うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所

No.231 外套

 

 

明度が極端に低くなったような

影に沈んでいく男がいた

古臭いトレンチコートを来て

夏の暑い中をそそくさと歩いてゆく

 


彼は忘れ去られた人物だった

名前も顔も 一致させるものが無い

真っ黒に塗ったような平面の顔で

点かないマッチを擦っている

 


 酔っ払いにぶつかっても

 彼は静かに沈んでいった

 汚い女に腕を組まれても

 彼は静かに沈んでいった

 


彩度の仕事が疎かになったように

彼は色にまで忘れられた

黴臭いトレンチコートと共に

生ゴミの腐った臭いの裏路地を抜けた

 


彼は通り過ぎるだけだった

身体と精神を 一致させる術もない

真っ黒に塗った吹き出しのように

囁き声は車に泥を跳ねられる

 


 無人駅でも当然のように

 彼は静かに沈んでいった

 静か過ぎるアパートでも

 彼は静かに沈んでいった