No.287 彼と街

 

 

街は穏やかに 黙り込んでいる

食べかけのポテチ 冷たいジャスミンティ

袋の重さで 右手が痺れた彼は

左手に持ち替えながら歩いた

 


家々の隙間を 曇天の空を

草臥れた陸橋を キャベツ畑の前を

彼は歩いた 時間は止まっていた

何かを動かすには まだ何かが足りない

 


きっと彼が 次に動き始める時には

どこかの誰かがそばに居るのだろう

「誰でも良いから気付いてくれ」

そんなことを 考えているかも知れない

 


ポテチを食べる ジャスミンティーを飲む

囁かな幸せが 喉を通って胃に落ちる

小鳥の囀りが 自転車のベルが 彼の溜息が

どこまでもこだまするくらい 街は静かだ