うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所

No.272

 


帰り道 二度も車に轢かれそうになった

それは偶発的なものじゃない

明らかに意図的に突っ込んで来た

その前を歩くのは緊張感があった

 


どうしてだろうとは思わない

理由はいくらでもあるのだろう

こんな時間だ 早く帰りたかったのかも知れない

あるいは 土地柄なのかも知れない

 


こういうことがある度に想像する

もしあのまま轢かれていたらどうなったのだろうと

この文章を書いている数分前には

轢かれかけて 心臓は膨れ上がった

 


私は そんな哀れな運転手のおかげで

何の躊躇いもなく死ねたのかも知れない

死にたいとは思わないが

生きることより随分マシに思える時がある

 


信号は青だった 運転手の顔なんて見えなかった

もしもう少し暗かったら? もう少し速かったら?

家に帰ると妻が寝ていた 常夜灯の下で

出かける時にちょっとした言い合いがあった

 


怪我なら文句はないだろう

妻は心配し 電気を点け 私を介抱する

言い合いなどどこかに吹き飛んでしまう

生きたいとは思わないが随分マシに思えた

 


先に言ったことは訂正しよう

躊躇いもなく死ねるなんてことはない

停車状態からの発車 もしくは全速力で走行していたとしても

死ぬまで時間がある 数分か 数時間か...

 


そうなれば私は這いつくばって

妻の元へと帰ろうとするだろう

轢かれかけた場所から家まではあと四百メートルもなかった

何を思うだろうか...? 決まっている

 


私は眠る妻を少し眺めた

離れていて向こうを向いていたので顔は見えなかった

扉を開け放したまま 自分の部屋のソファに座る

あまりに凡庸な考えに付き合いながら 煙草を吸うために扉を閉めようかと思っている