うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所

No.147 前を向いて歩く彼

(彼に何と言えるだろう
振り向くこともなく
ただ前を向いて
足早に去って行く彼に)

 

僕と彼は 顔も知らない頃から友人で
ついこの間 実際に会うことが出来た
誰もいない喫茶店の中で
彼は僕に大き過ぎる夢について話した

 

「話をしていてもつまらない」
僕らはにぎやかな街に繰り出して
行き交う人々が何を考えているか予想して
くすくす笑いながら 目的もなく歩いた

 

晴れ渡る空がアスファルトを照らし
その光があまりにも強過ぎて
僕らはしかめっ面をしながら
にぎやかでなくなる地点まで歩いた

 

そこまで歩くと僕は彼の顔に
不穏な影を見つけ 彼に質問をした
「何か不安なことでもあるのか?」
すると彼は その影を隠して微笑んだだけだった

 

彼は次の日に消えた
僕はまた二人で出かけようと言ったのに
彼は何も言わずに消えてしまった
次第に彼の顔すら思い出せなくなっていった

 

彼は大き過ぎる夢を叶えたのだろうか
大き過ぎる夢に潰されてしまったのだろうか
大き過ぎることを自覚して
全てを諦めて消え去ってしまったのだろうか

 

ただ 彼は前を向いて歩いていただけ
僕はそこらの街路樹のようなものだった
通り過ぎればどうということはない
彼は木を見るために振り向くことなどなかった

 

僕は自分が前を向いているのか不安になった
どこも向いていない気さえして下ばかり向いた
後ろにも前にも 右にも左にも 上にも下にも
僕の居場所なんてないと感じるだけだった

 

No.146 朝

 

たまらなくつまらない朝
たまらなくくだらない朝
相変わらず訪れる朝
なんの用事もない朝

 

朝だ
太陽がカーテン越しから
朝だ と
うるさく喚いているから

 

僕はしっかりとまぶたを閉じて
それを聞かないふりをして
寝付きの悪い頭の中をかき混ぜ
うつ伏せになろうともがいている

 

滑稽な光景だろう
この姿は誰にも見せられない
布団と一体になって溶け
死んだように朝をやり過ごすのだから

 

昼になれば暑くもなる
朝はただ冷え込むばかり
夜になれば目も冴える
朝はただ冷めゆくばかり

 

平日も休日も朝はしみったれて
憂鬱と退屈の間を行ったり来たりする
僕はやけになる気力もなく眠り
やれたはずだったことをまた一つやめる

 

だからこそ朝がある
僕の無駄な時間がそこにある
つまらなくくだらなく
ただただ空虚な朝がそこにある

 

No.145 徒者

 

眠れない夜に手を合わせて彼は歩いた
燃え盛る街並みと狂気のネオンを眺め
靴音を強調しながら自己暗示をかける
車のクラクションで思い出される光景

 

彼は子供の頃に車に轢かれて骨折した
疼きだした右の足を眺めながら歩いた
野良猫に睨まれて夜明けを待つ宿無し
煙草に火を点ける代わりに財布を渡す

 

雨上がりのアスファルトの感触が固く
彼の靴底を削り取るようにへばり付く
愚かな屑籠の虫に栄養を取らせるため
食べかけのハンバーガーを中に入れた

 

孤独を食い荒らす誘惑に耐えかねたら
彼は狂気のネオンに見惚れてしまった
名前も知らない女を探す夜の憂鬱には
甘美な響きだけがこだまして消えゆく

 

隠れた星の代わりに煙草に火を付けて
自分が雲の製造機だと彼は言い聞かせ
手を繋ぐ儚そうな恋人達の後を尾けて
朝が訪れるまで虚無感と共に過ごした

 

 

No.144 無題

 

からからと 音を立てて

転がる空き缶 風が強く

少しだけ分厚い上着で

誰もいない山道を通る

 

このまま土に帰るまで

木の下で 眠っていたい

誰かへの思いだけ残り

空気の中に 溶け出して

 

  やがて昇って行くだろう

  寂しさも紛れゆくだろう

  僕のこの思いが 透明に飲まれて

  霞んでゆく 淡く儚く 掠れてゆく

 

空気の中でもがいても

誰にも聞こえやしない

遠くに住む優しかった

誰かへの言葉を囁いて

 

空を突き抜けてゆくと

星の海の中で泳いでは

誰かに見える星座へと

流れるまま身を任せる

 

No.143 おろかもの

 

たくさんの頭で考えていた

たくさんの景色を思い出していた

少年と少女は 手を繋ぎながら

辿々しく ただただ 歩いていた

 

目まぐるしく流れた日々に

石を投げても自分に跳ね返って来て

硝子は割れることなく 少年と少女は

狭苦しい場所を歩いていた

 

言葉だけを並べても伝わらない

仕草だけを眺めても分かり合えない

二人は寄り添って そして離れた

枝についた葉がひらひらと落ちるように

 

悲しいことに 少年と少女は

別々の道を行かなければならない

それでも石を投げていた頃より

少しだけ広い場所を歩いている

 

「僕と君は変わらなければならない」

言い聞かせる歌は ただただ辿々しく

「いつかこの先で会えると良い」

別れの言葉を胸に 歩き続ける

 

No.142 永い独り

 

夏が終わり 安堵している

日の光に目が焦げることもない

永遠の冬 雪のない田舎で

僕はただじっとしていたい

 

冷たい外気に触れぬように

毛布にくるまって数を数えて

誰に咎められることなく

朝と夜を交わしていきたい

 

そして訪ねる人があれば

数十個ある鍵を開けて

「すこしキュウクツになったなぁ」と

狭い部屋の中で語り合いたい

 

世間から切り離されて

何もない部屋の中で

愛が生まれるなら そのままにして

夢を見るならば 毛布を分け与え

 

そんな毎日を

ただ過ごしていたい