うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所。

No.112 性の船

 

涙も出ないほど悲しい性

夢も見れない苦しい性

妄想の中の抑え切れない性

やがて沈みゆく船のような性

どれも同じ人物の中で
同じように収まる性

コップから溢れそうな水の上を
悲しさや苦しさを
抑え切れない船に乗る

性はまとわりつく衣のようで
汗を吸わない繊維は張り付いて
傷が付いてもすぐに塞がって
寝苦しい夜に締め付けてくる

喉が渇いたように何かを求め
探す当ては目の前の暗闇だけ
石の裏にいる虫のように
いつしか見つかることを恐れ
睨みつける天井はあまりに低く
酸素は少なくなり息も出来ない

性を捨てても楽にはならず
新たな性が糸となり身体を測る
ちょうど良い大きさの布になれば
型の通りに服に変わってゆく

涙もすでに枯れ果てた性

夢の見過ぎで変わり果てた性

妄想の中が溢れ出した性

だんだんと沈んでゆく船のような性

能面のような顔をして
こっちを見る人々が怖いから
一人きりになれる時間を探す
石を裏返す大きな手が見える

悲しさも苦しさも
抑え切れない船は
天井もなくなり 曇り空の下
隠れる石を探して進んで行く

No.111 短い散歩

 

気取った花が語りかける
「そんな顔をしてどこへ行く?」
寝不足で白い顔の僕は答える
「君のいないところに行くさ」

 

湿ったアスファルト
濃い灰色で不貞腐れている
水溜りは鏡のように雲を映し
僕の不機嫌な靴を描いている

 

切符を買っても宛先知らず
電車に乗ってもまた引き返す
うざったい声の烏が鳴いた
「お前の顔はくすんだ肌色」

 

チタニウムホワイトの絵の具で
顔を塗ってしまいたくなる
あとは赤で線を引けば
歌舞伎のようで馬鹿馬鹿しいだろう

 

気取らない電柱が語りかける
「そんな服を着て恥ずかしくない?」
寝ぼけてパジャマの僕は答える
「恥ずかしければ家に帰るさ」

 

湿ったフランスベッド
薄い灰色で不貞腐れている
水が出続けている蛇口の音が
僕の不機嫌な瞳を掻いている

 

切っても切っても落ち着かず
吐いても吐いても吐き切らず
陰気臭い声の蝉が鳴いた
「お前の頭はくすんだ茶色」

 

アイボリーブラックの絵の具で
髪を塗ってしまいたくなる
あとはクシでといてしまえば
テカテカ光って馬鹿馬鹿しいだろう

 

気取っても気取らなくても同じこと
花も電柱も明日には忘れるだろう
烏と蝉だけ部屋の中で飛んでいる
あまりに煩くて耳をイヤホンで塞ぐ

 

白でも黒でも変わらないだろう
赤で縁取っても僕は影になるだろう
色を塗っても吸い込んでゆき
どんどん影は濃くなって行くだろう

 

そうして鏡のように部屋を映し出し
僕は水溜りのように不貞腐れている

 

 

No.110 落書

ガラスの中の観葉植物が土に反抗する時は
鳴り止まない電話を切るように眠れば良い

蛍の光が届かない夜になったら
ペットボトルの中に水を入れて猫を避ければ良い

方位磁針の気まぐれを聞き過ぎて飽きたら
オイルの切れたライターを擦り続ければ良い

灰になった重要な書類を探し始めたら
ボールペンのインクをハサミで溢れ出させれば良い

苦しそうな夢を見ている子供を見たら
腹痛のフリをしてトイレに閉じこもれば良い

電子レンジが何かを温め続けるなら
コップの中の砂を飲み干せば良い

サラリーマンの悲哀を感じる夕暮れ時なら
有り金を使って出来るだけ遠くに逃げれば良い

No.109 鏡面


彼は形容しがたい思いで目を覚ました
どうしようも無いほど身体が動かない
重たくて固くなった身体を引きずって
鏡の前まで行くと彼は愕然としていた

 

何がどうしてこうなってしまったのか
彼の顔や身体は別人になっていたのだ
髭面の見たことのない男になっていた
彼は気が狂ったように叫び声をあげた

 

だがその声は空気を振動させなかった
彼の喉は酒に焼かれているようだった
声は蟻と会話が出来るほどの大きさで
彼は鏡の中の誰かを眺めるだけだった

 

恐る恐る顔に手を伸ばし頬に当てたが
覆面のような皮膚がたるんでいるだけ
元からこんな顔だったように平然とし
絶望した彼は鏡を殴り割ってしまった

 

破片が刺さった拳から血が吹き出たら
彼はその血をすすって涙を流していた
そうやって何年も朝に彼は彼を忘れる
夜には思い出し酒を飲み眠りに就いた

 

No.108 るうぷ

 

煙草の灰が太ももに落ちて
落ちたところが熱くて弾け飛ぶ


飛ぶように水をかけて冷やし
冷やしているときに悲しくなる

 

悲しい歌を歌ってしまおう
歌ってしまえば痛みもまぎれる

 

 

まぎれた人混みの中に入り
入った店はがらんとしていた


がらんとした店内のスノードームを
スノードームの中にいるように眺める


眺めながら視界はゆらゆら揺れて
揺れるのは涙目のせいだと決めつけた


決めつけられた人格を否定しながら
否定を肯定することで安心している


安心しながらも心を温めていっても
温められた心はだんだん乾いてゆく


乾けば喉が渇いたように水を求めて
求める先に蛇口があればひねって


ひねった言葉の中に矛盾を感じたら
感じるままに煙草に火をつけている

 

 

煙草の灰が太ももに落ちて
落ちたところが熱くて弾け飛ぶ


飛ぶように水をかけて冷やし
冷やしているときに悲しくなる

 

哀しい詩を詠ってしまおう
詠ってしまえば痛みもまぎれる

 

No.107 映画

 

部屋を暗くしてテレビの近くで
寝転がりながら映画を観ていた

 

外は土砂降り 叩きつけられた雨
映画の音を遮るほど響いている

 

夕暮れが過ぎて やがて夜になる
外の雨は弱まることはなく
映画は流れ続けている

 

疲れ果てた目が反射的に涙を流しているのか
疲れるほど悲しい映画が涙を流させるのか

 

台詞が頭の中で反響する
音楽が頭の中でかき混ぜられる
映像が頭の中に描き写される
物語が頭の中に刻み込まれる

 

映画が頭の中でしっかりと根付いてゆく
そしてそれは枯れることなく
青々とした葉をつけて風に揺れている
しかし現実の雨が止むことはない

 

現実から離れることこそが
痛みを紛らわすために必要なことだ
そして頭の中で根付いた映画たちは
現実を加工して装飾してゆく

 

記憶はどんどん映画のようになり
映画はどんどん記憶の代わりになる

No.106 シケモク

 

湿気った煙草は重苦しくて美味い

悩ましい考えごとの結果は意味も無い

スクラップブックのようなアルバムの

行けなかった卒業旅行が煙になる

 

笑顔だらけ切り取って貼り付けて

良かったなんて思えるはずも無い

全て雨に濡れて湿って錆びて仕舞えば良い

屑鉄の山の上で寝そべれば良い

 

ノスタルジーに中指を立てた時

寒気を感じて振り返ってしまう

恥の上塗り アクリル絵の具のように

乾くと耐水性になり落ちることは無い

 

湿った煙草が苦々しくて不味い

悩ましい過去が結果として今となる

スクラップになってしまいたくなれば

行く予定であった旅行が煙となる