No.154 野生

 

抱き合あえば二人は馬鹿らしくなった
こんなものかと落胆して幻想に浸った
触れ合う皮膚はどこまでも冷たく感じ
擦れ合った後には何もないと決め付け

 

男は裸のままジャングルに消えてゆく
女は服を探してデパートに歩いてゆく
愛想の悪い風が髪を飛ばそうとしたら
男は頭を抑え 苦し紛れの言い訳をする

 

疲れ果てたベッドはしわくちゃになり
女がいなくなっても男はしがみ付いた
離れてゆくことは必然だったとしても
愛を終わらせた女が憎くて仕方ない男

 

くだらない冗談を愛していた別の女が
思い出の中だけでこちらに手を振って
後悔を山のように積んでも果実はなく
空腹を誤魔化すように別の女を探した

 

ある日 男が夢見心地から覚めた瞬間に
馬鹿らしくなった心に炎が揺らめいて
予感だけが飛び交い ベッドを整えても
男は結局ジャングルで彷徨うしかない

 

No.152 先輩

 

焦らし過ぎて 飽きてしまい

それでもなお 焦らしたがり

あいつの顔と こいつの顔を

足して割って 引いてかけて

 

足についた 画鋲の傷が

心地良いから 鼻歌歌う

あの子の瞳と あの子の身体

天秤にかけて 身体を捨てる

 

ロッカールームに 足跡二つ

靴底型に 凹んだようで

嫌われている 自覚をすれば

嫌うことなど 造作もなくて

 

だから彼は 皮肉を言った

だから彼は 全てを憎んだ

だから彼は 友人を見捨て

泥で塗り固めた顔で 平然としている

 

我が物顔で廊下を歩く奴らに

食らわせる  視線の弾丸を

借り物の言葉で武装する奴らに

食らわせる  正当な散弾を

 

No.148 ・風と空と夢

 

絶え間なく流れる音楽が
震える鼓膜に傷を付けてしまう前に
何処か遠くへ消えてしまいたくなる
そして僕は風と話して空に夢を映す

 

縦線の無機質な建物が
たとえ大きな木々になっても
人は変わらず争っているだろうから
僕はうたた寝をしていよう

 

絶え間無く押し寄せる後悔を背負って
悲しいほどに重たくなるけど
僕は高速で移動しながらうたた寝をして
羊たちが押し寄せる海原の夢を見る

 

僕の夢が映された空を見て
誰も何も思わないかも知れない
争うことをやめたとしても
僕は誰にも見えないかも知れない

 

そうなれば僕はいよいよ風になって
あの雲たちと一緒に何処かへ消えよう
風はどこで生まれて死ぬのか
この目で確かめに何処かへ消えよう

No.147 前を向いて歩く彼

(彼に何と言えるだろう
振り向くこともなく
ただ前を向いて
足早に去って行く彼に)

 

僕と彼は 顔も知らない頃から友人で
ついこの間 実際に会うことが出来た
誰もいない喫茶店の中で
彼は僕に大き過ぎる夢について話した

 

「話をしていてもつまらない」
僕らはにぎやかな街に繰り出して
行き交う人々が何を考えているか予想して
くすくす笑いながら 目的もなく歩いた

 

晴れ渡る空がアスファルトを照らし
その光があまりにも強過ぎて
僕らはしかめっ面をしながら
にぎやかでなくなる地点まで歩いた

 

そこまで歩くと僕は彼の顔に
不穏な影を見つけ 彼に質問をした
「何か不安なことでもあるのか?」
すると彼は その影を隠して微笑んだだけだった

 

彼は次の日に消えた
僕はまた二人で出かけようと言ったのに
彼は何も言わずに消えてしまった
次第に彼の顔すら思い出せなくなっていった

 

彼は大き過ぎる夢を叶えたのだろうか
大き過ぎる夢に潰されてしまったのだろうか
大き過ぎることを自覚して
全てを諦めて消え去ってしまったのだろうか

 

ただ 彼は前を向いて歩いていただけ
僕はそこらの街路樹のようなものだった
通り過ぎればどうということはない
彼は木を見るために振り向くことなどなかった

 

僕は自分が前を向いているのか不安になった
どこも向いていない気さえして下ばかり向いた
後ろにも前にも 右にも左にも 上にも下にも
僕の居場所なんてないと感じるだけだった