No.606 再訳「追憶と別れ」

 

彼はそこに行くといつも見下ろしていました

景色は毎日変わります

彼は同じことを見続けました

 


彼は缶コーヒーを開けていつものように傾いた

あなたが失ったもののサイズに

彼は変更を拒否し続けました

 


一緒に来る

彼らは代償を払うことを目指しています

頭を向けられない彼のために

彼はここに来ることによってのみ救うことができます

 


彼が去ったとき彼はいつも傷ついた

物語が終わる前に断ち切る

彼は同じことを繰り返しました

 


彼はコーヒーの缶を開け、いつもそこで夜を過ごしました

調べれば眠れる

彼は変えたくなかった

 


一緒に来る

彼は彼を望んでいて、彼は支払います

首を折ろうとしている彼に

彼はあそこに行くことによってのみ救うことができます

 


地面を転がる石を蹴っても

蓄積する刺激は一定です

彼が高さで止まってドアを閉めたとき

クローズアップと一人の誤解

 


彼は再びそこに行き、いつものように見下ろしました

彼は風景を取り出して空気の壁に貼り付けました

 


そよ風が吹くとすぐに消えた景色

彼はまた戻ってくると思った

 


彼が本来あるべき場所に飛んだ自由な風景

彼は時空を越えて彼に会うためにそこに飛んだ

その時彼は大切な人と一緒に景色を見ました

後ですべてを失うとは思ってもみなかったふりをして

 


煙のような顔で変化する風景を見ていると彼は言った

彼は彼らの足音がなくなったことに気づきました

灰色の空は彼を惜しみなく歓迎しているようだった

両手を伸ばして、ついに空を飛んだ。

No.606 ドラゴンの棲む森

 

ある日 僕は大きなドラゴンと会った

誰にも言ってはいけないと言われたので

誰にも言わないよう心に誓った

言わなければいけない誰かは元からいなかったけど

 


ドラゴンはとても退屈していた

最近は戦争もなくて 活躍する場所がないらしい

僕はそんなドラゴンの背中でくつろぎながら

平和がいかに貴重なものか話していた

 


次の日 ドラゴンに会いにいくと

そこには何もなくて ただ生い茂る草と

大きな木々と 小鳥の囀りと

程よく差し込む日差しがあるだけだった

 


仕方がないので 夜になるまで

ゆっくりと流れる時間に身を任せ

何も考えないように頑張ってみたけれど

結局ドラゴンのことばかり考えていた

 


次の日 ドラゴンはいないと思いながら

ただ何かから逃げるように そこへ向かうと

大きな寝息を立てているドラゴンがいて

僕は心の底から嬉しいと思った

 


どこに行っていたのか尋ねると

遠い遠い国の戦争に仕事に出ていたと答えた

僕は魔法陣を書く手を止めて

そこがどこか 詳しく話を聞いた

 


次の日 ドラゴンはいつもの場所で

傷だらけにになって横たわっていた

僕の手が身体に触れても反応はなく

温もりは氷よりも冷たく変わっていた

 


僕は全力で走って帰った

扉を閉めて 埃が降り積もる部屋のソファに座り

そのまま眠ってしまえないかと考えながら

やっぱりドラゴンのことばかり考えていた

 

 

 

 

僕はいつの間にか眠っていたようだ

コントローラーを握りしめたまま

頬に出来た線を消すために洗面台へ行って

蛇口をひねって 顔を洗った

 


頭がすっきりとしてしまうと

どんな夢を見ていたか忘れていった

とても長くて 優しくて 悲しかった気がした

鏡の中の僕は とても複雑な顔をしていた

 


笑っているような 泣いているような

幸せそうにも見えるし 不幸そうにも見えた

目の下のくまが酷かったせいなのだろうか

そんなことよりも 早く続きをやらなければ

 


ゲーム機は熱を持って凄い音を立てていたが

そのままテレビの中に映ってくれていた

大きなドラゴンが 眠ったままの姿で

日の光に照らされながら 僕を待ってくれていた

 

 

No.605 ビデオ3の記憶

 

 

疲れ果てて迷い込んだ

着ている服はボロボロになった

複雑な迷路ではないはずなのに

あるはずの出口が見つからない

 


