うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所

No.294 喪失

 

 

頭の中に出来た世界が 狂うと彼は語る

脈絡がなく どうでも良いような話だが

そんな彼を見るのが面白くて 女は聞く

くだらない事が 彼らにとっての幸福だ

 


忘れてしまえば良い 今日は何もないと

信じ込ませれば良い 明日は望まないと

相槌を打つ女の瞳が とても綺麗なので

彼は宝石のように 瞳を心の中に仕舞う

 


仕舞った瞳を 見つめる彼の瞳は何故か

小動物のように 怯えて弱い光を宿した

その怯えから 彼の頭の中の世界は狂い

繰り返し 語り続けるようになっている

 


女が 彼の傍で幸福そうに頷かなくなり

頭の中の世界だけで 瞳がこちらを向く

彼は必死で 狂わそうとしてみるものの

至って平常な景色だけが 広がっている

 


彼の名を 女が呼んだ気がして振り返る

また 高すぎる空だけがこちらを見つめ

彼は虚しくなって 頭の中の世界を見る

瞳は確かにそこにある そのはずなのに