うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所

No.231 外套

明度が極端に低くなったような 影に沈んでいく男がいた 古臭いトレンチコートを来て 夏の暑い中をそそくさと歩いてゆく 彼は忘れ去られた人物だった 名前も顔も 一致させるものが無い 真っ黒に塗ったような平面の顔で 点かないマッチを擦っている 酔っ払いに…

No.230 いいつけ

幼い頃 彼は父親に言われた 「涙など見せるな」 その言い付け通り 泣くことなく 四十まで生きてきた 笑うことも少なかったように思える 彼は女に去られた時も ただ窓の外に降る雨を見つめていた その女が死んだ知らせを受けても ただ消えた蛍光灯を見つめてい…

No.229 一つの瞳

彼が変色するたびに 周りの人は笑っていた 赤に 紫に 次第に どす黒く 笑みは消え 人は消えた 動物が腐りゆく肉を咥え 虫は卵を産み付けて 彼は穏やかに減っていった やがて白い骨だけになるまで それでも 彼はまだそこに居た 人々を思い返し 動物を 虫を 全…

No.228 無題

もやがかかった視界の先に 面倒なものが沢山落ちていて 近付いて 見ようともしないで 蹴飛ばして進むことしか出来ない 「誰もが病にかかっているのだろう」 彼はそう言っていた 「私は正気 貴方とは違う」 彼女はそう言っていた とてつもなく大きな山に見えるも…

No.227 ジッポー

冷たい感触のジッポーを額に当てた そして目蓋にも当てた 彼は疲れていた それでも ある程度の達成感があった 一日を こうして終わらせたのだ 次の日の夜 彼は同じようにしていたが 煙草が切れ 買いに出るとバイクが止まっていた そいつが今にも爆発しそうだ…

No.226 museum

絡まり合う視線 膨れ上がる肖像 擦れ合う息 物言わぬ見物人 コンクリートの上を歩く 綺麗に避け合い 縫うように 隠れんぼをしている子供たちがいた 迷子になった子供のアナウンスが聞こえた 紀元前の子供たちの彫刻があった 色彩豊かに殺戮される人々の絵の…

No.225 鳥

荒野に咲く一輪の花もいつか枯れる 彼はそう言って 昔の女を忘れた 海原に浮かぶビンもいつか誰かが拾う 彼はそう言って 新しい女を探した 虚しい日々 彼は気付いていたのに 考えを変えることもなく 忘れ続け 探し続けることだけを 生き甲斐にして 死に損な…

No.224 主人公

口笛を吹いている 彼はまた笑っている 両手を広げている 大して意味も無いのに 動き出した読み手の 息遣いに合わせても ページをめくってみても 彼は同じ場所にいる 口笛を吹きながら 彼はまた笑っている 真似が出来ない芸当 ずっと目を見開きながら 生まれ…

No.223 孤独な人の寝室

蟹の甲羅に似た携帯電話から あの人の声が聞こえる 空虚に時間を使っていると 寝室がまた更に膨張している ベッドに横たわると 腰の骨が踊り出すので 読書椅子に 深くため息を吐きながら座り どうしようもない夜の風を受けている 開けた窓を閉めたところで …

No.222 無題

どう足掻いても 辿り着かない そんな場所へと 向かう道には 悲しい者と 切ないものが 溢れかえって 道を塞いで 誰かに問われ 誰かに答え 誰かはそして 音も無く消え 顔も忘れて 目眩の中で 考え事が 頭に巡る 考え事は いつまでも回り 考えずには 居られなく…

No.221 線路沿いの病院

待合室でため息を聞いた 流麗な音楽が掻き消されて 汚らしい物体が 空中をかすめた それは黒い虫になって飛んでいった あらゆる本が並んでいる ポッケの中にも文庫本を入れている あの絵は誰が描いたのだろう 何の花だろう 木の扉の向こうでは どんな話をし…

No.220 無題

無機質な眼差しが捉える 彼は微動だにしない 生きているのかすら定かではない ただ 硝子玉のような瞳はこちらを見る 品定めが済んだら 値段を書いたネームプレートを渡され 黒い壁の部屋に通され 彼はそこまでの案内役を務めて消える 誰かの声がする 二倍 三…

No.219 無題

ただ一つとして同じものは無いのなら 惑わされてはいけないと彼は言った 理解し合う必要は無いと 彼女は考え 彼の元を去っていった 彼は悲しみに暮れた 扉を一枚隔てて 彼女がいるような気がして 彼は問い続けた 答えは無いと知りつつ 少し掛け違えただけで …

No.218 鉄

鉄を飲む もちろんそのままではない サプリメントは気休めに思えるが しかし 鉄が足りない 飢えている 舌や内蔵が頑丈であれば多少の錆でも と 鉄を食う もちろんそのままではない 刻み フライパンの上に油を垂らし キャベツやもやしも入れよう そしてバラン…

No.217 零時半

ストローで最後の一滴まで啜る音が 耳にこびり付いて眠れなくなるような夜 外で何が起ころうが気にすることもなく ただ孤独に蛍光灯を瞳で反射する 特別なものだと言われたこの眼鏡ですら 鼻に跡を付けるものでしかなく 青い光など遮る余裕も何処へやら行っ…

