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うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所。

No.89 喫煙所

 

ビルとビルの間では

風が強いと聞いた

鼻に煙が入る事なく流されるから

煙草を咥えたままでいる

 

のんびりとした毎日だ

特に何に追われる事もなく

ただこなしているだけの日々だ

特に何から逃げる訳でもなく

 

たまに大きな何かに

追われてみたいと思う

そんな大きな何かから

逃げ出してみたいと思う

 

取るに足らない痛みの傷を

さすり続けてみたものの

痛みが紛れてゆくだけで

忘れてゆく事に慣れるだけで

 

つまらない 金がない

そんなことを呟くことにも飽きて

僕はただ煙草を咥えている

煙を吸うことも忘れて咥えている

 

 

No.88 小説の切れ端

・今書いている物語の冒頭です。まだ自分でもどうなるかわかりません。

 

午前一時〜午前二時


始まりはいつものベッドの上だった。「想像で物を言うな」という台詞があるが想像の産物こそが彼の住む世界だ。彼はいつも眠そうな顔で寝癖も直さない。そんな彼だからこそ想像の中でのうのうと生きていられるわけだ。
朝に始まり夜に終わる。そう簡単にはいかない。彼は夜行性の動物のように午前一時きっかりに起き上がる。ベッドの上で頭がはっきりと…かき氷を食べた時になるあのキーンとした痛みを感じるほどはっきりと…冴えてゆくまで座っている。目を閉じて彼は一言も発さない。何故なら、彼の周りには誰も居ないからだ。
一人で喋る時間は共通した特徴がある。イヤホンを耳にさして無音を楽しんでいる時だ。ラジオDJのように流暢に今日起きたことを語り出す。それは午後六時。いわゆる彼の「就寝前」に行われる。
そうだそうだ。始まりの話をしていたんだ。終わりの話をしてしまうと「今日起きたこと」がうやむやになってしまう。
まず彼は頭を冴えさせてから今日することを考える。仕事に行っても良いし行かなくても良い。どうせ想像の中なのだから腹が減ることもない。それならば何故睡眠をとるのか?そんなことは彼に聞いてもわからないだろう。何故なら彼は自分が想像の中に住んでいるという自覚さえないのだから。
遊びに行くにも金がかかる。いや正確に言えば「金はかからないが彼は自分をひどく惨めな身分だと思い込んでいる」というわけだ。
何をするにも彼を止める者はいない。切符を買わなくても駅の改札で引っかかることもなければコンビニからサンドウィッチと生ハムとサラダをごっそり買い物カゴごと頂戴しても誰に咎められることはない。
しかし彼は想像の中で自由を欲していない。束縛されて必要とされたがっている。あいにくそんな機会は生まれてこのかた一度もないが…彼は生まれて数週間目の新米だ…彼の中でもっとも大きく育っている感情だ。
いつも眠そうで寝癖も直さずのうのうと生きている彼は自分の存在意義を探している。しかも明確に。のうのうと生きているのではなく生き方を知らないだけなのかもしれない。彼は「考えていない」のではなく「どう考えていいかわからない」のだ。
恐ろしく深い眠りから覚めた後は苦いコーヒーを飲みたくなる。彼は甘党だが「豆から煮出した香りの強い飲み物」を飲む場合のみ砂糖を入れない性格らしい。しかめ面をしながら不味そうに飲んでいる様子から好きなわけではないというのがわかる。「飲みたい物=好きな物」ではないわけだ。
これは他の彼を取り巻く何らかにも言い換えることが出来る。「話したい人=興味のある人」でもないし「ハンバーグ=デミグラスソース」というわけでもない。彼はいつも「飲みたい物(苦いコーヒー)=好きな物(糖分)」ではないということに関して疑問を持ち続けていた。もしも恋人がいたとして「愛している女=大切な人」でなかったとしたら一体誰が彼にとって「大切な人」なのだろう?そんなことを考えてはいつの間にか一時間ほど経ってしまっている。
