No.97 街

 

なんやかんやで 辿り着いたら

そこは東京 眠らない街

とは程遠い 眠る街並み

山がそびえる 鳥は鳴き出す

 

虫の音色に 寝つきは悪く

犬の遠吠え 寝起きも悪く

緑と青の コントラストが

うざったいから 目を閉じている

 

狡い言葉を くれた貴方に

あげる言葉は 「全て彼方に」

飛んでいったよ 右から左

どこへともなく 左から右

 

慰めてから 貶す言葉で

全て無かった ことにしたって

慰められて 貶されたから

不安に怯え 溺れ震える

 

ここじゃないどこかなんて

君がいなければ不安定

だから一緒に眠ろう

だから一緒に語ろう

 

どこでもない場所なんて

君がいなければ無関係

だから一緒に落ちよう

果てし無く落ち続けよう

 

 

 

 

No.96 パーツ

 

奪われた物は全て数え
与えられた物を全て捨て
夢みたいな言葉を重ねて
憂鬱なことは全て忘れ

 

辞めちまいたい 僕を仕舞いたい
嘆きの燻製 煙草に火を点ける
冷めちまいたい 僕は発火して
過激な恒星 燃えて光り続ける

 

盗まれた物を全て数え
盗んだものは全て売り飛ばし
夢みたいな心をかわして
憂鬱なことは全て燃やして

 

あげちまいたい 僕をラッピング
破滅の銃声 煙草に穴があく
ズレちまいたい 僕ははぐれ者
なれずに防戦 盾は燃えて落ちる

 

はめちまいたい 僕を押し込んで
この世の純正 部品は国産だ
一緒にいたい 僕は誰の物?
これから混成 部品は沢山だ

 

No.95 幻想(街灯の夏仕様)

 

夏に揺れてるそびえるビルを
遠く見つめてるこの瞳の奥で
移ろいゆく時間だけが
音を立てて刻まれている

声を潜めて気付かれぬように
ひっそり一人捕まらぬように
誰に祈る訳でもないのに
誰に救われることもないのに

気が付けば夢見た景色
夢見た人々 忘れたはずの思い出たち
気を許した途端に
引き込まれていた
あるはずの無い幻想に

夏に行き交う人々の中に
紛れ込めたら深く沈めるのに
冷えた部屋の時計の針が
音を立てることなくクルッと回った

声がもう届かない場所で
遠く遠く離れてる場所で
誰が待ってる訳でもないのに
誰を覚えてる訳でもないのに

気が付けば涙も枯れて
傷跡も治り過ぎ去ったはずの苦しみを
思い出してしまったら
巻き込まれている
幻想が過去を照らし
幻想を一人歩く

No.94 彼の泉

 

ふいに美しい声がした

彼はその声の元に歩いた

ふとしたことを思い出した

その日は日曜で空は曇っていた

 

ガラスに亀裂が走り

「ふとしたこと」以外は忘れ去り

そのガラスの中に入っていた水も

飼っていた魚も何処かに溢れた

 

美しい声はやはり消えた

彼にはわかりきっていたことだった

そして彼はまた歩き出した

まるで目的地があるかのように

 

澄んだ泉を見つけた

その水を飲むと彼は泣いた

味はしなかった 何も無かった

星の光を反射して輝く泉に顔を浸した

 

すると彼は美しい声を聞いた

まるで囁くように まるでなだめるように

まるであやすように まるで実在するように…

彼は泉の中で呼吸を忘れた

 

それからというもの

彼は何処へも歩かなくなった

そして泉は濁ってゆき

彼と共に腐り果てていった

 

 