No.216 ゴム

ありふれた一日に 少しだけほつれがあることを見つけた 彼はそわそわし始めて 何をするにも落ち着きがなかった そのほつれは次第に大きくなってゆき 気が付けば彼と同じほどの大きさになった するとほつれは彼を飲み込んで この世ともあの世とも言えない場所…

No.215 未明

朝焼けの前の青さに 吸い込まれた夜が バイクの走る音に 最後を告げられて 街が反射する カーテンの隙間から見える 何もかも 灰色に 燃え上がるこの時間は 心の中まで この灰に取り憑かれ 息をすることも 恥ずかしくなる 寝相の悪さのせいで 台無しにしてし…

No.214 綿雲

君がどこへ行くのか 誰にもわからない けれど君と僕は 出会わなければならない 空を見上げる 二度と同じ形のない君に 願いを乗せてみよう 美しい場所へ 君だけでも 雨の日には見えない太陽よりも 快晴では見えない君の方が 僕にとっては 悲しいことで 眩しさ…

No.213 灰色の烏

振りやまぬ雨の中に 灰色が映る 水溜りに沈みそうな 街の中で揺れる そっと閉ざした傘を片手に 呆然と月があるはずの 空を眺める 金切り声をあげた ブレーキ音に 戸惑いを隠せずに 少しだけたじろぐ 塞ぎ込んでいたはずの 勇敢な涙が 野良犬に吠えられて 引…

No.212 薔薇

少女は悲しげに 蝶を追っていた 「幼き日々」とは 一日が早く過ぎて あっという間に 帰る時間になり 心配事と言えば 大したことはない 家に置いて来た ぬいぐるみを 弟がいじらないか そんなことだった 何もかも咥えこんでしまう そんな意地汚い口の中で 或…

No.211 絵描きのお絵描き

筆を取る子供たちの指が 絵の具を弾いている 服に付いたことも気にしていない ただ白い場所に 色を乗せるだけで良い 僕は 茶色い椅子に座って見ていた その光景に飽きは来なかった 夏になろうというのにカーテンも閉めたまま 部屋に閉じこもるのも悪くはない…

No.210 穴の空いた身体

目を閉じると不幸な自分が見える 不幸さを笑う他人も見える 見て見ぬ振りした奴らも見える それを眺める自分すら見える 全てが思い通りの空想の中でも 僕は僕の檻から 抜け出せたことはない いくら気取っていても 筒抜けのようで 穴だらけの身体に また穴が…

No.209 通り過ぎた夢

愛していた人の夢を見た 一つ一つの場面が良く出来ていた だけど僕は夢のストーリーに乗り 目が覚めるまでそれに従っただけ 彼女はあの頃のままの姿で 僕は少し辛くなった 周りの友達も居たけれど あの頃のようにはいかなかった 遠く離れて居たうちに 彼女は…

No.208 真夜中のサングラス

かけたサングラスを悔やんだところで 真夜中の散歩道は引き返せない 内ポケットにしまい込んだ銃の形のライター 脅しの文句は百通り以上ある それでも臆病さはつきまとうもので どんなに意地を張っても幽霊はいるもので 後ろから足音が聞こえるようで サング…

No.207 仮面・子供たち

車の外で仮面を被った子供たちが遊んでいる 僕は助手席に座りながらそれを眺めた 荷物を運ぶのにどれだけ時間がかかるのだろう やらなければならない事はたくさんあるのに 仲間からの連絡でリーダーは待機を命じた どうやら取引に問題があったらしい 国外の…

No.206 Digital watch

僕が持っているデジタル腕時計は一時間ごとにアラームが鳴る 三十秒早く設定したのは遅いよりもマシだからだ しばらく付けていない内に時計は一分強早くなっていた 別の時計に合わせて時間を調整した 一時間ごとに三十秒早くアラームが鳴る 僕はそれを基準に…

No.205 天国に一番近い街

オウムガイが繁殖している街で 餌になるのはエビでは無い 孵化を助けて 飼育を励ます小鳥 種の保存は海以外でも出来るらしい 透明の駅の中のバクテリア ステーキハウスとビヤホールが並ぶ 喫茶店の内装はニューカレドニア 移民たちの朝市で買った果物を食べ…

No.204 お題「愛は、時として刃物だ。」

愛は、時として刃物だ。 真実は、いつも残酷なものだ。 分かり合えないと誓いも揺らいで、 寂しさに隠れたくなり、心を閉ざしたくなる。 そして考える。僕らは何を求めているのだろう、と。 明日の朝目覚めて、愛する者が隣にいると、 何故言い切れるだろう…

No.203 2018.05.16

頭を上手く開いて 中を歯ブラシと洗剤で磨きたい 脳がナイロンのセーターを着ているみたいだ 昨日見た映画の登場人物が夢に出て来た 僕らは四人兄弟で 偽りの家族を演じていたみたいだ 両親の浮気 兄と弟の口論 そして粉まみれの殺人 何もかもが記号的なもの…

No.202 男

人通りの多い昼の街に 人見知りの男は歩いていた 心が奪われた昨日の夢の中に 車輪に擦れた一昨日の女が出てきた 百円で買った飴玉を舐めながら 笑いかけた女を映し出す星は 太陽に照らされて消えてしまった 男は気分が晴れるような気がした 要領の良さが 毛…