No.132 あいつ

 

感覚がなくなるまでつねった頰
感覚がないのでいつまでもつねる
つねる必要すら無かったと知り
見知らぬ世界を歩き出す

 

知った顔が何人かいる
時代や性別がごちゃ混ぜだが
あれは担任の教師だったか
あれはいじめっ子の女装か

 

不思議なことに
人気者になれた
あいつを探したけれど
あいつは見つからなかった

 

鏡が現れた
大きくて高そうだ
自分の顔を見ると
あいつの顔になっていた

 

周りの人々がこちらを見て
あまりにも驚いていたので笑った
あいつだから人気者なんだ
あいつだから驚いているんだ

 

憧れはなく
蔑んでいたあいつが
初めて羨ましく思って
悔しさで涙が溢れた

 

あいつだから
皆が心配している
あいつだから
差し伸べる手がある

 

目覚めると
天井が低く見えた
壁は近づいて見えた
窮屈な部屋を出て空気を吸った

 

そしてあいつは
死にそうな顔で道を歩いていた
何故か安心して呼び止めると
あいつはこちらを向いて笑った