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うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所。

過去詩 まとめ14

 

 

***ガラクタの匣***

 

 

・月に煙を巻いて

 

煙草の灰がポトリと落ちた
気づかぬ間に何かしら時は経っていたようだ
灰色の壁紙に煙の膜が張っている
しょぼついた目は血走って緊張している
それをほぐしながらベッドから出る

 

一人の心地よさを知り
孤独とはもう恋仲となり
背徳な思想と音楽とだけが
この細い身にしみている


従順な配下みたいに彷徨く月は
煙草の煙に巻かれて寝ている

 

擦れる音は服と足
頭に響いて地鳴りのように
花と土の匂いをかぐ


ベランダに出てぽっつりと一人
月はやはりスヤスヤと眠る

 

ガガガと遠くに音が聞こえ
こんな遅くまで働くかと感心する


電気が付くのはずっと向こうの
煙突伸ばした斜め屋根の列


煙草が短くなり口元にけむりも寄る

新たにライターを一擦り
煙草に赤い点が灯る


ベランダの物干し竿で
あの眠る月を起こそうか
おい、まだ夜は始まったばかりだぞ!

 

   

・人々の空と海

 

空を飛んで、見違える世界を探す
鳥のように君は口ずさむんだ


間違いじゃない、例えそうでも
今見ているものや見てきたものは
何かしら君にとって作用してる

 

気付かずに過ぎ去るものを
また振り返ってみると良い
価値観は時代や成長で変わる

ポップスよりジャズが
好きになることだってあるんだ

 

世界は広い 無限ではないか
一人一人の思想の海と
言葉と動きと感性と
皆が同じように違う海を
その小さな体に秘めてるではないか

 

空を飛んで眼下に見れば
昨日の憂鬱なんてちっぽけに見える
くっきりとした空の色と海の色が
水平線を隔てて見えるではないか
昨日は過ぎ去り 明日はきっと風になる


   

・ファンタジィ

 

一歩 また一歩 と踏み出すと
妖精たちは愉快な笑い声を上げる
この森に名前はない
妖精たちにも名前はない

 

一言 また一言 と話し出すと
妖精たちは群をなして僕に語る
“私たちは幸せ”
その言葉に意味はない

 

一番高く見えるのは 空の青と遠くの星
窮屈に居座った太陽は妖精に笑う

貧しい僕の腹にクルミのパンを与える
金色の朝露光る草原の真中に居座り
僕は図々しく舌鼓を打つ

 

その音色に駆られたか 辺りには数匹の鳥
狐 リス 森に住む様々な生物


僕はクルミのパンを分け与えると
その朝露の草原に身を横たえた

 

一刻 また一刻 と経過すると
露が早くも枯れる頃
僕の鼻には天道虫がとまって
鼻先でクルクルした後飛んでいった

 

儚げで何とも淡く美しいこの草原で
僕は夜の星を眺めることにした
妖精たちは灯をともし
僕の周りで飛び回る

 

螢火 また螢火 妖精たちは僕を囲って飛ぶ
舞う度ほたるのように美しく
僕の顔を照らしてる
妖精たちはまだ歌っている


この森に名前はない
その言葉に意味はない


ただ此処に人が居て
それが僕であるという事
ただ此処に光があって
それが幻想であるという事


ただ妖精が舞い それがほたるに見えるだけ
ただ僕が横たわり 周りにいるのが動物なだけ

 

その証明に意味はない
この草むらにも この夜空にも
意味などつけられはしない
意味が無意味ならば意味などいらない

 

ただ僕はこの草原で夜空と
めくるめく光 星々と螢火
妖精たちと 眠るだけ
その行為にも名前がなく意味がない


浮いている感覚と
沈んでいる感覚と
どちらもあって
水中浮遊のような錯覚


言葉さえも 忘れてしまい
ただ時間と一緒に世界に溶け込んでいる