No.95 幻想(街灯の夏仕様)

 

夏に揺れてるそびえるビルを
遠く見つめてるこの瞳の奥で
移ろいゆく時間だけが
音を立てて刻まれている

声を潜めて気付かれぬように
ひっそり一人捕まらぬように
誰に祈る訳でもないのに
誰に救われることもないのに

気が付けば夢見た景色
夢見た人々 忘れたはずの思い出たち
気を許した途端に
引き込まれていた
あるはずの無い幻想に

夏に行き交う人々の中に
紛れ込めたら深く沈めるのに
冷えた部屋の時計の針が
音を立てることなくクルッと回った

声がもう届かない場所で
遠く遠く離れてる場所で
誰が待ってる訳でもないのに
誰を覚えてる訳でもないのに

気が付けば涙も枯れて
傷跡も治り過ぎ去ったはずの苦しみを
思い出してしまったら
巻き込まれている
幻想が過去を照らし
幻想を一人歩く