No.335 真っ赤なポスト

 

 

真っ赤なポストが 目印になった

時間を言えば そこに入っている

深夜なら安全で そばに誰も寄らない

白い粉とか 握りやすい塊とか そんな物を仕込む

 


そんな物を待ちに待って ようやく手に入れる彼らには

それぞれの事情があって それぞれが悪い

悪さを測る物差しがあっても大差はない

人を不幸にしようという企みは変わらない

 


金が集まって 人も集まって 風が届かないと

一気に埃が溜まり 錆び付き 腐ってゆく

発酵する物(者)も中にはあるが(居るが)

食えないことには変わりない

 


白い粉をナイフで破って 鼻から吸った男も

握りやすい塊の 突起部分をいじった男も

再び 真っ赤なポストへとやって来ることはない

ポストは 「初めまして」と「さようなら」を繰り返す

 


真っ赤なポストは 自分が悪さに使われているなどと

夢にも思わずに 人々の思いを繋げる役割を自負する

それでも やっぱり目印になって

昨日も 入り切らないくらいの札束が 投げ込まれた

 


そんな真っ赤なポストにも 夕方くらいまでなら

幼い少女が 戦地の父親に送る手紙を入れに来て

嬉しくなって 使命感に燃えるが 腹の中には

誰かを不幸にした札束も まだ入っている

 


「さて 彼らと少女の間には

    どれだけの隔たりがあるのだろうか」

そう尋ねる老人に 少年は答えられなかった

老人は 真っ赤なポストを指差し 孫である少年を撫でた

 


「きっと理由がある それは一緒なのかもな」

老人は飴玉をくれた 少年は真っ赤なポストを眺めた

(あの子が入れた手紙の先にも 悪い人はいるのかな)

少年はそんなことを考えて 部屋に入ると 誰かへ手紙を書いてみた