No.290 夏の日の少年

 


自家用ジェットのサンダルを履いて

駆け出した少年が水溜まりを飛んだ

話しても話させても足りない

聞いても聞かせても足りない そんな夏の日

 


イカ割りがしたかった

スーパーに並んだスイカを眺めながら

そこまで好きではない果物の前で

彼はひたすらにかいた汗を乾かした

 


風鈴の音がした 少年の心の奥から

そしてまた走り出した ポカリスエットを片手に

サッカーボールを蹴るために

何処かに潜む友人を探し当てるために

 


走り出したは良いものの

彼は迷子になってしまった

少年にとってこの街は大き過ぎた

涙が溢れそうになると 耐えるため独り言を言った

 


自家用ジェットのサンダルが脱げて

困ってしまったがそのまま歩いた

裸足ではアスファルトが熱過ぎて

デパートに入るとタイルが冷えて気持ちが良かった

 


そんな夏の日 彼は何かを失った

そして何かを得て 家までの道のりを思い出した

家に着くとスーツに着替え 書類をまとめ 革靴を履き

駅に向かい 電車に乗った 

 


並んだ頭に スイカ割りを思い浮かべながら

赤とピンクのちょうど隙間を縫いながら

彼は少年のまま 勤めている会社へと向かった

一日中落ち着きがなかった 早く帰りたかった

 


昼から夜まで働いた アルコールは飲めなかった

素晴らしい一日が終わってしまった

夏の日に ジェット機のサンダルに乗って

少年も何処か遠くの方へ飛んで行ってしまった

 

 

気まま日記 4/21

 

 

昨日今日、良い映画を観た。

6作品観て、心に深く残ったものは2作だった。

 

1番良かったと思ったのは、「万引き家族」だ。

是枝監督の映画に対する誠実さや、今まで培ってきた全てが集まって、1つの到達点に辿り着いたような作品だった。

是枝監督の作品は、「歩いても歩いても」「奇跡」「そして父になる」「海街diary」「三度目の殺人」を観ていて、中でも「奇跡」と「そして父になる」はとても思い入れがある作品だ。

万引き家族」は、その2作とはまた違った意味で思い入れ、愛おしく、大好きな作品になった。

 

「奇跡」で描かれる兄弟。

僕の親が離婚する時、「お前は母さんのところに行くのかな」と兄に言われ、「そうなのかな」と答えた事を思い出す(結局二人共父親の方でしたが)。

オーバーラップしてしまい、主人公と同化する程に感情移入してしまい、涙を流してしまい、とても好きな作品だ。

 

そして父になる」で描かれる父親。

若くして子供が生まれ、若くして離婚し、僕らを育てた父親が、確かに「そして父になる」瞬間があった、と気付かされた。

テーマや内容に差はあっても、父親というものになるために努力していく主人公に、父親をどうしても重ねてしまう。

 

この2作品は、僕のフィルターを通り、客観的に判断出来ないほど好きになってしまった作品だ。

 

万引き家族」はどうだったか。

 

映画を観る時、主人公に感情移入する時、どうしても自分と比較したりしてしまう。

ただ今回は、一家全員に感情移入してしまうというか、少なくとも前半部分、この家族がずっと幸せであって欲しいと思い続けた。

 

確かにあった絆や、ビー玉のように儚い光を放った、ありふれた(普通から見れば異常だが)日々の情景を観る度に、深く切なく、楽しく、悲しく、辛く、色々な感情に揺さぶられた。

たまにゾッとするような大人の顔。反対に、健気で愛おしい子供の顔。その狭間で、どっち付かずの顔。

特に、上から撮影された、「花火の音を聞きながら空を見上げる」シーン。

ほかの全ての場面も、くっきりはっきりと記憶に刻まれる、美しい場面や、汚い場面だった。

 

言葉では言い表せないくらい、映画を観ていて幸せだった。これが映画なんだなあとしみじみ思った。

 

そして後半。「正しきこと」に言い返せない切なさが、安藤サクラさんの演技から痛いくらい伝わり、それ以前の光景を共有してしまっているから余計に、「あの時、あの場所で、あんたらは確かに楽しかったよ。幸せだったよ」と、心の中で呟いてしまう。

 

映画を観終わり、答えが出ないからこそ、考えてしまい、ずっと思い出してしまう。

またあの家族に会いたいと思ってしまう。

 

そんな、今までのものとは違った、愛おしい映画だった。

 

まだまだ書ききれてはいないと思うけど、とにかく素晴らしかったので、感想を残しておきたかった。

 

結局客観的に判断出来ないほど素晴らしく、大好きになってしまった。

BluRayを買います。

 

ついでに言うと、これを社会の負の側面だけだったり、政治だったり(これは全く関係ないことだと思う)に結び付けて論じるのは、よくわからなかった。

社会の負の側面、それもあるけど、それだけじゃないし、それだけだったらここまで描けない。

もっと重層的なことを語っている。もしくは、誰かにとっての普遍的なこと。

 

