うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所

No.286 首の痣

 

 

窮屈では無いはずなのに 息苦しい部屋

少し外を歩く 彼は良くなった気がした

何が良くなったのかは わからなかった

相変わらず喉には 鉄球が詰まっていた

 


疑え疑え 死ぬほど酷く赤くなった辱め

あいつらはまた 絞首台へと誘っている

貫け貫け 死ぬほど痛い丸く尖った左手

あいつらはまだ 油断をして笑っている

 


暴力を愛してしまわないように 妄想で

平和ボケさせるために モールで飾った

まるで 誰かの誕生日のような頭の中で

狂った日本語が スケープゴートを探す

 


悪口と戯言に挟まれた 弱音が丁度良い

引き裂いてしまえば 鉄球は飛んで行く

絞首台に彼以外の男が立ち 泣いている

時間というものは 案外解決してくれる

 


部屋に戻って キーボードを鳴らしては

また 見つかりづらい場所へ隠れている

鉄球は 絞首台の上の男の顔に変わって

気楽そうな彼を 穴があくほどに眺める

 

 

No.285 誰か

 

 

(二日酔いのような体調で目覚めた

酒なんて一滴も飲んでいなかった

彼は遠くの街で実家の仕事を継いだ

私は私で何かを始めようとしている

 


先月は7日間を1000円で過ごした

パンの耳に砂糖をかけて食べた

穴の空いた障子から見える景色が

やけに浮かれている気がした)

 


そんな誰かを想像ばかりしている

現実はもう少しましに過ごしている

過去を掘り当てると宝のような貧しい日々

哀れむ人も傍に寄り付かない日々

 


水滴を残して その日々は過ぎた

その水滴はたまに頭の湖に零れる

そうすると音は響きわたり 波紋を作り

それがわかるとまた誰かを作る

 


(一体何から始めたら良いのだろう

まともに考えることも出来ないでいた

始めようとしているだけで偉いと

学校の先生に言われた と嘘をつく

 


言い訳は私の特効薬になった

ソファベッドはいつも同じにおいがした

くだらない番組をやる時間ではないので

何となく目をつぶると深夜に目覚めてしまった)

 

 

No.284 要らない物

 

 

飾ってあった土産物を捨てている時に

彼は鼻歌を歌う 楽しげに

ハワイで買ってきた友人は もういない

少なくとも彼にとっては

 


サーフィンをしている少女は笑っている

腐ってきたバナナの皮の上で

友人の笑い顔すら 思い出せないので

何も感じずに 彼は袋を縛った

 


ゴミ捨て場の扉が壊れている

中に放り込んで家の中へ戻る

彼は何を捨てたのか もう忘れている

誰にとっても他人なんてそんなものだ

 


捨てて捨てられて 物はやがて無くなる

その時に残るものなど大した問題ではない

けれども彼が友人にあげた土産物は

まだ机の上で笑っている それを彼は知らない

 


知ったところで彼は思い出すことも無く

後悔をすることも無いだろう

氷の中で育った瞳の影が揺らめく

氷が溶けたとしてもその影は消えない

 

 

No.283 独

 

 

古びた街並みが 通り過ぎる男を眺めていた

彼は見向きもしない

 


夢に出てきそうな 奇抜な喫茶店

現代美術を飾る ギャラリーでさえも

彼の目には止まらない

アスファルトばかり見つめている

 


彼は 呟いていた

聞き寄れない声で何かを

二駅ほど 歩いている間

ずっと同じことを

 


近付いて耳をすましても

きっと彼には 気付かれないだろう

彼は大切なものを失って

目まぐるしく変わる世間から外れた

 


改札の前で立ち尽くし

残りの金を数えた

あと二駅乗るには十分だったが

じっとしているとまた失いそうだ

 


そうやって彼は歩いていく

自宅に帰るとまず鏡を見る

見慣れているはずの顔すら

知らない誰かに変わって

 


叩きつけるように 服を脱ぐと

彼は項垂れて泣いた

その時でさえも 呟いて

呼吸を整えようと息を吸った

 


