No.127 ある日の彼

 

照らされる薄墨の山を濃墨の木が切り取る
鼠色の空を烏が切り取る


山々に近付いても美しさを感じられず
緑色の退屈を感じる

 

 

壁に向き合い独り言の練習
「空が低すぎて重苦しい」

 

 

潰されそうに小さな犬は
庭ではしゃぐ猫が羨ましい

 

飛び立ちそうに大きな猫は
車の下で涼む犬が羨ましい

 

 

イタリア料理店の窓から溢れる笑顔
上辺だけで並べ立てた独り言


トマトと鶏肉を炒めたような色の夕陽
照らされる濃墨の木は背景に切り替わる

 

 

彼はその木の前に立って
ただ空を眺めているだけ


烏の行方もわからぬまま
犬と猫は彼を眺めているだけ