うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所

No.190 サイレン

 

涙を啜る音でサイレンの音を掻き消す

 

ひび割れた硝子の向こうで子供が遊んでいる

 

蛍光灯が死んでいる時は外も明るい

 

カーテンを閉めれば気になるものはない

 

シフトを書き込んだノートを眺めながら

 

黄ばんできた壁に もっと煙を吐き捨てて

 

啜った涙を洗面器に流して 部屋を見渡す

 

一人には広過ぎる 二人には狭過ぎる

 

喉の渇きを潤すために 熱湯を注ぐ

 

コップを腹に当てて 目を閉じて座る

 

サイレンの音がまた聞こえてくる

 

涙を流すために 音楽を流す

 

誰かを責めるための言葉を探す

 

意味も無く冷蔵庫を開けて 冷気を吸い込む

 

サイレンの音がまた聞こえてくる

 

サイレンの音がまた聞こえてくる

 

サイレンの音がまた聞こえてくる

 

サイレンの音がまた聞こえてくる

 

No.189 皮

 

人と人とを結ぶものがあるとすれば

それが言葉であることは明白だ

だから準備をしなければならない

継ぎ接ぎだらけでも まともに見えるように

 

君は身の丈にあった服を着る

はい と いいえ はポケットにしまっておけ

そして何より重要なのが

その服が受け入れられる色であるかどうかだ

 

君は奇抜になってはならない

出る杭を打たせて仕舞えば きっと潰れる

先端を隠しながらコートの裏に隠し

いざとなれば相手の靴を貫通させれば良い

 

君は皮を被るように服を着れば良い

自分の身体だと思えば可愛いものだ

そして相手によって着替えれば良い

けっして本当の皮を見せてはならない

 

君は言葉に支配された人のことを

信用してはいけない 何故なら

相手だって君のように本当の皮を見せない

いつだって服を着たままでいるのだから

 

君は皮を剥ぐ思いで 服を着れば良い

決して痛くは無い ただ慣れてゆくだけだから

君は皮をなめし革となれば良い

頑丈になれば どう見られようが構わないから

 

そして君は 自分の皮を忘れれば良い

その方が楽だ 忠告はしたぞ

革になるまで 腐ることなく鍛える

その方が幸福だ 忘れるな

 

私はそんなことはしないが

良い人間の皮を着て歩けば良い

私はまっぴらごめんだが

良い人間は好かれる その方が良い

No.188 センチメンタル

 

空になったペットボトルを潰そう

台所に積まれて 悲しそうだから

白紙に戻せないノートを千切って

懐かしい詩と 一緒に捨てよう

 

変わりゆく全てに思いを馳せるより

変わらないものの方が心地良いのは

きっと 忘れるために思い出して

思い出すたびに忘れようとするから

 

当たり前のことと笑って欲しいのに

愚かな人を笑うのは悪とされる

それならば一緒に泣いて欲しいのに

愚かな人と泣くのは嫌だと言う

 

気付かれ無いのならば

せめて遠く 遠くへ行きたい

青い海と青い空の間の

小さな島の 小屋に住みたい

 

空になったペットボトルの中に

煙草の吸殻 そして余ったコーヒー

白紙に戻せない思い出を千切って

懐かしい人と 一緒に捨てよう

 

 

考える夜は 眠れずに朝になる

解けた紐は 結ばれずに糸になる

小さな拘りを捨てきれないままに

台所の前で 蛇口の水滴を数える

 

No.187 霧の晴れた街

 

霧の中に立つ男

瞳の中に秘めた想い

煩わしいものから解き放たれた

さて 目指すは霧の晴れた街

 

夢見心地の女が言った

「私と踊って騒ぎましょう」

男は黙って歩いて行った

「黙りこくって気味が悪い」

 

キーが刺さったままの車の方へ

こつり こつり と近付いた

中に置き忘れた手紙があった

開いたドアからそれを取り出した

 

男はその手紙を読んでしまった

その手紙に何が書かれているか

それはさして問題では無い

男は 手紙を最後まで読んでしまったのだ

 

それからというもの

男は霧の中に身を潜めることに決めた

何も言わずに 何も感じずに

通り過ぎる人々を眺めていた

 

霧の晴れた街を忘れようとしても

女の声が耳にこびりついていた

もどかしく感じて右手を掻くと

そこにはどす黒い模様のナイフがあった

 

男はそれを遠くに投げた

それは霧の晴れた街に落ちて 音が鳴った

通り過ぎる人々の数人が霧の方を見た

霧しかなく 何事も無い様子でそいつらはまた歩き始めた

 

雨が降った そしてやんだ

男はもう何処にもいなかった

霧の晴れた街と 霧の境目が消え

全てが太陽に晒され 輝いていた

No.186 飛ぶ脳みそ

 

急ぎ足で何処へ行く

脳みそが 音速で 何処かへ びゅう と

 

足元確かめて 手元も確かめて

つりそうになったから ひたすら伸ばす

 

急ぎ足で出て行った

あいつが 光速を 超えたら びゅん と

 

足元硬くして 手元も硬くして

つりそうになっても ひたすら耐える

 

帰りを待つのは嫌だけれど

数えてみれば待ち惚けだらけ

こんな人生と嘆くよりは

どっかに脳みそ飛んで行け

 

帰りを待つのは寂しいけど

数えてみればいつも寂しい

こんな青春と嘆くよりは

どっかに脳みそ飛んで行け

 

何処かで誰かを 乗っ取っても良い

そしたらその時はそいつになろう

足元も手元も酔っ払ってしまった

酒も飲んでないのに まだ昼間なのに

 

No.185 青梅線

 

青梅駅はいつものように殺戮の嵐

東青梅駅は悲しい雨が降っている

河辺駅は草臥れ老夫婦が手を繋ぐ

小作駅は金無しが金を探している

羽村駅は靴を磨く少年の霊が居る

福生駅は難しい顔の青年が首吊る

牛浜駅は切り刻まれた本のページ

拝島駅は陰ある背中を晒している

昭島駅は忘れ去られて拗ねている

中神駅は嘘を常に喋りかけている

東中神駅は仲を引き裂こうとする

西立川駅はノスタルジーだけある

立川駅はいつものように殺戮の嵐

 

No.184 器用不器用

 

人を真っ二つに割ったとしたら

右に落ちるか左に落ちるか

横に切ったら 上か下かだ

どちらにしても まだまだ切れる

 

器用な人間を 不器用さが笑う

不器用な人間を 器用さがあしらう

器用/不器用 その切り口に

一輪の花を咲かせてみせよう

 

電車の中で 押し合いへし合う

人と人の間 数ミリの溝

安心も出来ない この時間帯は

女も男も 子供も老人も無い

 

細切れの肉片 擦れ合う音で

電車が走る 車輪は回る

器用/不器用 その真ん中で

ひたすら揉まれて 個性が失せる