自動記述日記2(何年か前に書いたもの)

 

 

先生が僕を見ている。授業が始まったらしい。数学はあまり好きじゃないけれど暇潰しにはちょうど良い。ノートに数字を沢山書いていると自分の中の世界に潜り込んで行ける。
7と8の間に人間の足を見つけた。×と÷に神秘的な魅力を感じた。5と6の間に人間の腕を見つけた。+と-に平凡な生活を感じた。3と4の間に機械の胴体を見つけ1と2の間に機械の脳を見つけた。
それを混ぜこぜにすると色々な形が出来た。人間と機械が混じり合うと不思議なフォルムが出来上がった。
その遊びを先生は理解出来ないらしい。ちらちら僕を見ては首を傾げている。先生の授業はいつも静かだ。生徒たちは退屈で眠っている。

2Dに僕の鉛筆が炭を残す度に頭の中が刺激される。数字や絵が直接脳に響く。それは立体となって視界に現れる。動いているxとyが落書きのペンギンを追いかけている。
僕の脳にコードを繋いでテレビに接続してみたい。思考の全てが僕の理解出来るものではないと思うからだ。宇宙を旅するような感覚だろうか。大画面のテレビを用意しなくてはならない。
電気屋で流れる頭に残って仕方がない曲が「テレビ」からの連想で流れ始めた。これが流れると僕は気持ちが悪くなる。この曲はきっと僕を駄目にするものなのだ。現実逃避をしなければならない。
エレクトロが響き始めた。良い感じだ。さっきのCMソングは彼方に消えた。あの宇宙人が教えてくれたヘンテコだけれど恰好良いエレクトロは中毒性があるらしい。たまに洗脳されているのではないかと思うくらいだ。

授業を忘れて僕はSFを展開してゆく。

 

 

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僕はその星をダビデ星と名付けた。
この星の人々は全員ダビデ像の形をしている。僕は自分の形がデビッドボウイなら良いのに。と思った。
僕の「地球で最も宇宙人に近い男」ランキングの1位を独占しているデビッドボウイだ。頭の中でチェンジスが流れた。

宇宙飛行士は皆の憧れだと思う。
けれど宇宙旅行はそれほど夢があるものではない。小さな船に乗って機械任せでたらたらと目的地まで漂うだけだ。
漂うというのも最短距離でスパッと向かってくれずにグラグラと方向転換をしながら旅をするからだ。そしてタビデ星人のダビデ顔を見ていると10日で嫌気が差す。しかも見分け方が名札というのも腹立たしい。ワッペンにボブやらサムやら書かれている。
たまにヨシコやミツコなどを見ると親近感が湧いたけれど女性なら女性の型にプレスすれば良いのにと思った。サモトラケのニケやミロのヴィーナスだと人体欠損グロになってしまいそうだけれど。

ダビデ星に着いたのは14日後だった。
2週間はかなりの長旅だ。これから先待ち受けることに期待と不安を感じながらも空港(らしき場所)に降り立った。かなり大きな施設で宇宙船が何千も並んでいる。ちょうどCDラックのように縦横にズラリと並んでいるのだ。その光景はかなり衝撃的だった。
空中に浮かんだエスカレーターで乗り降りをする。この星にいた他のダビデ達は揃って僕に興味を示した。自分と違う顔がよほど珍しいのだろう。僕は顔を赤くしながらスタスタと歩いてゆく。
僕と一緒に来てくれたダビデの一団は先にバス乗り場に行って僕を手招きしていた。荷物が少ないので人にぶつかることもなくそこへ辿り着いた。

ダビデ星は不思議な星だった。空は暗く永遠の夜。街灯が太陽代わりだ。
陸は赤茶の砂。木々は枯れて水も見当たらない。メロンパンのような形の家々が建ち並んでいる。

僕たちはゾロゾロと歩いていたけれどヨシコとミツコはいつの間にか帰ってしまったらしい。親近感が湧いていただけに少し寂しかった。前に食べさせて貰ったゼリーを食べようということになって食堂へ向かう。僕を含め4人で行動していた。席に着くとウェイトレスのダビデがメニューを置いてくれた。
「◯◯は何にしたい」名札にジェットと書いた少し大人しめのダビデが僕に聞く。ジェットは英語が堪能で日本語よりもそちらで話すことが多いらしい。だから発音が映画に出てくる日本語を話す外人のように拙い。優しく低い声だった。
「チャーハンみたいなものはありますか」ダビデ星でどんな食事があるのか知らない僕は恐る恐る聞いた。
「あぁ。あるよ。それはこの星でも凄く人気なんだ」ジェットはニコリと笑った。

