うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所

No.194 個


限りのないものがあるとすれば

それに似たものは宇宙となるのだろうか

 


それよりもある男は

一本の煙草を吸った時に見える

絶望的な未来予想図の方が

限りないものに思えた

 


喫煙所に群がる人々の

気の抜けた目を見ていると

彼はその目に煙草の火を押し付け

立ち去ってしまいたくなる

 


何処から立ち去るべきか

この喫煙所から遠のいたとしても

何処にでもその場所はあるし

煙草とライターがあれば何処でも吸える

 


宇宙がどれだけ広くても

宇宙服の中で煙草が吸えないこともない

宇宙で火がおこせるのか?

そんなことはどうでも良い

 


希望は自分でも他人でも簡単に限られてしまう

絶望は彼に役立つわけでもなく ただ存在している

 


彼はそんな絶望 またはその絶望から生まれるものこそが

彼を逞しく生かし 情けなく殺すのだろうと結論付けた

 


さて それが正しいかどうかは別にしても

彼は何故他人を傷つけたくなるのだろうか

人々を睨む彼の眼差しは

大切なものを奪われた幼い子供のようだ

 


彼が憎む人々は 

彼が会ったことのない人々も含まれ

限りないものは人々の間にある 

個とそれ以外のものの溝のように思える

 


そもそも限りあるものしかないのに

何故自分と他人について悩む必要があるのだろうか

人々は生まれて 死ぬ それだけのことを

何故複雑に解釈したくなるのだろうか

 


彼はこう言った

「個は個の中で生きるしかなくプラグをつないで共有することも出来ないだろう 共有したがることこそが一番の絶望なのだ」と

 

 

個という牢獄から出られない生物が

限りなく(限りがあるとしても)広がるものについて考えたところで

他の何らかへの執着がそれを止め

檻の頑丈さが増すだけだ

 


彼は やがて看守を呼び

個の牢獄から鉄格子越しに話す相手にした

そして孤独を紛らわせると

個以外の全てのものを遮断し 生きて 死んでいった