納得の出来ない批評を見てしまって、ちょっと苛立ちもした。

ただ単純に、これからも何度も何度も観たい映画なんです。

 

 

No.289 ノコギリ

 

 

脳を切り開くノコギリ

そんなもののために彼は死んだ

彼にしか出来なかったことは

永遠に出来ないままだ

 


そのノコギリを

彼の親友が布巾で拭いていた

見つかることはない

隠れる必要もない

 


彼の親友は打ち勝ったと思っていた

彼がどれだけ力を持っていようと

そんなことは知ったことではなかった

また青い空の下で 普通に歩けるだけで良い

 


彼の親友は 彼を尊敬していた

だが ノコギリは容赦なかった

尊敬の上には畏怖があった

畏怖は強大になり 彼の親友を締め付けた

 


ただ少しの違いだった

ボタンのかけ違いのようなもの

そんなもののために 二人は決別した

二つの世界の 一つは消えた

 


ノコギリは道端に落ちていた

断頭台は束になって壁を作った

彼は彼なりに抗ったつもりだった

彼の親友は ただノコギリを拾った

 


彼はノコギリが頭蓋骨を擦る音を

死に至るまで鮮明に聞いていた

病理は精神に消されてしまった

彼は死んだ後もこの世に残った

 


彼の親友は 彼の面影を見た

鏡の中に その奥底に

畏怖だけの闇を感じ取った

自分にノコギリを使う度胸は彼の親友にはない

 

 

No.288 春

 

 

準備運動もままならず

ソフビ人形のような関節の動きに

春がやんわりと答えて

陽気の中でギシギシと歩いている

 


彼の頭のてっぺんは熱くなって

昨日見た夢が蒸発してしまった

とても良い夢だったような気がする

勿体ないと思って帽子をかぶる

 


どうせ散る花を 来年にまた咲く花を

彼はそこまでありがたがれなかった

道行く人は立ち止まり写真を撮っている

帽子を少し深く被り その横を過ぎる

 


結局夢は完全に忘れてしまったが

ひとひら落ちた花びらが鼻の上に止まり

彼の機嫌を取るように遊び

「まあ悪くないか」と心の中で呟いた

 


彼はいつの間にか知らない道を歩いていた

今日の予定まで蒸発してしまったらしい

別にどうでも良い 大したことではなかった

小鳥はそう鳴いているので そのまま歩いた

 


辿り着く場所は春の光景しかない

人々は呑気に上ばかりを見ている

青は桃色が気に入っているみたいだ

陽気は 天邪鬼さえも明るく照らしていた

 

 

テストです。

 

http://hiro0880.html.xdomain.jp/test2.html

 

改良の余地がまだまだありそうなので、時間がある時にちまちまと試して行きたいです。

 

まずはフォントをnoto sansに変えたいです。

あと、レスポンシブ対応頑張ります。

No.287 彼と街

 

 

街は穏やかに 黙り込んでいる

食べかけのポテチ 冷たいジャスミンティ

袋の重さで 右手が痺れた彼は

左手に持ち替えながら歩いた

 


家々の隙間を 曇天の空を

草臥れた陸橋を キャベツ畑の前を

彼は歩いた 時間は止まっていた

何かを動かすには まだ何かが足りない

 


きっと彼が 次に動き始める時には

どこかの誰かがそばに居るのだろう

「誰でも良いから気付いてくれ」

そんなことを 考えているかも知れない

 


ポテチを食べる ジャスミンティーを飲む

囁かな幸せが 喉を通って胃に落ちる

小鳥の囀りが 自転車のベルが 彼の溜息が

どこまでもこだまするくらい 街は静かだ

 

 

No.285 誰か

 

 

(二日酔いのような体調で目覚めた

酒なんて一滴も飲んでいなかった

彼は遠くの街で実家の仕事を継いだ

私は私で何かを始めようとしている

 


先月は7日間を1000円で過ごした

パンの耳に砂糖をかけて食べた

穴の空いた障子から見える景色が

やけに浮かれている気がした)

 


そんな誰かを想像ばかりしている

現実はもう少しましに過ごしている

過去を掘り当てると宝のような貧しい日々

哀れむ人も傍に寄り付かない日々

 


水滴を残して その日々は過ぎた

その水滴はたまに頭の湖に零れる

そうすると音は響きわたり 波紋を作り

それがわかるとまた誰かを作る

 


(一体何から始めたら良いのだろう

まともに考えることも出来ないでいた

始めようとしているだけで偉いと

学校の先生に言われた と嘘をつく

 


言い訳は私の特効薬になった

ソファベッドはいつも同じにおいがした

くだらない番組をやる時間ではないので

何となく目をつぶると深夜に目覚めてしまった)