No.546 二本の煙草

スーツが煙草を吸いながら駅に向かった 道端に捨てても 暫く火は消えなかった 通りかかったハイヒールは煙草を踏み 火を消して 数秒見つめた後 駅へと急いだ ランドセルは 消えた煙草を掴んで 良く観察した後 駅へ走った シルバーカーは曲がった腰を叩きなが…

No.545 首を締められたい男

彼は自分で首を締めてみた しかし いつものようにはいかなかった 他人に締めてもらわなければならない 暇そうな女の連絡先を眺める 女はすぐにやって来て 彼が良いというまで首を締めて帰った 唾液が枕を濡らして 突拍子もない時間は過ぎ去っていった 彼はま…

No.544 誰も彼のことなど気にしない

全ての人が加害者であり 被害者である 彼はそんな風に思って 他人と接した 傷つけたり傷ついたりしたいわけではない 彼はそんな奴なのだ そうとしか言えない それから 彼は人生ゲームが好きだった いつもパイロットを狙っているが 良くてアイドルで 殆どがバ…

No.543 小さな光を追う男!

曇った眼鏡の奥から 彼は睨んでいた 雨の後に 少し冷えたアスファルトの先に 他と違う小さな光が見えた気がした その光が 疲れに効くだろうと彼は思った 宙ぶらりんの日々に疲れ果ててしまった 彼はその日 レッドブルを3度も吐いていた ガソリンを無駄にする…

No.542 窓辺のぬいぐるみたち

窓辺にぬいぐるみをいくつも置いて 彼は 一つ一つに名前を付けた ぬいぐるみは 名前を呼ばれると 大きな声で返事をしてくれた 彼は寂しい時や 辛い時 孤独に押し潰されそうな時 ぬいぐるみに話しかけた ぬいぐるみは話を聞いた 歳を取っても変わらなかった …

No.541 真っ白な車線

後ろに詰め込んだ荷物がこぼれそう (埃っぽいなあ 少し窓を開けよう) 煙草を取り出して 火を点けると 真っ白な車線が 少し揺れる だいぶ進んだ要らない物の整理 車で処理場へ 突っ走れば良い 真っ赤なポルシェも 真っ黒なbmも このオンボロを 追い越せない…

No.540 液晶に移住した彼

カメラのピントを合わせるように 彼は扇風機の位置を調節した 部屋に程良く風が吹くようになった 暑さが少しだけ和らぐ気がした 水を飲んでもすぐに垂れ流した 身体は重くて仕方なかった 彼の生活習慣は 夏に崩壊した 寝不足の瞳で 液晶に飛び込んだ 明るさ…

No.539 錯乱視

彼は左眼を閉じて 小説の文字を読んだ 右眼だけだと ミステリーに思えた 右眼を閉じて 左眼で読んでみると 不思議なことに ファンタジーに思えた 彼の右眼は 何事も疑ってかかる 左眼は 何事も信じてしまう それは電車の中の景色も 外を流れていく風景も同じ…

No.538 ダークマター

彼の瞳が 虚ろになって 周りで話す人々の言葉が 頭の中の穴に 吸収されていった 出口はない そして 何処にも行かない 人々は彼を見て(あっちに行った)と思った それからは彼を遠ざけて それぞれで楽しんだ 彼の前に置いてあるレモンサワーは 彼の隣の髭面…

No.537 イタチゴッコ!

そこはどこにでもあるような 汚らしい裏路地で 黒いスーツを身に纏って 彼は突然発生した 黒いスーツのポケットから 携帯電話のような物を取り出すと あたりに向けて 何かを測り 確認作業が終わると 歩き始めた 彼は明確な目的があった この街のどこかにいる…

No.536 彼の過ごした夜は微糖

ベンチに置いた缶が 再び手の平に触れると 彼は少し前の出来事を思い出した 百二十円を自販機に入れる瞬間 誰かが彼を 呼んだ気がした 振り返ってはいけないと思い 彼は振り返らずにその場を去った 公園のベンチで寛ぎながら 後悔して 自販機まで戻ろうかと…

No.535 泥団子を作る彼!

君は何も知らなかったから 仕方ないかも知れないね 彼は君に言えなかったから 難しいかも知れないね 空が高すぎて太陽は 同じ大きさに見えるのに 青を飲み込んでしまいそう 雲は仕事を忘れ 遊んでいる 砂場に手を触れただけでも 赤くなってしまいそう それで…

No.534 漂白された箱の中

清潔で白すぎる部屋に ゴキブリが一匹入って来た 黄ばんだ白い服を着た男たちは それを見て 手を叩いて喜んでいた ただ一人 壁にもたれかかり 上の空の青年は 伸びた前髪を見ていた 少しだけ興味があるにはあったが ゴキブリよりも 前髪の方が煩わしい ガス…

No.533 アイスクリームな彼

ミシミシ鳴るフローリング 少し浮いているような気がした うだるような暑さが硝子窓の外で 揺れながら 手招きをしていた 彼は涼しい家の中から出たくなかった しかし 外に行けばきっと楽しいだろう そう思って 硝子窓に触れてみたが 今にも溶けてしまいそう…

No.532 夜と彼と 少し気怠い時

彼は夜空を眺めながら 誰も知らない言葉で 何かを囁きながら 時が流れるのを悲しむ 隣の住人の騒ぐ声で 幻想は追い出された それでも 走る車を見て 少し 楽しかった 彼はベランダに立った 夜空は くるくる回った 騒ぐ声は大人しくなった 車は去って行った 夜…

No.531 五人の暇な男!

