No.606 再訳「追憶と別れ」

彼はそこに行くといつも見下ろしていました 景色は毎日変わります 彼は同じことを見続けました 彼は缶コーヒーを開けていつものように傾いた あなたが失ったもののサイズに 彼は変更を拒否し続けました 一緒に来る 彼らは代償を払うことを目指しています 頭…

No.606 ドラゴンの棲む森

ある日 僕は大きなドラゴンと会った 誰にも言ってはいけないと言われたので 誰にも言わないよう心に誓った 言わなければいけない誰かは元からいなかったけど ドラゴンはとても退屈していた 最近は戦争もなくて 活躍する場所がないらしい 僕はそんなドラゴン…

No.605 ビデオ3の記憶

疲れ果てて迷い込んだ 着ている服はボロボロになった 複雑な迷路ではないはずなのに あるはずの出口が見つからない 信じていたものから切り離された 彼は思い出を頼りに進んだ 見慣れていたはずの街並みが 歪んで 輪を描き 潰され 反転していた ポケットから…

No.604 チャカとピストル

チャカはピストルを持って ピストルに銃口を向けた ピストルはチャカを持って チャカに銃口を向けた チャカのピストルには 弾が込められていなかった ピストルのチャカには 5発の弾が込められていた 二人の間を張り詰めた空気が取り持ち チャカとピストルは…

No.603 パグとバグ

パグは 窓の外の通りを見下ろした 車が 右と左に横切った 右と左に行った先に何があるのか 気になったが わからないので考えを捨てた パグは 見下ろすのをやめて 馴染んだ部屋の中を見渡した ソファの上に 一匹の小さな虫がいた のそのそと近寄ると 前足で捕…

No.602 シチメンチョウとハイビスカス

煌めく瞬きと フリルのスカート シチメンチョウの羽毛は 気高く跳ねる ハイビスカスは 彼女の頭の上で 羨ましそうに 不貞腐れている 水を飲み過ぎたヒヤシンスが 花瓶の中でもがいていても そこらでたむろするパンジーが 何かわからないことを叫んでいても …

No.601 アナグマとコヨーテ

街は 夜の喧騒を洗い流して すっかり別の顔をして朝を迎えていた 昨日飲み過ぎた木の実ジュースを アナグマは全て吐き出したい気分だった 友人のコヨーテはその横で 呑気にビーフジャーキーを食べた 「昨日はヤケになっていたな」と笑うと アナグマはそっぽ…

No.600 600回分の腕と目

600回分の別れを取り戻すために 彼に出来ることは何もない 誰も気が付かないで 通り過ぎてゆく むしろ それが心地良く感じるほどに 詩を書くために 腕を付けられて 詩を読むために 目を付けられて 必死に書いても 必死に読んでも 彼の生活が 変わることはな…

No.599 ころころ転がる彼!

駅のホームに立つ 彼の行き先は 彼自身にもわからなかった それでも電車を待っている間だけは 周りの空気に溶け出せるような気がした 夕日が差し込んで 彼の足元を照らしている 光に怯えてうずくまる影が 彼の元へ逃げた 彼は足踏みをしながら 影を避けた 電…

No.598 シェイカー!

涸れた喉を潤して 彼は溶けて消えて 水が流れて 吐き出され 掃き溜めの中へ 許されない罪を数え 引き金を探せ 夜は長くて短い ジーンズのポケット スモーキーな街に現を抜かし 出迎えるあいつのニヤケ面 裸の女たちの行進を眺めては 涎を垂らす良い加減な奴…

No.597 黄昏る彼!

不規則に並ぶマッチ棒を 規則正しく変えるよりも 集めて捨ててしまいたくなった 1カートン分の退屈を こんな形で過ごすとは思わなかった 彼はすることを探していた 生きる意味なんてものは初めからなかった 何かをしていれば落ち着くと思った そして大量のマ…

No.596 夜更かしのロマンス

頭の中で響いている言葉 「もしも君が居なくなれば」 彼の嘘で傷付いても 彼女は 笑って許した パズルのピースよりも ネクタイとスーツよりも 革ジャンにスウェット姿の彼が 何よりもぴったりはまっていた 形崩れした憂鬱を 着こなす彼の少し先に ほんのりと…

No.595 テフロン!

彼の顔はいつもよりテカテカしていた それもそのはず 今朝テフロンを塗り過ぎた 強くなった気分で誰かに怒鳴りつけても 硝子で出来た心臓は変わらない 彼は熱くなり 顔の上で目玉焼きを焼いた パンの上に乗せて食べれば そこそこの味だ ベーコンは もうこん…

No.594 無駄なことばかり考えた男!

彼は頬杖をついていた 右の掌が 右の頬骨を突き破るほど もう何時間そうしているだろうか 明るかった空が 暗くなるのを感じた 思い耽ることの正体について 彼が知ることはなかった ただ 脳内に住む深海魚の群れに 空想の手を差し伸べようとしていた 深海魚は…

No.593 リトルチョップな彼!

