うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所

No.267 解

私はほつれた糸だけを取るつもりだった だがスーツはいつまでも吐き出した 眺めていると止められなくなって やがて小さな穴が空いた 革の鞄の中には重要な書類が入っていた それをゴミ箱に放り込むと ポケットの財布を出して手に持ち 安い服屋へと入っていっ…

No.266 大きな犬

犬になりたい 人を噛み殺せるほど大きな そうしたら麻酔銃でやられるのだろうか 大きな手術をしたことはなく 経験がない 無理やり睡魔に引き込まれる眠りに憧れる 私の知っている睡魔はいつも乾いている 質の悪い 浅い眠りにしか誘わない きっと彼(あるいは…

No265

彼は私に新車を見せびらかしに来た 車については詳しくない 興味もない だが彼は車についてあらゆる方法でまくし立てる 仕舞いには 私は無能だと言っていた そして 私たちは車に乗って煙草を吸った 新車の独特なにおいと混ざり合って 毒物のようなにおいにな…

No.264

避ければ良い 滅茶苦茶な頭の中を覗かれる前に 殴られても蹴られても 何も言わないような群れだ 逃げれば良い 無茶苦茶な生活を咎められる前に 罵られても虐げられても 何も言えないような群れだ 都会へと通じる一本の線がある その線を辿れば気分が解ける気…

No.263 夜の街

忙しなく動き続ける 無神経な奴らの間を すり抜けるには こちらもそうするしかない 張った目玉 PCを見すぎた テニスボールを二個つけているようだ 私はガムを取り出し口に入れた 硬質な味 ミントは冷静さを分けてくれる 無神経な奴らは盲目だ 身体がぶつかっ…

No.262 喉仏

停止した立川行に乗ると 首を真上に傾けた女が対面に座っていた 乗客は少ない 端の方の座席 彼女の喉仏が話しかけてきた 「今日はどこへ行くの?」 後ろの夕陽が美しい 脂汗を照らす 「どこへも 用もなく彷徨う」 喉仏は高らかに笑った 客の扱いに慣れた商売…

No.261 洗い過ぎた服

こびり付いた汚れを洗うために 冷たい水に手を浸すような 意味の無い行為に酔いしれている 私は彼を「苦労人」とは呼ばない 恥ずかしそうに こっちを向いて笑う 彼はいつも私の言葉を聞いている 聞くだけ聞いて 自分の事は話さない 私の弱みを握り 誰かに話…

No.260 彼等

草臥れたソファ 身体が沈む スプリングが腰骨に刺さる 訴えかけてくるような外の光 いつものように 行き交う車 関節を外そう そして湯気の中 煮立った頃にはほぐれている 無事に夜まで過ごせたらゲームをしよう どちらの方が長く立っていられるか 行き詰まる…

No.259 OPEN

最高の夜を過ごした後に 見る夢にしてはみっともない 点滅する パチパチ ジージー 今にも破裂しそうな硝子管 コーヒーは苦かった それはそうだ 目覚まし用だ 誘蛾灯も パチパチ ジージー 今にも降り注ぎそうな死体の山 (蛍光色の森林をガイドしたのは 良く出…

No.258 休日

妻が寝る横で携帯をいじっていると どうしようもなく煙草を吸いたくなる (はっきり言って最早美味いのかもわからなくなってきているが) 夜遅くに帰る時は電車の中で冷や汗をかくほど中毒になっている 自分の部屋に行って煙草を取り出した 煙はやはり美味い…

No.257 壁の鳥の瞳

鳥が飛んでいる 手は届きそうにない 気持ちよさそうに羽ばたいている 銃声が響く 鳥が落ちてゆく 私は落ちた先へと歩いてゆく 鳥はまだ生きていた 血に溺れながら 私をじっと見つめて 蔑むように見つめて そして死んだ 空は青かった 私は鳥を抱えて麓へと降…

No.256

苦痛の塊がごろごろと蠢く 触れ合えば欠け 砕け 小さい苦悩の塊になる 小さくなっても また大きくなる そうやって埋もれる そうやって窒息する だから こんな天気の良い日には 部屋の明かりなどつける必要も無い そして カーテンも開けずに 脳が停止するまで…

No.255 灰

マスクをつけた男が鼻歌を歌っている 階段をのそのそ歩いていた老婆が愚痴を垂らす 雨は振ることも止むこともない 此処はもう十分に狂っているのではないだろうか 金切り声のような風に吹かれて ややコンクリートに沈んで か細いからだを支えるために 傘を三…

No.254 煙草

奥歯が勝手にくっ付いたまま 力を入れ続けていたことに気がついた 少し間隔を開けたが顎が痛む それから窮屈過ぎる頭の中で繰り返す場面 それは夢か それとも現実か ? (煙草だ 煙草がもう二 三本必要なだけだ) 助けを呼ぶ どうしようもない どうしようもな…

No.253 眠れない夜のために

このまま燃え盛る都市を見て 消えてなくなるのも悪くない オンボロの服を着た占い師は言っていた 「悪くなるだけで良いことは無い」 私はくだらない夢から目が覚めた 隣で眠る知らない女のガーターベルトは 月の光に照らされて虹色に見えた 電気を付けると真…