乾いた空気が喉に引っかかり 痛みが走った

その時にふと もう過去には戻れないと悟った

充血した目で 額にタオルを当てて

今度は息を止めてじっとしていた

 

 

No.282 一雫

 

 

人との関わり合いを避けるあまり

孤独を愛してしまった男がいた

彼は誰よりも乾いた息を吐いて

その息をも白くする季節を嫌った

 


一年という時間は短く

季節というものは儚く

巡り来る苦しみの中で

一雫でも何かを垂らせたのなら

 


涙は渇く 出来事は全て置き去りで

彼は 思い出すら全て置いたままで

薄い布団とボロボロの毛布の下で

死体のように眠ることを幸福とする

 


誰かが彼を指さして笑ったとしても

彼は誰にも指をささないだろう

それは彼の中の唯一の人への思い

(黙っててやるから 黙って過ぎ去れ)

 


彼の全てが乾く頃には

孤独も乾き切ってしまっていた

その時に初めて彼は全ての点と結び付き

何かの一つとして垂れていった

 

 

気まま日記 2/25

 

 

映画館に行って映画を見たい。

新感染はNetflixで楽しく見たが、やっぱり映画館に行きたい。

 

 

今日は録画していたドキュメンタリーを見て、化学物質過敏症を初めて知った。

微量な化学物質にも反応して、症状が出てしまう病気だ。

頭痛、吐き気、目が腫れる、呼吸困難、うつ、様々な症状に苦しむ人々を、カメラは映し出していた。

いつも、人の苦しみを見て、悩んでしまうことがある。

それは、可哀想と思う感情についてだ。

 

画面に映る人の苦しみを見ると、なんとも言えない感情が巻き起こる。悲しく、切なく、やり切れない。

でも、可哀想と言ってはいけない気がする。

 

僕は人が生きるだけで凄いと思っている。

可哀想と、こちらが上に立つことはしてはいけないというある種の決まり事が、僕の中にある。

 

可哀想とは、僕にとって嫌な感情だ。

彼女ら、彼らをそう思うことは、果たして何の意味があるのだろうか。

そう思われたいと思って、カメラはその人たちを映し出していたのだろうか。

僕は、真実を伝え、理解を広めるためだと考えている。

病気のことを知り、理解することこそが、ドキュメンタリーの意味であって欲しい。

 

可哀想という感情に、矛盾や欺瞞があると思い始めたのは、何故だろう?

 

多分それは、自分が言われて嫌だったからだと思う。

家庭内での問題を世間が見て見ぬふりをして、僕の感情の行き場がなくなってしまった時、怒りはあらゆるものに向けられた。

可哀想だと思われることは不名誉だと思っていたし、今でも少しそう思ってしまう。

 

可哀想は優しさなのかもしれないなと、最近になって思えてくることもあるけれど、やっぱり良い気はしない。

 

とりあえず、そのドキュメンタリーが、とても良かった。

 

 

No.281 少年と磁石

 

 

反発する磁石を

少年は親指と人差し指で摘む

力をどれだけ入れたとしても

弾けて裏返るのが結末だ

 


少年は 友達が少なかった

親友などには 夢でさえ会えない

友達という言葉に嫌気が差すほど

話をするのも 聞くのも 苦手だった

 


そんな少年は 

家に帰って 磁石を付けようとする

同じ極を 毎日 毎日 毎日

繰り返し 親指と人差し指で摘む

 


少年がやりたかったことは?

意味の無い遊びだったのだろうか

同じもの同士がくっ付かないことは

少年の周りにも 溢れるほど多かった

 


少年と同い年 同じ学校

次男で我儘 ピーマンが嫌い

ここまで同じなのに

あいつと喧嘩ばかりしているなぁ

 


同じことのように感じた

少年は不思議でたまらなかった

磁石は違う同士がくっ付く

少年の周りには 消え入るほど少なかった

 


どのみち くっ付くことの方が少ないのだ

少年は諦めなかったが 結果は変わらない

それで良いと思えるようになった時には

とっくに少年は少年と呼ばれなくなっていた