うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所

No.114 pulp

 

俺は素足でフローリングの冷たさの上でクタクタになったTシャツを着ていた

耳の中が腐ってしまうほど突き刺したイヤホンが苦しそうにもがいている

 

フローリングの冷たさを感じながら耳掻きでゴソゴソと相談していたら

聞き慣れた声が俺のことを呼んでいると気が付いた

 

「あんた!起きてんなら皿でも荒いなよ!」

女のくせに髭を生やしたヤツは俺の人生最大の失敗だ

年に似合わない寝巻き姿で誰を誘っているのだろう

 

ブツブツ文句を垂れながら大量に洗剤の入ったボトルをプッシュして

ボロボロのスポンジで米粒の張り付いた茶碗を洗う

 

くだらない電線は窓から見える景色をトリミングして

皿を洗う手を休ませるほどに気を滅入らせる

 

仕事の時間が近付いて来ているというのに

女はいびきをかいているし俺と言えば泡にまみれている

 

少年の頃を思い出して身体を動かすためにジョギングしていた朝は

悲鳴をあげたふくらはぎが自分のものではないくらい痛んだ

 

その次の朝には皿洗いをしながら

落ちる灰をぼんやりと落ちるままにしながら手元に落ちたら洗い流すだけ

 

こんなもんだろう

こんなもんだろうと思いながら諦めが支配する

 

世界はどうなっていこうとも

こんなもんな人生が目の前に広がる

 

人生最大の失敗は数多く

捨ててしまったCDの数も多い

 

ピストル沙汰に巻き込まれるスリリングな展開も映画内だけで済ませ

大して目的も信念もないのに仕事を続けている

 

電車に乗ると色々な顔を拝める

その顔の一つになると少しだけ安堵する

 

青空はくすんだ灰色の曇り空よりも嘆かわしい

何故ならばその下で自由に過ごすことも出来ないからだ

 

俺は皿洗いの後にスーツに着替えた

電車の中ではバッチリ決まっていると思っている

 

サラリーマンに擬態して人々を観察し

その特徴を頭の片隅に書き留めておくのだ

 

会社のある駅に辿り着くと

人気の無い路地裏を歩いて行く

 

三つ目のゴミ箱を少しだけ移動させると

その下に階段が現れ降りて行く

 

最後の一段を踏み越えると

この世の誰よりもグラマラスな秘書が俺を迎える

 

この女がいるお陰で人生最大の失敗を

人生最大の隠れ蓑に出来ているわけだ

 

秘書が俺にキスをして案内をする

モニターからボスの声がする

 

今日もいつもと同じ通りの仕事が始まる

アンダーグラウンドでは気取らない方が長生きする