知らず電車に乗っ…

No.103 陰干し

疑問符ばかりが張り付いて 君の顔は強張っている 跡形もなく消し去りたい その疑問符を剥がしたい やけに思い出が重なるから ミルフィーユのようにフォークで切って その切り口の見事さを笑って 君と平らげてしまいたい 君に出来ることを数えて 僕が出来ない…

No.102 宙に浮かんで

酒に頼ることも出来ずに 自堕落を気取ることも出来ずに ただただ寝れずに図に乗るばかり だらだら汗だけ垂れている 矛盾は無限に広がってゆき やがて覆い尽くす満天の星 夢見るだけ夢見た後は 夢見たことを恥じている もっと単純におろそかに出来たなら 僕は…

No.100 8/6

白と黒では決められない偽善の色は透明な灰色で吐いて捨てるような煙と包まれた布のような言葉 太陽に照らされて火照るアスファルトに手を当て目玉焼きを頭の中で作る熱さと痛みは歪んでゆく どうしようもない人々のどうしようもない気持ち何を考え何を感じ…

No.99 地面の穴

儚く崩れる地面 奈落を覗き込めば 輝く思い出たちが 暗闇を照らしている 飛び込めばもう戻れない 時間が止まり動けない 躊躇する間も無く 足は沈み埋もれてゆく 駆け出すと地面の穴は 遠く離れていった 振り向くとそれは ただ陽炎のように揺れて あの暗闇を…

No.97 街

なんやかんやで 辿り着いたら そこは東京 眠らない街 とは程遠い 眠る街並み 山がそびえる 鳥は鳴き出す 虫の音色に 寝つきは悪く 犬の遠吠え 寝起きも悪く 緑と青の コントラストが うざったいから 目を閉じている 狡い言葉を くれた貴方に あげる言葉は 「…

No.94 彼の泉

ふいに美しい声がした 彼はその声の元に歩いた ふとしたことを思い出した その日は日曜で空は曇っていた ガラスに亀裂が走り 「ふとしたこと」以外は忘れ去り そのガラスの中に入っていた水も 飼っていた魚も何処かに溢れた 美しい声はやはり消えた 彼にはわ…

No.86 Untitled

静寂を破ってどうしようもない罵声を浴びせられるようなそんな気分になる午後 電子音の波がイヤホンから聞こえる地を這うような低音が鼓膜を揺らす誰よりも惨めで残酷な運命を抱いて何処かに辿り着くまで穴を掘るような音 誰も知らない秘密を持っている誰に…

No.79 移りゆく

鼻白む君の顔に終わりを感じていたのかただ退屈な時間が終わりを伝えていたのか あの頃の僕の言葉は君の感情を乱してあの頃の君の言葉は僕の感情を壊して 移りゆく季節とは裏腹全く変わらない気持ちとは縁を切りたいのにバラバラに千切れそうな切ない気持ち…

No.77 水面はいつも穏やかに佇み

詩人は釣り人と似ていると彼は言ったひたすらに待ち続け 針にかかるのを待つしかない詩人と釣り人の違いは釣り上げたものがどんなガラクタでもそれを愛せるか愛せないかだ詩人はガラクタを愛することが出来るガラクタを愛せない詩人はただの釣り人だ針にかか…

No.72 石になったガム

吐き捨てたガムがコンクリートに張り付いて石になるそれを見ながら彼は人を待つことに飽き始めている 吹き荒ぶからビルは傾いて見え傾いているから彼は落ち着くポケットにしまったライターを取り出し煙草に火をつけると涙をこぼす さあ うちに帰ろうかあても…

No.71 詩人の詩

朝早くに小鳥のさえずりが聞こえて冷えた部屋の床に足をつけるありふれた日常とありふれた寝不足でふらついた思考は時間の波間を漂う おかえりとただいまを同時に言えたなら僕はこの部屋から出なくて済むのに電気を付けて寝癖を直しながら自分の中で何かを殺…

No.68 夢の住人

遠い昔 夢を見ていた少年は 今はもういない悲しいけれど 事実を歌う私はきっと 夢の住人 遠い景色 眺めていても少女には 何も見えなくて寂しいけれど 事実を歌うあなたはきっと 夢の住人 少年と 少女には私たちは もう見えなくて切ないけれど 事実を歌うやが…