うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所。

No.101 (1985)

 

肉がえぐれるほど腕を掻き毟る男
何かに苛つきながら
グラフィックノベルの台詞を読む
翻訳されたてのまだ温かい文字が
彼の苛立ちを掻き立てて
掻き毟る手は止まらないままに

 

ペン先の遊び心が彼を急がせる
つま先を忘れて走り出した
それを踏みつけた赤いヒールの女
彼は途端に恋に落ちた
タンスに小指をぶつけたように
打ち震えながら彼女を見つめた

 

しかし彼女はすぐに別のページへ
はえぐれた肉を集めて腕に付ける
高級腕時計が似合うように
粘土をこねるように形を整える
アイスクリームを二つ買ったら
口説き文句で吹き出しを飾る

 

恋する男は最も愚かで惨めだ
恋する女は誰かの腕に抱かれる
彼は彼女に知られることはなかった
先に行く彼女に追いつくはずもなく
吹き出しの口説き文句だけが残った
いたずらの白いインクで全て忘れた