No.93 紫煙

煙草の火

当てた手のひら

むず痒い

穴が空くほど

灰皿代わり


フィルターを

噛み潰すたび

気が狂う

葉っぱを噛めば

正気に戻る


成人に

なる直前は

生きた肺

なった途端に

燻製の肺


日が照った

鉄の熱さで

火を付ける

血の味すると

少し微笑む


栄えてる

街並み立ち見

煙草吸い

右目に染みる

涙が滲む


傘捨てて

ライター擦って

燻らせて

雨に塗れて

気持ち紛れて


暗がりに

動き出すのは

赤い点

近付く気配

冷たい香り

No.90 ハキダメ処/2

落書きで 赤のクレヨン 使い切り 黒く濁った 血を描き出して/

深爪の 痛みで目覚め また眠る 繰り返しても 朝は遠のく/

蝉の声 五月の晴れに 鳴りだして こびり付いたら 朝にうつむく/

「忘れない」 この痛みにも 意味がある そう信じても 何にもならず/

脳内に 無数のヒビが 入っても 見た目変わらず 思想改装/

夜更かしで 瞳張り付く コンタクト 剥がれないまま 何年か経つ/

ピストルに 似せて作った 万華鏡 一人殺せば 散らばる破片/

額縁に 入れた少女の 見る夢は 御伽噺を 黒く染めゆく/

乗車券 無くしたままで 汽車に乗る 狸寝入りで 往復旅行/

青インク 滲み出た海 鮮やかに 腹を浮かべた 小魚の群れ/

何事も 抜かり無くとは いかなくて 今日拗らせ 貧しく暮らす/

自転車に 爆弾詰めて ペダル漕ぐ 夢にまで見た 都会の中で/

灰皿に 錆びた模様が 似合わない いっそこの血で 彩ってしまえ/

老人が 座って眠る ベンチには ハゲタカに似た 烏が集る/

雨が降る 街路樹濡らす 雨が降る 緑は黙り 俯いている/

空気にも 調子の悪い 時がある 今朝方だけで 数人死んだ/

夜空には 青一つなく 昼を待つ 来るはずだった 青空を待つ/

故障中 エレベーターの 扉開く 見えない細部 湧き出す恐怖/

話しても 無駄になるのは 老婦人 目的地には 辿り着けない/

羽のある 魚に乗って 雲の上 ひれある鳥で 海底探査/

目を閉じた 耳を塞いだ 口閉じた 鼻もつまんで 脳内会議/

怒りさえ 消えて失せたら 常夜灯 独り言には 拍車がかかる/

CDを PCに入れ 再生し 誰も聞かない 歌を覚える/

寂しさに 押しつぶされて ペラペラの 紙になったら 布団に潜る/

何もない 一日ならば過ぎるだけ 何かあっても ただ過ぎるだけ/

憂鬱は 打ち倒せても 蘇る エンカウントは 無限に続く/

学校に 忘れた鞄 取りに行く 誰も来てない 日曜の朝/

制服の 中に私服を 着て行って 帰り道には ゲームセンター/

暗がりで 照らされた顔 気味悪い 怖くなったら 帰りの支度/

千円を 崩した名残 小銭だけ 自販機見つけ コーヒーを買う/

ただいまも 言う気になれず 横になる 母が夕食 支度する音/

何もせず 家に籠もれば 憂鬱で 手首掻いたら ミミズが走る/

赤ペンを ミミズに沿って当ててゆく 何故か心地が 良くなる不思議/

夕食の 席でミミズが 暴れ出す 三日続いた カレーの仕業/

No.87 ハキダメ処/

 