彼は啓発をする本が嫌いだった 腐るほどある意見の中から 自分と合う意見を見つけられずに 勝手に仲間外れにされているような気がした そこで 彼は自分の考えたことを説くため 啓発本の作成に取り掛かった スムージーをチョップする方法や ビートルをスプリ…

No.592 ディストピアには彼一人

許されないならば許してやるな 彼はそう思った そして許さなかった 人を愛することから逃げ過ぎて 一人で迷い込んだ ディストピア 森のように生えたビル群を 遠くから双眼鏡で眺めながら 彼はいつも ブツクサと言っていた それ以外の時間は 集めたものを数え…

No.591 ソファに座りながら

クリスタルのティーポットの中に ハーブティーを入れながら 彼女は言った 「あなたを止める気はないわ ただ…」 彼はソファに座りながら 彼女をまっすぐ見つめた 「ただ どうなるか分からない 世の中にはどうにもならないこともあるわ 責任を取れるなんて思え…

No.590 月と彼

彼は刑務所の前で誰かを待つフリをしていた 出所祝いに貰った吸い慣れない煙草を吸いながら 何もやらなかった罪は 思ったよりも彼を閉じ込めた 瞳を閉じて 深呼吸すると 煙草を捨てて歩いた いつの間に 何も知らないような顔で 彼を育てた街は 彼を出迎えて…

No.589 ブンチョウ!

放し飼いにされても 決まったルートを 行ったり来たりしているだけ 彼の相棒は羽ばたいて テレビから 部屋の角を曲がって またテレビに戻る 「窮屈な部屋にある 道標は何だ?」 彼は聞いてみたが 「とっても楽しい一日の始まり」 それしか返事はなかった 「…

No.588 眠れない彼は眠りたい!

彼の向こう側で夜が明ける 日差しが少し 溢れるくらい 昨日までのことが嘘のようで また引き戻される感覚 彼の向こう側で雨が降る 日差しは少し フィルターにかけられ 降り注ぐ場所を失った光は 雲の上で退屈そうにしている ソファの上で ベッドの上で 誰か…

No.587 幸福な彼に祝福を!

彼は目覚めると 祝福を受けていた 父も 母も 妹も 弟も 拍手をしていた 全てのものが白く統一された部屋で 彼は 今日起こることに期待を寄せた 彼はまず コックの格好に着替えた 帽子のシワをピッシリと整えた 鏡を何度も見て 思わず笑みが溢れた 何にも変え…

No.586 彼がアンナに出来ること

水が滴り落ちて 地面に溜まっていく ちゃぽんと鳴って 広がっていく 彼はその音を聞きながら 瞳を閉じている ひんやりとした洞窟の中で 瞑想をする しばらく経つと 一匹の鼠がやって来て 彼の太腿を一口食いちぎる 太腿の肉は鼠の腹の中で 彼を名残惜しく思…

No.585 クルーは今日も怠け者!

体調を崩した時計が 彼を起こさなかった 昼に起きては もう夜まで寝てしまいたい そう思いながら ウトウトしていると 宇宙船の外で 爆発音がした 穴はバルーンですぐに塞がったようだ 中にあった本が数冊溢れて 銀河の果てへと漂うだけで 一番大切な本は枕元…

No.583 汚物な彼

汚い瞬間に 汚い言葉を吐いた 彼は誰かを傷付けたかっただけだ そして 彼も攻撃を受けて 誰も得をしない時間が過ぎていった 彼が孤独を感じるようになるまで 彼を思い続ける人は居るだろうか 汚い瞬間はまた 必ずやって来て 汚い言葉も 誰かの口から吐き出さ…

No.582 彼と野良犬

立ち止まると ついてきた野良犬も立ち止まった 彼は振り返り 屈んでみた 野良犬はじっと彼を見つめたまま 近寄ることはなかった 彼が歩き始めると 野良犬はやはりついてきた 背中に美味そうな匂いでも付いているのだろうか? そんな考えで 服に鼻を当てて嗅…

No.581 ローズ!

お香に火をつけて 彼は数秒動けなくなった いつもと違う香りが 部屋に充満して 気が遠くなった このお香では 別次元へと行ってしまう 壁は紫になり 床は緑になり 屋根は気が遠くなるほどに黄色くなる 鼻をつまみ お香を消して ぐるぐるとする頭を抱えながら …

No.580 二人のヒーロー!

拙い言葉でまくし立てた 彼はいつだって 真面目な顔で 本物のヒーローについて 自分なりの思いをぶつけていた 彼の友人は耳にたこが出来て そのたこすら 彼の話に辟易していた しかし本物のヒーローは 彼の知らない場所で 今日も闘っていた 「ああ 変わった…

No.579 彼の爪!

爪が伸び過ぎた彼 爪切りを探しても見つからない ハサミで切ろうとしたが ハサミが欠けてしまった ハサミは彼を責め立てた 彼の寝ている隙に 髪を切ってしまおうと思った 実行には移さなかった 爪はすくすくと育って 可愛くて仕方がなくなった 彼のお気に入…

No.578 ジョークグッズ!

リザトリプタンは冗談抜きで効き目があった バスキアの絵のような頭の中の痛みが モンドリアンの絵のように整理された かといって 全てが解決したわけではない 彼が目玉を奥に押し込めて 痛みを忘れた脳に突っ込んでやりたくなった 衝動を抑えて歩いて行った…

No.577 虫の音を聴く男!

過ごしやすくなってきた夜に 虫の音をじっくりと聴いている その音は 今日あったどんな出来事よりも柔らかい 鼻血を流しながら 彼は優しさに包まれた 今日は 彼にとってかなり苦しいものだった 全てのものが彼に敵意を剥き出しにして 顔面を中心に殴られるよ…