うたもち詩文庫

詩を書き溜める場所

No.298 祖父

 

 

寂しそうに語った

歯の足りない口でもごもごと

そして笑った 彼はこの前まで戦士だった

戦いに疲れ 倒れ そのことに気が付いている

 


彼にとっての戦いとはなんだったのだろう

想像しか出来ないが それは容易では無かっただろう

彼は 笑顔が素敵な老人だ

その笑顔は 彼の周りの人を動かした

 


疲れ 倒れた彼に手を差し伸べた人々を数えれば

それは 彼がどれだけ多く愛されているかの証明になった

その愛は 私さえも動かした

自分でも驚くほど 彼に会いたいと思った

 


彼は今日も言っていた

「申し訳ないね」と

私はただ「大丈夫だよ」としか言えず

伯父は切なげに目を伏せた

 


今日の面会では 彼が素っ気ないと感じたが

悪いと思ったのか またすぐにやって来て

「ありがとうね」と私と叔父に握手をし

周りの愛する人々へ感謝を述べ 涙ぐんだ

 


情熱が彼を駆り立て そこへ あそこへ 運んでいる

何処へでも 彼は行きたがっている

そんな姿を見て 私は血縁を強く感じた

不自由さに身体を掻きむしるような気分だろう

 


彼は実際には 何処へも行けない

行けたとしても 何処へ向かい 何処へ着いたかわからない

ただ 彼を愛おしいと思う誰かが

彼もまた愛おしいと思う誰かが 手を繋ぎ導くのだろう

 


その何処かへ 私も連れていけたらと思う

彼の苦悩が 彼の悲しみが 私を駆り立てる

彼のようになりたいと思えた

小さいが 力強く 誰よりも広く 深い 掌を思い描いた