No.87 ハキダメ処/
カーテンの 裾からさした 陽の光 浮かぶ埃と 晴れぬ心と/
夢の中 逃げれば少し 楽になる 悪夢にもなりゃ 覚めて安堵し/
窮屈な ベッドの上で 苦しがる 横の女は いまだ寝ている/
飲んでいる コーラを全て 捨てたなら 流しのにおい マシになるかな/
暗がりに ポツリと光る 赤い点 人魂に似た テレビの端っこ/
「ジャンパー」を 「アウター」表記に 切り替える 今まで着てた 服を捨てつつ/
俺の声 僕の耳には 届かない 私の声は お前に届かず/
書きかけの 絵の次の筆 探してる うなされながら 絵の具を足して/
売れぬ絵を 部屋に飾れば 満足し これで良いかと 夢も捨てつつ/
わけもなく 涙を流す 八時半 晴れぬ心は 腫れて膿みだす/
SFに のめり込んでは 移りゆく 季節の合間に アストロノーツ/
親しげな 得体の知れない 生き物が 姿見の裏 顔を出しつつ/
鼻をかみ ビニール袋 捨てたなら コンタクト入れ また眠りだす/
現実と 夢の見分けも 付かぬまま 働くことの 空恐ろしさ/
捨てられた 子犬のような 婆さんが 今もこっちを じっと見ている/
侍が 切って切られて 血塗られて 夢が覚めたら 固まる鼻血/
犬猫の 動画を見つつ 煙草吸い 負け犬気分で 猫にまたたび/
ハムスター 買う計画も 破綻して びくともしない 置物を買う/
一日の 無駄の仕方を 競い合い 完敗したら こちらの大勝/
過ぎ去った たまの休みも ほぼ眠り 疲れは取れず 腹も痛める/
特撮で ヒーローになり 悪を討つ 着ぐるみ脱いで 酒を飲む夢/
外人と 異星人とを ごちゃ混ぜに ペラペラ喋る 何十ヶ国語/
スライスし 薄くなりゆく 玉ねぎを 水に浸して アクを抜きつつ/
レタスなど やぶり流水 皿に盛る 上に蒸し鶏 今日の朝食/
昼になり ファストフードに 溺れつつ 通行人に あだ名を付ける/
不謹慎 言葉で全て 片付けて 笑顔で描く 反ユートピア/
通勤の 電車の中で 高いびき サラリーマンの おかしい悲哀/
靴の中 蠢いたのは 羽虫かな 昨日殺した 小さな俺か/
日向にも 日陰にもなる 今日の日は 行く末見据え 震えて困る/
ドア開く そして閉じたら また開く まぶたの動き 真似するように/
フェンス越し 見える景色の つまらなさ 四季はくだらぬ どこにでもある/
冬も散り 春が咲いても また散って 夏が咲いたら 次は秋かな/
体調の 優れぬ今日の 遅延には 誰かの恨み 晴らされた痕/
ホームには 一人で喋る 女だけ 二人っきりでも ときめきもせず/
各駅で 止まらぬ駅の 奥深さ こんな所に 霊の行列/
DVD 回る音には 脳内を 搔き乱したる アレが滴る/
集めたら 捨てて掃いてを 繰り返し ペットボトルの キャップの遊び/
制服で 敬礼すれば 様になる その頭から 血が出ていても/
借金の 形に心臓 奪われる 返せる日まで 死に顔のまま/
戯れで たわんだ皮膚を 捻る指 吐息交じりに 殺意の一つ/
怖がりを 馬鹿にされても 直さずに 叩く石橋 過ぎても叩く/
青空と 曇り空との 中間の 何とも言えぬ 空の色々/
ポスターの 絵の具乾けば かさぶたと 一緒に剥がし 何故か清々/
気味悪い 男の指の 絆創膏 丸めて捨てた 血を隠しつつ/
赤ん坊 泣いてしまって 睨まれて 母親探し 店をうろつく/
ガラクタの 城を崩して ほくそ笑む 錆がまわれば またほくそ笑む/
八分咲き 紫煙絡めて 待ち惚け 暗くなったら 散りゆく桜/
深々と 椅子に座って 目を閉じる 雑音の中 姿が消える/
空想の 大きさにさえ 怯えつつ 銃の感触 額に刻む/
中華そば 不味く作れば 客が来て 美味く作れば 客は遠のく/
埋もれゆく 記憶の彼方 砂と城 いくら掘っても 砂は減らずに/
狂おしく 咲いた花びら アスファルト 踏まれ踏まれて 押し花のよう/
ある日暮れ 些細なことで 腹を立て むず痒い腹 捌いて開く/
ボールペン ぐるぐる書きの 現代詩 破って捨てて 新しい紙/