彼にとってはコンタクトレンズをはめることさえも重要な成長へのステップだ。まるで細かいロールプレイングゲームのように経験値を日々稼ぎまくる。彼の冒険は彼自身でさえも予想がつかない。そしてそんな出来事は午前二時に起きた。
そうは言っても一時に起きてから二時の間に特殊なことが無かったわけではない。彼の生活は発見の連続だ。そしてその発見の積み重ねによって彼は何かをわかった気でいる。
頭が奥の奥まで冴えまくって眠気というものが消え去る瞬間というのは心地の良いものだ。まず手を開いて閉じる。足の親指から小指に動かし小指から親指に動かす。良い感じだ。彼は寝言のような唸り声で朝食に何を食べたいか呟く。「トーストにバターと蜂蜜をトッピングしてやれ」。
タイマーが鳴り響く音が彼の今欲する最も強い感情に答える。食欲は午前と午後に関わらず人それぞれの時間帯で訪れる。彼は健気な赤ん坊のようにその音を待ちわびていたのでトーストはこんがりとそれに答えてくれる。
彼の家には冷蔵庫も洗濯機も電子レンジもトースターもある。贅沢な話だが電気代を気にしたことはない。彼の元に払込票の類は一切届かない。永久的に「電気」「水道」「ガス」「電話」「インターネット」さらには「家賃」を支払う必要が一切ない。現実を生きる人々からすればこれは素晴らしく羨ましいことだ。しかし彼はそれをありがたいとも思ったことがない。当たり前すぎるからだ。
彼は魔法を信じている。トースターでトーストを焼くのも何らかの魔法だと思い込んでいる。自動的にストックしてある食パンでさえ杖の一振りでもすればそこに現れると思っている。
先ほど払込票の類は一切届かないと言ったが手紙は頻繁に届く。今日も三〇二号室のポストを見てみると一通の手紙が入っていた。まだまだ明るくなる気配もなく佇む夜空の下で封を開いて部屋へと戻りトーストをかじりながらその手紙を読んだ。
「親愛なる友人へ。僕はもうダメなようだ。君が言ったように二つの心が僕の一つの身体を引き裂いてしまうのだろう。もうかれこれ二週間も同じ苦痛を味わった。君は元気にしてるか?元気にしてくれていないと困る。僕がこの苦痛に耐えていられたのは君が何の心配もなく生きているからだと言っても良い。友人よ。君はいつでも自由な心でいてくれ。朝目覚めたくなければ夜に目覚めれば良い。働きたくなければ遊んで暮らせば良い。生きたくなければ死ぬ方法を考えれば良い。君は真の自由の意味を知ることの出来る人物なのだから。___軽薄なKより」
いつものKだ。彼はそう思った。それ以外の感情は何も起きなかった。空腹を満たすトーストが腹の中で一体になるのを感じる。トーストが染み渡り指先と爪先が痺れてくる。これぞ幸福だ。毎日の当たり前の魔法が織り成す技だ。
彼の心配事といえば存在意義に対する疑問だけだ。それ以外はテレビを見れば何となく消え去る。耳の周りをうろつく蚊の羽音でさえもテレビを凝視すれば聞こえることはない。
彼はおもむろに携帯を取り出して今日の予定確認をする。「午前五時からバイト」とカレンダーのメモ欄に書いてある。彼は紙飛行機を作っては投げるだけのバイトや泥団子をピカピカに仕上げるバイトをしている。もちろんそれとは関係なく彼の口座には自動的に決まった額が振り込まれている。彼がバイトとして認識しているものは子供の遊びだ。
しかし彼にとってもバイトは退屈で憂鬱なものに変わりない。「今日もサボってやろう」と考えて取り出したのは三部作ある一本三時間越えのマフィア映画のDVDだ。
しかしそのDVDが再生されることは無かった。何故ならその時に来客を知らせるチャイムが鳴ったからだ。面倒臭そうに扉に向かう。まずドアスコープに目をやって相手が何者かを確認する。知らない男だ。スーツ姿で宗教の勧誘パンフレットを持っている。この手の来客は彼にとってとても厄介だった。しかし中で足音がするのと深夜番組の笑い声が聞こえるのとでスーツは中に彼がいることに気付いているだろう。しかし何故こんな時間に?彼は困惑していた。
「夜分遅くすみません。実は私グリフという団体のものでして…」ここからなんと一時間もの間スーツの宗教家の話を聞かされることになる。彼にとっては飛んだ災難だった。

No.87 ハキダメ処/

 