旅の途中ポーカーで遊んだボブとサムの二人はブルーベリーパイのような味のゼリーを食べていた。そしてチャイの炭酸入りのような飲み物をジュルジュルと吸って溜息をつきながら満足そうに腹を撫でた。僕らはダビデ星の話と地球の話を交互にしていた。周りにいたダビデ達は僕たちの話に興味を持っていた。
「この星には海がないんだ。地球との一番の違いはそこだね。そして君がこうして息を吸ったり吐いたり出来るのは機械のおかげなんだ。このゼリーの中には小さな小さな機械が組み込まれていて消化すると有害な空気を吸っても綺麗にしてくれるんだよ。本来この星は人間が住めるような星ではないんだ」ボブが食後の休憩中に話した。それを良く考えてみると不思議に思った。何故このダビデ達はこの星に生まれたのだろう。まず人間の作った石像から型を取って生まれた彼らがこの星でどうやって繁栄したのだろうか。
もしかしたら人間の形がこの星でブームなだけで元の形は隠されているだけなのかもしれない。

イギリス人のような綺麗な鼻や目や髪の毛を持って生まれてきていれば。と強く思った。僕は平凡な日本人だ。だからこのダビデ星で浮いてしまうし美しい顔だらけの中にいると劣等感に押し潰されそうだ。
少しホームシックになりかけの僕はダビデ達に連れられてダビデ星の映画を見た。それは凄く不思議な話だった。同じ顔の登場人物達があらゆる困難に立ち向かうのだ。ラストの敵は巨大なダビデで身体は蛸の形だった。8本の足は6両編成の電車くらいの大きさでバームクーヘン型のビルを壊しまくる。圧巻はウルトラマンのようにでっかくなった主人公と敵のツーショット。しかし普通なら燃えるシーンも同じ顔で身体の形だけが違うとなると倒した時のカタルシスが全くないのだ。だからダビデ蛸が死体となってぐったりとした時に主人公が自分自身の内面の怪物と戦っていたような錯覚を覚えて虚無感が襲ってきた。それがこの映画の狙いであったなら凄いと思う。DVDに焼いて地球へ持って帰りたいくらいだ。とりあえず鑑賞後に思い返すと良い映画だと思えるような内容だった。

ダビデ達は何故僕をここに連れて来たのだろう。映画館から出てバスに乗り込むと灯りの少ない郊外へ向かった。そして辿り着いた場所は大きな何かの工場だった。ガゴンガゴンと轟音が鳴り響いている。
持ち物チェックをして防護服を着て消毒を終えてやっと中に入れた。その中には色々な生物がいた。しかし地球に住む生物ではない不思議なモンスター達だ。毛むくじゃらの玉のようなものや足が全身にびっしり付いたようなものが檻の中で様々な声をあげていた。それはまさしくグロテスクな形ばかりで吐き気を催してしまった。ダビデ達は気を使って僕を足早に事務室へと連れて行った。事務室の中ではダビデ達が働いていた。俳優ダビデのポスターなんかも貼ってあった。その奥の来賓用の部屋に通される。その中には誰もいなかった。

「君がここに招待された理由を聞きたいだろう」ジェットが少し低く僕に聞いた。部屋の端から端までの大きさがあるソファーにすわりながらダビデ達3人は僕を見つめている。僕は反対側にある端から端までのソファーに一人で座っている。
「はい。旅行というわけではなさそうですね」僕の声は小さく響く。ダビデ達は少し考えているようだった。



No.41 短編『ミルフとミリー』

今回は趣向を変えて、凄く昔に書いた短編を載せます。小説を断念した理由がよくわかると思います。

 

花のつぼみのような小さい宇宙船。
そこに、幼い兄妹が乗っている。
兄はミルフ、妹はミリー。
山積みになった児童小説や絵本に囲まれて、今日も星の海の中を過ごしている。
墨をまいたような漆黒の中、光る点々の景色は飽きるほど見慣れて、二人にとっては日常の風景だった。
宇宙は退屈でただ広くて、宇宙船の中の世界の方が、ミルフとミリーにとってずっと大きかった。
楽しく、空想に満ちあふれた世界。
二人が浮かべた発想はもはや現実になり、奇妙な動物や美しい妖精は宇宙船内を漂う。
二人は仲良さげに今日も笑い合い、無表情の精密な機器の中で、はしゃぎ回る。
一体、この船はどこに向かっているのだろうか。
奇妙なことに、一番前方にある操縦席は暗く、物音一つしない。
人の気配もなく、殺伐としているほど静かだった。
たまに聞こえる微かな物音は、ミルフとミリーの笑い声だけだ。
宇宙船は自動操縦になっていたが、実際はどこかの星の周りを永遠に回っているのかも知れないし、はたまた宇宙の端を目指して、目的なく進んでいるのかも知れない。
結局、どこへ行くかなんてことは、二人には関係のないことだった。
宇宙船の世界があれば二人は、それで十分なのだ。
不思議なことに、操縦席への扉は堅く閉ざされていたが、二人はあえてそれには触れないようにしているようだった。
ふわふわと浮かぶ綿菓子のような犬。
とろとろに溶けるチョコレートのようなカエル。
そういった個性ある動物たちが、この部屋には何匹もいる。
それらは幾度も描き変えられ、犬はもう十回以上形を変えていた。
妖精は虹色の羽を持ち、歌が上手だった。
ミルフとミリーは何度も歌を歌い、妖精はそれに合わせ踊り、歌う。
その舞は華麗と言うよりつたなく、愛くるしい仕草の連続のような舞だった。
やがてそれにも飽きて、二人は外の眺めを見る。
星々は光り、美しくたたずむ。
時に横切る、破片のような隕石の屑。
室内を無重力に切り替え、二人は泳いで星を眺めた。
宇宙船は止まらない。
二人を乗せてしっかりと前進する。