No.252 愛の詩.2

そう考えてみると 僕はきっと 自殺したくなるほど孤独になった時に やっと愛を知るのだろうと分かる 今までもそうだった その前にわかった試しがない 僕は今ゆったりとしたソファに座っていて そこで煙草をぷかぷか吸っているようなものなのだ 失った時に本…

No.251 愛の詩

愛について詩を書こう 僕はそう思って文章を考えた すると何も浮かばない 僕は愛をそれほど持ち合わせていないのかも知れない 詩人は愛を書くものなのだろうか 一遍や二篇は必ず書く決まりなのだろうか 僕が書けることと言ったら 行動から起こった現象くらい…

No.250

「わがままを聞いてください」 男は女に切り出した 「私に出来ることがあれば」 女は男に答えた それから二人は騒がしい街で ちょうど良い喫茶店を探し始めた 腹は減っていない ただお互いに もう少し時間が欲しいだけだ 「僕は知りたいことが山ほどあります…

No.249 苛立ち

革靴の男が何を考えているのか 視界の隅で足をパタパタとさせ 気にしないようにしても無駄で 荒んでいくのが分かる 心臓の方 重たい荷物を預かり 家までに片手は痺れて 無意味に震えている 家はまだまだ先にある 眠れない夜を過ごし 出かける時の重たさも 変…

No.248 腐った視神経

ピエール・ボナール展の看板の前に立った 美術館には久しく行っていない 美術館は一人で行っても退屈なだけだ 絵画に興味がない奴と行ったら尚更 陰気な顔に見えた 赤い背景の絵だ 女か男かもわからないその顔を眺めた 昨日吸った煙草の煙がまだ肺に充満して…

No.247 タイプライターとカフェとパンケーキと

タイプライターの音を立てている スマートフォンの機能ではあるが 安らぎと昂りをいっぺんに味わえ 単純なギミックだが面白いものだ 日焼けした皮膚がひりひりとする もう十一月だというのに日差しは 夏のように降り注いだままでいる アスファルトは楽しげに…

No.246 ハズレの映画

ダンボールの中に積まれた映画のパンフレットに ライターのオイルを垂らして火をつけてやりたい気分だ どうしようもないものを観せられて帰った夜のことだ その日以外では まぁ良かったものもあるが その日は帰りの電車の中でスーツが羽根を擦り合わせて ワ…

No.245 ブラックホール

宙ぶらりんな彼は 行ったり来たり 選択肢は増えるばかりで 減ることはなく 正しさや間違いをはかるものも持ち合わせず ただのうのうと生きているだけだ 朝日と夕日の違いすら分からず 朝昼晩に居場所が見当たらない 映画館に閉じこもる時間だけが憩いで あら…

No.244 金・土

金曜の夜は 騒がしい酒場の連中の声の中 帰りの電車では 携帯電話の女 叫びながら話す男 全て一致していた 不安も少し軽くなった 一人ではないと 言われたような気がした 土曜の朝に あいつに呼ばれた ふざけた要件で 時間を費やした けれど あいつなりに誠…

No.243 手紙

ミルクティーのような味のする水を飲んで 口の中を薄い茶色にした後にメンソールの煙が刺さる グリセリンと何かを混ぜた液体が 綿に染み込んでいる湯気を吸ってもこの刺激には適わないのだろう 鉄で出来た重厚感のある「煙草もどき」を片手に持った男は そん…

No.242 隣の女のため息

車の免許を持たない僕にとって 電車はかかせないものだ 今日も 固くも柔らかくもない座席に座り 傾いた日が照らす車内で本を読む イヤホンを付けて 音楽は鳴らさずに耳を守るが 隣の女のため息が大き過ぎて すり抜けてくる 憂鬱な気持ちに慣れたら 本を読む…

No.241 老いた室内犬

音が聞こえる 甲高くて耳障りだ 私はこの音が嫌いだ 太くて汚れた音も聞こえる 何を意味するかさっぱりわからないが また仲が悪くなったのだろう どうでも良い事だ 安らぎを求めるなら鉄の箱に閉じこもれば良い ただ私は 自身にそれを許さなかった 美しい朝…

No.240 彼に会う

そこら中に充満している 人のにおい 思いにも似て 重たくのしかかる 人の多い場所は これだから 彼に会うために 電車を乗り継いで ここまで来たけれど もう帰りたい 何を話すというのだろう 特に似ているわけでも無いのに 大きなキャリーバッグに足を轢かれ…

No.239 独り言が空を飛んで

独り言が空を飛んで 夢を見ているあの子に届けば良いのにな 知らないふりをしていても 気になることがある 僕の汚い部分を見せてしまったとしても 「そんなの私には関係無いわ」 あれは本当かな ぼんやりとしていたら また一日が過ぎて 一週間 一ヶ月 一年と…

No.238 此処

僕は此処に立っている ありふれた場所だ アスファルトの上だとか フローリング 畳 そんなものの上だとか あらゆる「此処」に立っている いずれ変わってしまうもの全てが イヤホンから流れてくる音楽に誤魔化され 広告の多い電車の中で立っている時なんかは …