うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所

No.91 永遠の恋人たち

 

一緒に落ちようと約束した恋人たち
片方が落ちると片方は昇ってしまった
まるで地面に引きずり込まれるように
まるで天使の羽が生えたように

固い土に捕まることはなく
マントルに溶かされることもなく
片方はただただ落ちて行った

羽が溶けることはなく
吊るされた糸が切れることもなく
もう片方はただただ昇って行った

善行と悪行の境目など測れない
生きた時間ぶんの罪なのか功なのか
落ちることと昇ることの
どちらが良いことなのかは誰も知らない

しかし明確になってしまったのは
恋人たちがもう二度と会えないということだ
それを知ってほくそ笑む人々もまた
落ちたり昇ったりしていった

ある少年はその恋人たちを良く知っていた
二人の内のどちらかの弟だったからだ
少年は落ちることなく昇ることなく
ぷかぷかと地上にとどまっていた

浮きもせず沈みもしない風船のように
破裂することなくそこに居座っていた
少年は大きな声で知っている人の名前を叫び
その答えを待ち続け 待ち惚けを食らった

一緒に落ちようと約束した恋人たち
それを繋ぐ唯一の少年の記憶
二人はその少年の記憶の中だけで会えるが
それは少年の思い描く二人の姿でしかない

恋人たちは裸のまま手を繋いで少年に微笑む
少年が目を閉じるとその光景がいつも映る
二人の身体は少年にとって少し刺激的だったが
それを見るたびに慣れて 刺激は薄れていった

やがて何年か経ち 少年が青年に変わる頃
目の前に地上にとどまった一人が現れた
目と目が合うと 間もなく裸になって手を繋ぎ
記憶の中の恋人たちのように微笑んでいた

それから彼は 何故だか無性に落ちたくなった
もう片方は昇りたがっているように感じた
彼の優しさで二人は昇って行くことに決めた
しかし二人は永久に別々の方へと進んでいった

彼は昇って行った
そしてもう片方は落ちて行った
彼が昇るところまで昇りつめると
何年か前に昇って行った恋人たちの片方を見つけた

彼はその片方の弟ではなかったので
当たり前のようにその片方と抱き合った
何かを待ち望んでいたような顔で
相手は彼を強く求めた

弟が恋人と似ていたので
落ちて行った片方を思い出したのだろう
二人は繋がったまま昇り続けて
終わることのない空の上で愛し合った

その時落ちていった青年の恋人は
弟に似た片方と抱き合っていた
自分の真の恋人を忘れてしまうまで
終わることのない地の下で愛し合った

四人の恋人たちは相手を変えて求め合い
永遠に昇り続け 永遠に落ち続けた
その相手が元から恋人だったと錯覚するまで
高く飛び続け 深く潜り続けた