2019-03-30 No.287 彼と街 note 街は穏やかに 黙り込んでいる 食べかけのポテチ 冷たいジャスミンティー 袋の重さで 右手が痺れた彼は 左手に持ち替えながら歩いた 家々の隙間を 曇天の空を 草臥れた陸橋を キャベツ畑の前を 彼は歩いた 時間は止まっていた 何かを動かすには まだ何かが足りない きっと彼が 次に動き始める時には どこかの誰かがそばに居るのだろう 「誰でも良いから気付いてくれ」 そんなことを 考えているかも知れない ポテチを食べる ジャスミンティーを飲む 囁かな幸せが 喉を通って胃に落ちる 小鳥の囀りが 自転車のベルが 彼の溜息が どこまでもこだまするくらい 街は静かだ