カーテンの 裾からさした 陽の光 浮かぶ埃と 晴れぬ心と/


夢の中 逃げれば少し 楽になる 悪夢にもなりゃ 覚めて安堵し/


窮屈な ベッドの上で 苦しがる 横の女は いまだ寝ている/


飲んでいる コーラを全て 捨てたなら 流しのにおい マシになるかな/


暗がりに ポツリと光る 赤い点 人魂に似た テレビの端っこ/


「ジャンパー」を 「アウター」表記に 切り替える 今まで着てた 服を捨てつつ/


俺の声 僕の耳には 届かない 私の声は お前に届かず/


書きかけの 絵の次の筆 探してる うなされながら 絵の具を足して/


売れぬ絵を 部屋に飾れば 満足し これで良いかと 夢も捨てつつ/


わけもなく 涙を流す 八時半 晴れぬ心は 腫れて膿みだす/


SFに のめり込んでは 移りゆく 季節の合間に アストロノーツ/


親しげな 得体の知れない 生き物が 姿見の裏 顔を出しつつ/


鼻をかみ ビニール袋 捨てたなら コンタクト入れ また眠りだす/


現実と 夢の見分けも 付かぬまま 働くことの 空恐ろしさ/


捨てられた 子犬のような 婆さんが 今もこっちを じっと見ている/


侍が 切って切られて 血塗られて 夢が覚めたら 固まる鼻血/


犬猫の 動画を見つつ 煙草吸い 負け犬気分で 猫にまたたび/


ハムスター 買う計画も 破綻して びくともしない 置物を買う/


一日の 無駄の仕方を 競い合い 完敗したら こちらの大勝/


過ぎ去った たまの休みも ほぼ眠り 疲れは取れず 腹も痛める/


特撮で ヒーローになり 悪を討つ 着ぐるみ脱いで 酒を飲む夢/


外人と 異星人とを ごちゃ混ぜに ペラペラ喋る 何十ヶ国語/


スライスし 薄くなりゆく 玉ねぎを 水に浸して アクを抜きつつ/


レタスなど やぶり流水 皿に盛る 上に蒸し鶏 今日の朝食/


昼になり ファストフードに 溺れつつ 通行人に あだ名を付ける/


不謹慎 言葉で全て 片付けて 笑顔で描く 反ユートピア/


通勤の 電車の中で 高いびき サラリーマンの おかしい悲哀/


靴の中 蠢いたのは 羽虫かな 昨日殺した 小さな俺か/


日向にも 日陰にもなる 今日の日は 行く末見据え 震えて困る/


ドア開く そして閉じたら また開く まぶたの動き 真似するように/


フェンス越し 見える景色の つまらなさ 四季はくだらぬ どこにでもある/


冬も散り 春が咲いても また散って 夏が咲いたら 次は秋かな/


体調の 優れぬ今日の 遅延には 誰かの恨み 晴らされた痕/


ホームには 一人で喋る 女だけ 二人っきりでも ときめきもせず/


各駅で 止まらぬ駅の 奥深さ こんな所に 霊の行列/


DVD 回る音には 脳内を 搔き乱したる アレが滴る/


集めたら 捨てて掃いてを 繰り返し ペットボトルの キャップの遊び/


制服で 敬礼すれば 様になる その頭から 血が出ていても/


借金の 形に心臓 奪われる 返せる日まで 死に顔のまま/


戯れで たわんだ皮膚を 捻る指 吐息交じりに 殺意の一つ/


怖がりを 馬鹿にされても 直さずに 叩く石橋 過ぎても叩く/


青空と 曇り空との 中間の 何とも言えぬ 空の色々/


ポスターの 絵の具乾けば かさぶたと 一緒に剥がし 何故か清々/


気味悪い 男の指の 絆創膏 丸めて捨てた 血を隠しつつ/


赤ん坊 泣いてしまって 睨まれて 母親探し 店をうろつく/


ガラクタの 城を崩して ほくそ笑む 錆がまわれば またほくそ笑む/


八分咲き 紫煙絡めて 待ち惚け 暗くなったら 散りゆく桜/


深々と 椅子に座って 目を閉じる 雑音の中 姿が消える/


空想の 大きさにさえ 怯えつつ 銃の感触 額に刻む/


中華そば 不味く作れば 客が来て 美味く作れば 客は遠のく/


埋もれゆく 記憶の彼方 砂と城 いくら掘っても 砂は減らずに/


狂おしく 咲いた花びら アスファルト 踏まれ踏まれて 押し花のよう/


ある日暮れ 些細なことで 腹を立て むず痒い腹 捌いて開く/


ボールペン ぐるぐる書きの 現代詩 破って捨てて 新しい紙/

 

