うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所

No.220 無題

 

 

無機質な眼差しが捉える

彼は微動だにしない

生きているのかすら定かではない

ただ 硝子玉のような瞳はこちらを見る

 


品定めが済んだら

値段を書いたネームプレートを渡され

黒い壁の部屋に通され

彼はそこまでの案内役を務めて消える

 


誰かの声がする 二倍 三倍と膨れ上がる

その度に価値が変動することだけがわかる

消えたはずの彼の硝子玉のような瞳が

黒い壁に反射して見える

 


その部屋から出ると 新しい主人に迎えられ

ニヤついた顔に 頭を下げるしかない

値段分の金を支払ったそいつに付いて行く

そして黒い壁の部屋より暗い夜道を進む

 


彼の眼差しが脳裏にこびり付く

振り落とそうとしても大切な思い出しか落ちない

黒い部屋で見た瞳は自分のものだと気付く

今更どうしようもなく 新しい主人を頼るしかない

 


新しい主人は車のキーを回す

それをただ呆然と眺めていたが

無機質な眼差しで完璧に捉えてみる

従順であることが生きる意味だと知る

 

 

No.219 無題

 

 

ただ一つとして同じものは無いのなら

惑わされてはいけないと彼は言った

理解し合う必要は無いと 彼女は考え

彼の元を去っていった 彼は悲しみに暮れた

 


扉を一枚隔てて 彼女がいるような気がして

彼は問い続けた 答えは無いと知りつつ

 


少し掛け違えただけで あまりにも

変わりすぎてしまうことが多過ぎて

彼は自分で言った言葉の意味も

わからないまま藻掻くだけ

 


窓の向こうで 小鳥が鳴いているのを

彼は責め続けた 頭の中が五月蝿いと

 


彼女を忘れる頃 彼は自分の言葉も忘れて

清々しそうに笑いながら 何処と無く寂しげで

それでも小鳥は鳴いていた 彼は気にも留めない

窓の向こうで 何か伝えようと鳴いていた

 


姿を変えた 悲しみが訪れる時も

小鳥は鳴き続けた 彼のためだけに ずっと

 

 

No.218 鉄

 

 

鉄を飲む もちろんそのままではない

サプリメントは気休めに思えるが

しかし 鉄が足りない 飢えている

舌や内蔵が頑丈であれば多少の錆でも と

 

 

鉄を食う もちろんそのままではない

刻み フライパンの上に油を垂らし

キャベツやもやしも入れよう

そしてバランスの良い鉄入り野菜炒めにしよう

 

 

鉄を飲む もちろんそのままではない

溶かし 血のように赤くなったそれを

分厚い煉瓦のコップに入れて

強靭な口内と食道に流し込むのだ

 

 

鉄を食う もちろんそのままではない

捏ねて パンのように丸め 熱し 冷ます

冷蔵庫に入れ 一晩寝かせる

それを朝に取り出し キノコのスープと共に

 

 

No.217 零時半

 

 

ストローで最後の一滴まで啜る音が

耳にこびり付いて眠れなくなるような夜

外で何が起ころうが気にすることもなく

ただ孤独に蛍光灯を瞳で反射する

 

 

特別なものだと言われたこの眼鏡ですら

鼻に跡を付けるものでしかなく

青い光など遮る余裕も何処へやら行ってしまい

視力も合わないピントに悩まされる

 

 

部屋は牢獄のように寂しく冷たい響きで

夜明けからの足音を届け続け

真っ白な壁や天井はフローリングに抵抗して

小さな四角になろうと縮み続ける

 

 

そうすれば茶色い椅子に座る一人の男を

中心にしたブラックホールになるだろうか

朝に登る太陽の光がそれを遮る

居なくなり続けることすら出来ないのは悲劇だ

 

 

No.216 ゴム

 

 

ありふれた一日に

少しだけほつれがあることを見つけた

彼はそわそわし始めて

何をするにも落ち着きがなかった

 


そのほつれは次第に大きくなってゆき

気が付けば彼と同じほどの大きさになった

するとほつれは彼を飲み込んで

この世ともあの世とも言えない場所へ誘った

 


それまで彼は イガグリで出来た壁に追われ

押し潰され 数ミリ感覚に模様が刻まれるようで

全ての物事から目を逸らす日々を送っていたが

今となっては ふわふわと軽やかで愉快だ

 


彼の風船のような命は破裂せずに済んだ

そして 文字通り風船のように浮遊した

大道芸人が良く作る犬が出来上がるまで

自分の身体を むぎむぎ と捻って遊んだ

 


彼は犬になった そして空も飛べた

地面や天井があるかもわからない空間を

たまに訪れる 吐息のような風に任せながら

行ったり来たり 気ままに過ごした

 


その誘われた場所が何処かわかる時まで

彼は小さな頃に見た大道芸人を真似た

花は簡単だったが 星は破裂しそうになった

彼は 破裂したらどうなるのか疑問に思った

 


しばらくして 彼は元の形に戻ろうと身体を捻った

鈍い音と甲高い音がして 彼は弾け 萎んだ

するとまた 少しだけほつれが生まれた

彼の破裂音に驚いた誰かが 彼の居た場所へ誘われた

 


慣らすように 丁寧に伸び縮みされ 軽やかになり

膨らんだ誰かは ほとんど彼と同じように過ごした

吐息のような風に任せて寛ぎ 宛もなく浮かび

むぎむぎ と幾つかの形に成り代った後に 破裂した

 

 

No.215 未明

 

 

朝焼けの前の青さに

吸い込まれた夜が

バイクの走る音に

最後を告げられて

 


街が反射する

カーテンの隙間から見える

何もかも 灰色に

燃え上がるこの時間は

 


心の中まで 

この灰に取り憑かれ

息をすることも 

恥ずかしくなる

 


寝相の悪さのせいで

台無しにしてしまった夜を

烏が遠くで笑っている

静かな部屋で冷蔵庫が唸る

 


冷えたような身体に

熱いミルクティーを入れ

喉が焼け 香りがしたら

僕は ピースを咥える

 

 

No.214 綿雲

 

 

君がどこへ行くのか

誰にもわからない

けれど君と僕は

出会わなければならない

 


空を見上げる

二度と同じ形のない君に

願いを乗せてみよう

美しい場所へ 君だけでも

 


雨の日には見えない太陽よりも

快晴では見えない君の方が

僕にとっては 悲しいことで

眩しさに 目を背ける

 


君と出会ったら

何を話せば良いのだろう

それとも君から

声をかけてくれるだろうか

 


迷う心も 揺るがない思いも

全てが風に流されて

美しい場所にさえ行き着ければ

僕は何も言うことはない

 


また変わり続ける君に会えれば

僕は何も言うことはない

 

 

そして僕は 変わらない思いを

君に乗せて 風にゆだね 時を過ごす