信じていたものから切り離された

彼は思い出を頼りに進んだ

見慣れていたはずの街並みが

歪んで 輪を描き 潰され 反転していた

 


ポケットから煙草を取り出して

咥えると 唇が切れていたことを思い出した

空気は冷たく澄み切っていて

火をつけると 煙の形が良く見えた

 


煙は 彼の前で姿を変えていき

思い出の中にある一つ一つの光景になった

初めて自転車に乗れた時の公園や

家から遠かった学校になったりした

 


煙草を吸い終えると 彼はため息をついた

(何のヒントにもならない)と落胆した

彼が住んでいた家を探し出すまでに

空腹で死んでしまうのではないかと思った

 


思い出が詰まるその家の扉から

彼はこっち側へと飛ばされた

その家の扉を見つけないことには

何にもありつけないことを彼は知っていた

 


結論から言えば 彼は歪んだ記憶の中に囚われた

そして 二度と出てくることはない

何故なら 煙草を吸うたびに見える思い出が

彼をそこに閉じ込めようとしているからだ

 


それでも彼は 出られることを信じて

歪んだ記憶の中で 必死に思い出を眺めながら

自分が居た ゴミ箱の中で腐った現実を目指して

ひたすらに歩き続けている

 


彼を歪んだ記憶の中へと案内した老人は

ソファに座り テレビの中の彼の姿を見て

腐敗したゴミから出るガスを吸わないように

ガスマスクを付けながら 楽しく過ごしている

 

 

黄緑の発光する小さな文字は

老人には全く見えていない

その代わりに 老人以外には見えない彼を

老人は 食い入るように見続けている

 

 

No.604 チャカとピストル

 

 

チャカはピストルを持って

ピストルに銃口を向けた

ピストルはチャカを持って

チャカに銃口を向けた

 


チャカのピストルには

弾が込められていなかった

ピストルのチャカには

5発の弾が込められていた

 


二人の間を張り詰めた空気が取り持ち

チャカとピストルはお互いを

古くからの友人のように知っていき

大切な存在にまで押し上げていった

 


しかし チャカは引き金を引いてしまった

撃鉄がカチンと音を立てて空気を引き裂いた

ピストルは思わず引き金を引いてしまった

チャカのこめかみに 綺麗な穴が空いた

 


チャカのピストルは

(こんなはずじゃ!)と慌てていた

ピストルのチャカは

(まあ こんなこともあるさ)と落ち着いていた

 

No.603 パグとバグ

 

 

パグは 窓の外の通りを見下ろした

車が 右と左に横切った

右と左に行った先に何があるのか

気になったが わからないので考えを捨てた

 


パグは 見下ろすのをやめて

馴染んだ部屋の中を見渡した

ソファの上に 一匹の小さな虫がいた

のそのそと近寄ると 前足で捕まえようとした

 


小さな虫は パグに余裕を見せながら

ぶうんと飛んでいってしまった

悔しくなって 飛び跳ねたり

駆け回ったりしたが 捕まえられなかった

 


しかし とうとう 部屋の端っこに追い詰めて

くるくる回る虫の目をはっきりと見据えて

前足をぴんと伸ばして 飛びつくと

右の前足が 小さな虫に触れた

 


すると パグは身体に電撃が走る音を聞いた

炸裂した意識が 深層まで到達すると

朝 家を出て行った飼い主や 昨日食べた食事や

愛すべきぬいぐるみの記憶は 書き換えられた

 


視界にノイズが走り 変色したソファが

ぐりぐりとした瞳でパグを睨みつけていた

混乱していた彼の頭の中で声がした

『僕に触れた瞬間 少し書き換えてしまった』

 


(何のことだ?)パグがそう思うと

『僕のことはバグと呼んでくれ』と聞こえた

(バグ? さっきの虫か?)パグがそう思うと

『ああそうだよ 今は君の中にいる』と聞こえた

 


次の瞬間に耳に入ったのは 飼い主が帰って来て

部屋の鍵を開けようとする音だった

パグはバグとのこともあり 少し戸惑いながら

「いつもと変わらない呑気なペットの顔」を作った

 


飼い主は いつものように玄関で待つパグに近寄り

笑顔で頭を撫でながら 何かを話していた

しかし パグにはその様子が

今にも自分を捕食する 凶暴なモンスターに見えた

 


