うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所

No.153 未遂

 

あの頃の懐かしい音楽がこぼれ落ちて
走馬灯は何よりも彼を優しく包み込む
やがて消えてゆく儚いものだとしても
彼の記憶を持つ者がいることは幸福だ

 

煌めく草原に立つ幼い日の彼の記憶は
彼の脳裏に蘇り 美しく風が吹いている
草臥れたスーツが雨を吸い込む感触を
彼は最後の感触として残そうと考える

 

鳴り響いた銃声に人々が集まって来た
彼はその足音や吐息を愛おしく感じた
雨が降る廃れた街の廃れた連中の気配
黒ずんだ空の下 彼は虚ろに彼らを見た

 

警官たち サイレンの音 救急車 青い服
担架に乗せられると痛みが増してゆく
口元に当てられた酸素マスクを退けて
彼は死なせてくれないかと叫んでいた

 

病室で目を覚ますと晴れた午後だった
チューブで繋がれた自分の身体を見た
彼は彼の中にあった感情を失っていた
ただただ外を見つめ 絶望を感じていた