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うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所。

No.23 廃校の記憶

古い階段を上がると
軋む音で少し怖くなる
廃墟になった学校の教室に
忘れていたノートの切れ端

 

一歩一歩 歩くたびに
此処で過ごした瞬間の
一つ一つが鮮明になって
全てを思い出す

 

半透明の手でチョークを握り
埃だらけの黒板に描く
僕自身の顔が思い出せないから
君の顔を描いた

 

小学四年の時
君は花の香りがして
その花を見つけると
馬鹿みたいに鼻を近付けていた

 

転校するなんて聞いてなかったよ
あの頃のまま 君は止まっている
髪も伸びず 背も伸びず
あの頃のまま 僕は君を描いている

 

ふと後ろから香りがして
そこを見れば君が笑いかけた
あの頃からずいぶん変わったけれど
花の香りですぐに君とわかった

 

僕は嬉しくて 嬉しくて
涙が出そうになった
けれど裏腹なことを呟いた
「君はまだこっちに来ちゃダメだよ」と

 

君は不思議そうな顔して笑い
僕の方へ歩いて来ると
「あなたは幾つ?何故こんなところに?」
そう囁いてしゃがみこんだ

 

僕はあの頃のままの姿で
大人になった君に抱き締められた
「ずっと此処で待っていたんだね」
君の声はか細く響いた

 

僕は半透明の手で髪をなぞり
それが同じところにあると感じた
その瞬間に 二つの存在は
透明になっていった

 

透明になる感覚の中で
君は僕にあれからのことを話した
転校先はとても辛かったと
思い出すように話しをしていた

 

少しだけ待っておくれ
天に昇る二つの魂を
この地に留めておくれ
もう少しだけ君のそばに…