No.86 Untitled

 

静寂を破って
どうしようもない罵声を
浴びせられるような
そんな気分になる午後

電子音の波がイヤホンから聞こえる
地を這うような低音が鼓膜を揺らす
誰よりも惨めで残酷な運命を抱いて
何処かに辿り着くまで穴を掘るような音

誰も知らない秘密を持っている
誰にも見せられない傷を負っている
誰かになりたいと思っている
誰かを陥れようと企んでいる

自分は自分だと証明出来るものが
この世に一つでもあるなら
情熱を注いで 命を費やして
今この時を飾り立て 彩ることも出来るのに

透明人間になった気がする
自分が何処を漂っているのかわからなくなる
せめてこの耳で鳴り響く音のように
何処かに辿り着くまで穴を掘れたら良い

悲しいことにそんな道具もない
虚しいことに誰かの手も借りられない
自分が自分であることを見失うほど
仮の自分が自分であると信じ込んでしまう

不安で押し潰されそうだ
煙草が身体中に巡り煙になりそうだ
不健康で不健全など構いはしない
堕落してこそ本当の自分になれそうだ

 

No.85 真空

 

煌めく理想郷そこから突き出る摩天楼
奇しい光を放つ一筋の涙のような流星
それはバラバラになった宇宙船だった
理想郷に囚われた人々は願い事を囁く

 

バラバラになった宇宙船に乗っていた
乗組員の男は宇宙に放り出されて漂う
太陽に近いからか少しだけ暖かく感じ
母の胎内にいるような気分がしている

 

本当ならば危機的な状況だったが男は
ただ今までの人生を振り返って笑った
「くだらない人生 くだらなく終わる」
それで良いと心は宇宙に紛れていった

 

星は親しげに開かれた目のように映り
太陽は最期を照らす蝋燭のように映る
胎児に還るような感覚に包まれてゆき
男は何もかも忘れ涙を流し手を伸ばす

 

すると男の目の前に巨大な影が現れた
死神に似たそれは太陽を遮って近付く
男を救う宇宙船は彼を引きずり戻した
理想郷は別の顔で彼を収容しなおした

 

 

No.84 密生

 

いつまでも同じことを繰り返している
森に完全な死を待つ兵士たちが彷徨う
それに群がる蟻に食い破られた肉体は
食料になりつつ森の養分になってゆく

 

鮮やかな青と深い緑と黒に近い赤には
それぞれの世界が完全に別物のような
逆にその世界が一つに交わったような
言葉には変えられない雰囲気があった

 

彼らの銃声が鳴り響く夜中は目が冴え
川の流れる音が聞こえる場所に歩いた
月光に照らされた川に流れる水を染め
いつまでもこびりつく血の黒を眺めた

 

新しい朝が来るたびに恐怖を感じては
洞穴の中でジッとうずくまって過ごす
新しい夜はいつも親しげだから彷徨い
眠る気になれずに永遠に目覚めている

 

むず痒い首筋を掻き毟ると蟻が落ちた
寒気がして振り向いても何も無かった
しかし私は一体何者だったのだろうか
何故ここにいつまでもいるのだろうか

 

 

No.83 虚空

 

苦しみたい時には人間を攻撃するのだ
一に対して多数は残酷な力を示すから
楽しみたい時にも人間を攻撃するのだ
多数は一をとても簡単に踏み潰すから

 

黒スーツの大群がまるで蟻に見えたら
電車に乗ると羽を揺らし合う蜂に見え
革の財布で命拾いしている生活やらが
胸ポケットでアラームを鳴らすこの頃

 

ただただ男は空を見上げているだけだ
他に何もせず対面の座席に座りながら
その男の考えることを想像していると
行き着く先に待つ憂鬱を捨てたくなる

 

眺めていた男は同じ駅で降りたようだ
改札から耳慣れた音がしてそれを出た
右に行っても左に行っても時間はある
ハンバーガーでも食べようかと探した

 

眺めていた男も同じことをするらしい
そして窓側の席でやはり空を見ている
男への興味もなくなって食事も終わる
気が付けば 何の気なしに空を見ていた