ワンは長い髪を後ろに束ね 東京駅で迷っていた 初めての場所 戸惑うことばかり 「くそったれ どうしてこんなに暑いんだ!」 トゥーは短い髪をタオルで拭いて 汗を吸い取ったそれをゴミ箱に捨てた その様子を見ていたババアが 不愉快そうだった 「何見てんだ…

No.530 なりたかった彼!

忘れかけていた ギターのピックが 押入れの奥から すっと現れると 弾いたこともないのに 弦を押さえる真似をした 彼はのっそり 動いた足跡 引き摺った荷物の影 押し潰されたアリンコ そして 古ぼけた写真 深く沈んだ足跡は 夕暮れに伸びていった影は 死んで…

No.529 ピザ!

冬でもないのにコートを着て 一滴も汗をかかない彼の目の前には 後ろ手に縛られた男が 大量に汗をかいて 椅子に座っていた 彼が男の口からガムテープを剥がすと 苦しそうに咳をして 息を整え 「頼む 見逃してくれ」と言ったので 彼は少し苛ついて 片手に持っ…

No.528 フェニックス

部屋の空気に舞う埃を握りしめて カーテンの隙間から入る太陽の光を見ていた また朝がやって来てしまった 暗闇に隠れることは出来ない (時が流れると 何もかもがぼやけていった) そのことをひしひしと感じながら 外を走る車のタイヤの音を聞いて 小鳥の囀…

No.527 何かに話しかける「彼」!

誰もが気付かないフリをしていた 「彼」は一人で 何かに話しかけていた 近くに座った「スーツ」は耳を立てて 「彼」の話を聞いたが 気が付かないフリは続けた 「何故 今この世界が存在しているのか それを誰も考えようとはしない ただ目の前にあるものが全て…

No.526 魚嫌い!

魚が跳ねたような天気で あたり一面が磯臭くてたまらなかった 彼はしかめ面 頭の中はぼやけたまま 立たなきゃ乗れない電車を待った 立川駅には人が多かった 誰もやることがないのに 人が多かった 彼はその人の多さに耐えながら 人の中に紛れ込んで隠れていた…

No.525 (題名思いつかなかった)

無精髭をそのままにして ぽりぽりと掻いたりして 退屈な時間を ぼうっと過ごして 誰かやって来ないかと待っていた 誰もいない街の中 勝手に持って来たチョコレートを むしゃむしゃ食べて 変わらない空の色を見ていた モノクロに少し色が付いたような世界は …

No.522 剥がす男!

彼がふと時計に目をやると 左手の手首が少しめくれていた 気持ちが悪いので 少しずつ剥がしてみることにした (表面にあった皮膚が 何かの拍子に浮かび上がったのだろうか?) 剥がし続けると左手の形に すぽっと抜けて 彼は驚いた 二分後 彼はまた時計に目…

No.521 詩について考えてみたら 言い訳が生まれた

僕が一番身近に見てきて 実際に体感して 詳しくなり 描けるものは 人間の怠惰な側面なのだろうと思った そして これから先もそういう詩を書くだろう 希望や夢があるからこそ 現実との差から逃げる手段を選ばざるを得ない 努力という言葉を否定して 自分の怠…

No.520 蝿を叩け!

早朝の雨が降っていた あたりには灰色の膜が張っているようだった 彼は透明な傘を家に忘れて来た 迎えの車に走って乗り込んだ 車は パチンコ屋の駐車場で止まった まだ人も車も少なかった 広い駐車場の目の前には 工場のような建物があり 音が聞こえた その…

No.519 ハッピーな男

彼はとても幸福だった いつも小指をぶつけても ゴミ箱を漁って 二年前の肉を食い 腹を壊して病院へ行き 余計に金がかかっても 午前三時にいつも来る 隣のハゲオヤジの愚痴を聞いていても 電車の中で女に足を踏まれ 痴漢に間違われ 連行されても 刑務所で一番…

No.518 孤独に寄り添う彼

彼はきっと 君の見ている世界を良く知っている そして今も 夜空の片隅で 一人っきりで 君の見ている世界を眺めながら 紅茶を飲んで ゆっくりと息を吸って 吐いている 彼はきっと 君の知らないことも知っている そして君も 彼のことを知っているかも知れない …

No.517 古い平屋に住んでいた彼!

彼は古い平屋に住んでいた 当時 築七十年以上のボロ屋だ 所々 隙間風が吹くほどガタがきていて ムカデなどの虫がよく入り込んで来た 庭には 誰も手を触れない庭があり 伸び切った草が腰の高さまで成長していた 夏に三十センチほどのミミズが現れて 彼は気味…

No.516 記憶の幼虫

強く打った頭が悲鳴を上げた 彼の記憶は シェイクされて耳から流れ出た 何も残されていないと思っていたが ポケットの中にあった財布に身分証があった その身分証を確認すると 他の自分の情報を集めようとした このままでは今居る森の中から抜け出しても 我…

No.515 ジョウと彼女と大きな猫

巨大な塔のように聳える一匹の猫が居て ジョウは家に帰ることが出来なかった 街は封鎖されて 猫が寝返りを打つたびに 高層ビルや 小さな家々が潰される音を聞いた ジョウの恋人が その街に取り残されていて そんな人々が まだ何百人も居て ジョウは この猫が…