行き着く先は、熱い光のそばの星。
恒星が見えてきた。
それと同時に青い星が見える。
ミルフとミリーはその星を名付け、その星に人々を創った。
「ミリー、きれいな星だね」
「うん!あそこに、行ってみたいなぁ」
ミリーは羨ましそうに青い星を見つめた。
「あそこの星には、肌がピンクの人が住んでるのよ」
「それは僕たちより大きい?」
「ううん、私たちとおんなじくらい」
ミリーは目を輝かせている。
「花と小鳥が好きな人たちなのよ」
「それじゃ、絵本に出てきた姫様のようだね」
「うん。お城がいっぱいあってね、それぞれに偉い王様もいるのよ」
そんな会話をしているとやがて青い星は大きくなってきた。
近づいてきたのだ。
よく見ると、星の周りには宇宙船かなにかのゴミが漂っている。

機械の部品は無表情で、冷たい感じがした。
二人は不思議そうにそれを眺めて、数を数えた。
しかし、余りに多くて数え切れなかった。

宇宙船はどんどん青い星に近づいている。
「このままだと、ぶつかっちゃうね?」
「大丈夫だよミリー。きっと」
しかし、ミリーの予想は外れなかった。
やがて轟音とともに宇宙船は加速し、熱を帯び始めた。
赤いランプが機内に点灯し、うるさくブザーがわめいた。
ミルフとミリーは体を寄せ合い、揺れる機内のすみに避難した。
無重力ではなくなり、運転席の扉の方へ落ちる。
二人は開かない扉の上に座り、じっとしていた。
いつの間にか犬もカエルも妖精も消えている。
二人は目をつぶり、力を込めて手を握る。
すさまじい爆音、衝撃、そして、無音。

人々は大騒ぎだった。
突然の落下物に、驚きと戸惑いを見せた。
やがて警察が来てバリケードを張り、その落下物を調べに学者が集まった。
「…なんと。信じられん。この宇宙船は、五十年前に打ち上げた、調査機ではないか…」
「調査機…ですか?」
若い、助手であろう男が博士に聞いた。
「五十年前、地球外生命体の調査に打ち上げたのだよ。すっかり、事故で破壊したものだと思っていたが…」
すると、博士を呼ぶ叫び声が響く。
「博士!中に誰かいるようです!」
宇宙船を調べていた一人は、汗だくになっていた。
博士はただならぬ予感がした。
もう一人の博士が、呼ばれた博士に語りかけた。
「操縦室だ。幸い機体は大破していない。しかし…」
「どうしたというのです?」
「すっかり、ひからびてしまっているのだよ」
呼ばれた博士は、操縦室に乗り込んだ。
ショートする機械のバチバチという音。
それ以外には、なにも音がしない。
生命の気配もない。
すると、たとえようもない異臭が博士の鼻を突いた。
顔をしかめ、袖で鼻を押さえながら操縦席を見る。
「な、なんてこった…!」
操縦席には、ひからびてミイラのようになった二人の男女が座っていた。
鼻を突いた異臭は、二人の腐臭だったのだ。

二人の博士は話し合う。
最初に操縦室に入った博士は、ミュラー博士。
次に入った博士は、ゴートン博士。
宇宙船の搭乗口をバーナーで開け、中を調べようという結論に至った。
「慎重に、作業してくれよ」
扉を開けるのにかなり時間はかかったが、やがて扉は切断された。
ミュラー博士とゴートン博士は、先頭に立って船内を見回す。
ふと、何か聞こえたような気がした…甲高い、子供の泣き声…。
二人の博士は、船内をライトで慎重に探したがやがて見つけた。
「ミュ、ミュラー博士…」
「あ、ああ…」
二人の、小さな兄妹だ…まだ生きている!
二人の博士は、信じられないと目を見張り、少しの間固まってしまっていたが、二人を外に連れ出そうと、二人を一人ずつ抱えて船内を出た。
兄妹の体は軽く、しかし健康そうだった。
動揺しているものの、二人で一緒に居させれば、泣きはしなかった。
しかし、別々にしようとするとブザーのように泣きわめいた。
もっと、二人の博士を悩ませるような不思議な点がある。
二人の体の色は、薄い水色だったのだ。
健気な瞳の色は紫色で、どう見ても尖った耳を持っている。
しかし、それ以外は人間と大して変わらなかった。
「君たちは、どこから来たのだ?」
ミュラー博士が、二人に温かいココアを差し出して聞いた。
ココアを不思議そうに眺め、二人はそろって口にし、目を輝かせて言った。
「おじさん、これおいしいね!」
「この飲み物は、なんて言う名前なの?」
しかし、ミュラー博士は困った顔をして、腕を組む。
近くで見ていたゴートン博士が呟く。
「はて、この二人はなんと話しているのでしょうか?」
「うーん、さっぱりわからない」