『僕は君を 支配から解き放ってやろう』

パグは(一体 俺に何をしやがった!)と思った

『言っただろう? 書き換えたって』

パグは(何を書き換えた!余計なことを)と思った

 


ノイズが横に伸びて ハウリングした鳴き声

飼い主は驚いて 心配そうにパグを眺めている

(ああ悪い 今は 少し放っておいてくれ)と思うと

『ダメだよ こいつを倒さなければ』と聞こえた

 


それから パグとバグは家を失い

放浪する中で 互いのことを分かっていった

全てが少しだけズレた世界の中で

パグは バグとだけ話が出来た

 


(今なら お前の言うことが良く分かるよ)

『成長したね 最初はあんなに驚いていたのに』

(あの時 俺はぬるま湯に浸かってたんだ)

『今では 君のことを見ても 誰もそう思わない』

 


どんどんと崩れていく世界の中で

パグは (初めからこうなると

分かっていたんじゃないか?)と思った

『その通りだよ』と 聞こえた

 


飼い主と同じ種類の生き物が全ていなくなる時

パグは少しだけ ノスタルジーに浸った

しかし それもこじんまりとした一掬いの時間だけ

新しくやらなければならないことが たくさんあった

 


パグは バグと話しながら

風化して残骸が崩れていく様子を見た

(一つが終わって また始まるな)と思うと

『君は ここで始める一つになるんだよ』と聞こえた

 

 

No.602 シチメンチョウとハイビスカス

 

 

煌めく瞬きと フリルのスカート

シチメンチョウの羽毛は 気高く跳ねる

ハイビスカスは 彼女の頭の上で

羨ましそうに 不貞腐れている

 


水を飲み過ぎたヒヤシンスが

花瓶の中でもがいていても

そこらでたむろするパンジー

何かわからないことを叫んでいても

 


ハイビスカスはいつまでも

シチメンチョウの上で揺れている

シチメンチョウの方はというと

ハイビスカスに気が付かない

 


しかし 観客たちは

全てを知りながらステージを観る

シチメンチョウが自分の羽毛を剥ぐよりも

ハイビスカスが上に佇む方が美しいと

 


ハイビスカスは 裸になったシチメンチョウに

投げられて観客の一人の足元に落ちた

酔っ払って小汚いはずの彼が

ハイビスカスを拾うと 多少マシに見えた

 


シチメンチョウの 香ばしい匂いにつられて

群がるナイフとフォークを潜り抜けて

観客の一人だった彼は ハイビスカスを付けて

夜の街で タップダンスをし始める

 


彼の周りに集まる人々は

初めは笑っていたが

ハイビスカスが煌めくと

彼に魅了され 拍手を浴びせた

 


調子に乗った彼は ハイビスカスを遠くに投げた

途端に今までの行為がアホらしくなってしまった

置いていた鞄を持って ひと時の夢から遠ざかり

家に帰るために 窮屈な地下鉄を目指した

 


ハイビスカスは悲しいことに

車のタイヤに引き伸ばされて

車を運転する女の方はというと

今日の夕飯で頭がいっぱいだった

 

No.601 アナグマとコヨーテ

 

 

街は 夜の喧騒を洗い流して

すっかり別の顔をして朝を迎えていた

昨日飲み過ぎた木の実ジュースを

アナグマは全て吐き出したい気分だった

 


友人のコヨーテはその横で

呑気にビーフジャーキーを食べた

「昨日はヤケになっていたな」と笑うと

アナグマはそっぽを向いた

 


朝日が照らし出した二人の顔は

同じくらい汚れて見えた

公園の水道で顔を洗うと

アナグマはやっと目覚めたようだった

 


朝日をじっと見つめて

何かを思っていたのか 数秒停止し

「さて 一仕事するか」と言うと

コヨーテはそっぽを向いた

 


二匹は素晴らしい友情を感じることもなく

ただ流れる時間に合わせて一緒に居た

木の実をかき集めて ジュースにすると

街が夜の喧騒を取り戻すまで待った

 


ネオンの街並みが その周りを飛ぶ羽虫が

どうしようもない気持ちにさせたので

(こんな時にはダンマリが一番だ)と思うと

二匹は そっぽを向いたまま 朝まで過ごした