カーテンの 裾からさした 陽の光 浮かぶ埃と 晴れぬ心と/


夢の中 逃げれば少し 楽になる 悪夢にもなりゃ 覚めて安堵し/


窮屈な ベッドの上で 苦しがる 横の女は いまだ寝ている/


飲んでいる コーラを全て 捨てたなら 流しのにおい マシになるかな/


暗がりに ポツリと光る 赤い点 人魂に似た テレビの端っこ/


「ジャンパー」を 「アウター」表記に 切り替える 今まで着てた 服を捨てつつ/


俺の声 僕の耳には 届かない 私の声は お前に届かず/


書きかけの 絵の次の筆 探してる うなされながら 絵の具を足して/


売れぬ絵を 部屋に飾れば 満足し これで良いかと 夢も捨てつつ/


わけもなく 涙を流す 八時半 晴れぬ心は 腫れて膿みだす/


SFに のめり込んでは 移りゆく 季節の合間に アストロノーツ/


親しげな 得体の知れない 生き物が 姿見の裏 顔を出しつつ/


鼻をかみ ビニール袋 捨てたなら コンタクト入れ また眠りだす/


現実と 夢の見分けも 付かぬまま 働くことの 空恐ろしさ/


捨てられた 子犬のような 婆さんが 今もこっちを じっと見ている/


侍が 切って切られて 血塗られて 夢が覚めたら 固まる鼻血/


犬猫の 動画を見つつ 煙草吸い 負け犬気分で 猫にまたたび/


ハムスター 買う計画も 破綻して びくともしない 置物を買う/


一日の 無駄の仕方を 競い合い 完敗したら こちらの大勝/


過ぎ去った たまの休みも ほぼ眠り 疲れは取れず 腹も痛める/


特撮で ヒーローになり 悪を討つ 着ぐるみ脱いで 酒を飲む夢/


外人と 異星人とを ごちゃ混ぜに ペラペラ喋る 何十ヶ国語/


スライスし 薄くなりゆく 玉ねぎを 水に浸して アクを抜きつつ/


レタスなど やぶり流水 皿に盛る 上に蒸し鶏 今日の朝食/


昼になり ファストフードに 溺れつつ 通行人に あだ名を付ける/


不謹慎 言葉で全て 片付けて 笑顔で描く 反ユートピア/


通勤の 電車の中で 高いびき サラリーマンの おかしい悲哀/


靴の中 蠢いたのは 羽虫かな 昨日殺した 小さな俺か/


日向にも 日陰にもなる 今日の日は 行く末見据え 震えて困る/


ドア開く そして閉じたら また開く まぶたの動き 真似するように/


フェンス越し 見える景色の つまらなさ 四季はくだらぬ どこにでもある/


冬も散り 春が咲いても また散って 夏が咲いたら 次は秋かな/


体調の 優れぬ今日の 遅延には 誰かの恨み 晴らされた痕/


ホームには 一人で喋る 女だけ 二人っきりでも ときめきもせず/


各駅で 止まらぬ駅の 奥深さ こんな所に 霊の行列/


DVD 回る音には 脳内を 搔き乱したる アレが滴る/


集めたら 捨てて掃いてを 繰り返し ペットボトルの キャップの遊び/


制服で 敬礼すれば 様になる その頭から 血が出ていても/


借金の 形に心臓 奪われる 返せる日まで 死に顔のまま/


戯れで たわんだ皮膚を 捻る指 吐息交じりに 殺意の一つ/


怖がりを 馬鹿にされても 直さずに 叩く石橋 過ぎても叩く/


青空と 曇り空との 中間の 何とも言えぬ 空の色々/


ポスターの 絵の具乾けば かさぶたと 一緒に剥がし 何故か清々/


気味悪い 男の指の 絆創膏 丸めて捨てた 血を隠しつつ/


赤ん坊 泣いてしまって 睨まれて 母親探し 店をうろつく/


ラクタの 城を崩して ほくそ笑む 錆がまわれば またほくそ笑む/


八分咲き 紫煙絡めて 待ち惚け 暗くなったら 散りゆく桜/


深々と 椅子に座って 目を閉じる 雑音の中 姿が消える/


空想の 大きさにさえ 怯えつつ 銃の感触 額に刻む/


中華そば 不味く作れば 客が来て 美味く作れば 客は遠のく/


埋もれゆく 記憶の彼方 砂と城 いくら掘っても 砂は減らずに/


狂おしく 咲いた花びら アスファルト 踏まれ踏まれて 押し花のよう/


ある日暮れ 些細なことで 腹を立て むず痒い腹 捌いて開く/


ボールペン ぐるぐる書きの 現代詩 破って捨てて 新しい紙/