No.147 前を向いて歩く彼

(彼に何と言えるだろう
振り向くこともなく
ただ前を向いて
足早に去って行く彼に)

 

僕と彼は 顔も知らない頃から友人で
ついこの間 実際に会うことが出来た
誰もいない喫茶店の中で
彼は僕に大き過ぎる夢について話した

 

「話をしていてもつまらない」
僕らはにぎやかな街に繰り出して
行き交う人々が何を考えているか予想して
くすくす笑いながら 目的もなく歩いた

 

晴れ渡る空がアスファルトを照らし
その光があまりにも強過ぎて
僕らはしかめっ面をしながら
にぎやかでなくなる地点まで歩いた

 

そこまで歩くと僕は彼の顔に
不穏な影を見つけ 彼に質問をした
「何か不安なことでもあるのか?」
すると彼は その影を隠して微笑んだだけだった

 

彼は次の日に消えた
僕はまた二人で出かけようと言ったのに
彼は何も言わずに消えてしまった
次第に彼の顔すら思い出せなくなっていった

 

彼は大き過ぎる夢を叶えたのだろうか
大き過ぎる夢に潰されてしまったのだろうか
大き過ぎることを自覚して
全てを諦めて消え去ってしまったのだろうか

 

ただ 彼は前を向いて歩いていただけ
僕はそこらの街路樹のようなものだった
通り過ぎればどうということはない
彼は木を見るために振り向くことなどなかった

 

僕は自分が前を向いているのか不安になった
どこも向いていない気さえして下ばかり向いた
後ろにも前にも 右にも左にも 上にも下にも
僕の居場所なんてないと感じるだけだった