No.127 ある日の彼
照らされる薄墨の山を濃墨の木が切り取る
鼠色の空を烏が切り取る
山々に近付いても美しさを感じられず
緑色の退屈を感じる
壁に向き合い独り言の練習
「空が低すぎて重苦しい」
潰されそうに小さな犬は
庭ではしゃぐ猫が羨ましい
飛び立ちそうに大きな猫は
車の下で涼む犬が羨ましい
イタリア料理店の窓から溢れる笑顔
上辺だけで並べ立てた独り言
トマトと鶏肉を炒めたような色の夕陽
照らされる濃墨の木は背景に切り替わる
彼はその木の前に立って
ただ空を眺めているだけ
烏の行方もわからぬまま
犬と猫は彼を眺めているだけ
No.124 8月25日
わかってはいてもわかりたくないこと
自分では変えられないもの
それが自分のためにならなくても
まとわりついて離れないこと
普通を装わなければいけない日々
仮面を代わる代わる付け替えなければいけない
僕は誰なのか 誰が僕なのか
わからなくなる日々のこと
絶え間なく積まれる憂鬱
嫌いなものと好きなものの矛盾
頭だけが冴えてしまう5時半
全てが電車に轢かれて仕舞えば良いのに
広くなった部屋 自由になった時間
愛おしく思えるもの 僕の変わらないこと
洗濯物が外されたハンガーだけが
何かがそこにあったことを知らせている
もっと残酷になれれば良いのに
もっと見えなくなれば良いのに
数えてみればキリがない
悩ましい昨日までの出来事
壁に飾った僕の絵は
今日も変わらずにこちらを見て
何故帰って来たんだ?と
やけに不機嫌そうにしている
No.123 猫 男
巨大な猫が捨てられたブラウン管から
飛び出して目に飛び込んでそれっきり
髭が生えて耳が頭の上に乗った男には
常に巨大な猫が喋りかけて付きっきり
「大丈夫か顔色悪いぞ頭痛いのか?」
「お前やけに息が荒いがどうした?」
男の心配は巨大な猫だけだったのだが
目薬を打っても涙のように流れるだけ
猫男になって行く彼の容姿の噂が流れ
少年の一行は彼を訪ねドアホンを押す
「お前ら構わないでくれ帰ってくれ」
面白がった少年たちは彼を笑っている
「美味そうなガキだ食べてしまえよ」
「お前はもう獣だしやがて俺になる」
巨大な猫がそそのかしても理性はある
彼は少年たちに菓子を配り機嫌を取る
食欲がぶくぶく膨れ上がり理性は揺れ
巨大な猫は得意そうに笑っているだけ
「お前ら構わないでくれ帰ってくれ」
舌舐めずりを抑えられずに理性は飛ぶ
No.122 いつかの君
僕は君に手を引かれて
嘘みたいに晴れた小径を歩く
木の葉が太陽に照らされて
ゆらゆら揺れているから僕は眠くなる
君が教えてくれたアイスは美味しい
君が連れて行ってくれた場所は楽しい
だから僕は眠い目をこすって
君の手を握りしめて歩いて行く
僕よりも大きな君は女の子
僕よりも年上の女の子
二人でいると不思議な気持ちで
太陽に照らされて
君が目指す場所について
そこにある綺麗な川で泳いだ
メダカを手で掬ってすぐに水に戻して
君が笑うからそれを繰り返した
君は夕暮れになって
家に帰ろうとするから
僕は仮病を使って
君を引き止めてしまった
すっかり暗くなって星が出て
二人で河原に寝そべった
背中に当たる石たちが
少し痛くて少しくすぐったかった
いつの間にか朝になり
嘘みたいに晴れた河原で
君の手を繋いで
また僕らは歩き出す
そうして君は家に帰らずに
僕と一緒に居てくれた
嘘みたいに晴れたベッドで
眼が覚めるまで居てくれた
サイトに載せた詩 No.1
サイトの方に詩を載せたのですが、ブログにもその詩を載せようと思います。
サイトの行き先がわかるかたは、サイトの方も遊びに来て下さると凄く嬉しいです。
poetry
【1】
静まった街に群れとはぐれた男が一人
何もせずに地面ばかり見ている
彼に空ばかりが話しかけて
雨粒を矢継ぎ早に降りかけるので彼は退屈だった
十二時を過ぎてまだ数分なのに
街はすっかり光を落としている
街灯が彼の背中を叩いて話しかけても
雨粒が彼の背中に降りかかるので聞こえない
空と彼はそれから数時間交流して
逃れられたのは明るくなってからだった
外ではまだ話し足りないのか
空が雨粒を硝子に打ち付けていた
彼が目を閉じると濡れた髪が引っかかる
額に手を当てて少し考え込む
そしてせっかく乾き切った服に着替えたのに
彼はまた外に出て行って空の話を聞く
空は雨粒ばかり話したが
やがて晴れると陽の光を話していた
彼はその話には答えられるので
服が乾くまで空と話をしていた
No.121 六時
毎朝六時に目覚めて部屋の掃除をする
彼の心の中は散らかったままだったが
この行動で少しだけ整理されていって
有意義に時間を活用していると感じる
彼は寝つきが悪くて身体を壊していた
もう少し眠る方が良いのかも知れない
だが埃が徐々にちりとりにたまる度に
不安定さが安定に歩んで行く気がする
小鳥が鳴いているから朝食を食べよう
朝日が昇るから歯を磨きゴミを出そう
そうやって彼は周りのものに影響され
眠気を飛ばし部屋の中に漂わせている
昨日脱いだままの玄関の靴を並べ直し
一息つくとまた箒を持って掃除をする
彼の髪の毛は散らかったままだったが
有意義な時間を過ごしていると感じる
しかし彼は今日死ぬ運命だったために
車に轢かれる瞬間思い返すことになる
有意義な時間を無駄に過ごしていれば
この痛みも苦しみも恐怖も無かったと