No.252 愛の詩.2

 


そう考えてみると

僕はきっと

自殺したくなるほど孤独になった時に

やっと愛を知るのだろうと分かる

 


今までもそうだった

その前にわかった試しがない

僕は今ゆったりとしたソファに座っていて

そこで煙草をぷかぷか吸っているようなものなのだ

 


失った時に本当の価値を知る

という言葉はそこらの酔っ払いも使っている

本当の価値とは何か?

僕は愛が必要不可欠なものとは言えない

 


寂しいだけだ

僕はいつでも寂しい

誰かに構って貰いたくて

自分のことばかりを考えている

 


そんな奴に愛の詩など書けるわけがない

ソファが無くなり 煙草が切れ

やっとわかるような奴に

そんな資格があるとは思えない

 


そんなことを言いつつ

僕は妻を愛しているのは確かだ

その程度をはかる物があれば

計量カップでも定規でも使いたいくらいに

 

 

No.251 愛の詩

 

 

愛について詩を書こう

僕はそう思って文章を考えた

すると何も浮かばない

僕は愛をそれほど持ち合わせていないのかも知れない

 


詩人は愛を書くものなのだろうか

一遍や二篇は必ず書く決まりなのだろうか

僕が書けることと言ったら

行動から起こった現象くらいしかない

 


映画を見に行ったり街をぶらついたり

その中にも愛する心は必ずあるのだろう

けれど無くてはならないものでもなく

愛する人はどこへ行っても幸せならそれで良い

 


そんな僕のことだから勘違いをされやすい

妻はいつも不安そうだ

素直になれないだけではない ぽっかりと空いた穴

その深さや広さに足を取られそうになるだけだ

 


愛とは何かいつも考える

それでもすぐに飽きてしまう

愛は伝えることが出来ない部分が肝心だ

それでも伝えたいと悩む

 


心は囚われたままだ

僕は幼すぎて弱い

男でも女でもない

もしかしたら人間でもないかも知れない

 


だとしたら何か

そんなことは知ったことではない

虫ケラでも好きに呼んで構わない

ただ僕は愛の詩を書きたかっただけだ

 

 

No.239 独り言が空を飛んで

 

 

独り言が空を飛んで

夢を見ているあの子に届けば良いのにな

知らないふりをしていても 気になることがある

 


僕の汚い部分を見せてしまったとしても

「そんなの私には関係無いわ」 あれは本当かな

 


ぼんやりとしていたら また一日が過ぎて

一週間 一ヶ月 一年と過ぎてしまって

 


あの子もおばあちゃんになってしまうんだろうな

そんなことを考えてぽつりと一粒の涙

 


ふざけ合いたい 笑ったあの子が 手を叩いて

僕の下らない話を聞いてくれたなら

 


何も要らない 本当はもう少し そばに居たい

あの子が何処かへと攫われてしまう前に

 


独り言が空を飛んで

夢を見ている僕に降り注いだら良いのにな

知らないふりはしたくない 気になることがある

 

 

No.232

 


悲しくて涙が枯れた

手を伸ばして 掴もうとする影

涙の代わりに笑うと

影は消えてゆく 手を引き戻す

 


雨に濡れた服も気にならない

まぁこんなものなのだろう

愛を語れるほど大人ではない

愛を信じるほど子供ではない

 


全てくだらないと言ったあいつは

くだらない時間の中で生きている

こっちはきっと あいつよりも

くだらない時間の中で生きている

 


身体を重ねて何になる?

愛と恋の違いなど何になる

それは悲しみに比例するだけで

本当の傷にはならないのに

 


深い深い悲しみが涙を枯らすと

古ぼけた思い出は砂になって

そこにピラミッドと同じ形の

プラネタリウムがぽつんとあるだけ

 

 

No.228 無題

 

 

もやがかかった視界の先に

面倒なものが沢山落ちていて

近付いて 見ようともしないで

蹴飛ばして進むことしか出来ない

 


「誰もが病にかかっているのだろう」

彼はそう言っていた

「私は正気 貴方とは違う」

彼女はそう言っていた

 


とてつもなく大きな山に見えるものが

折り重なる人間の死体だったとしても

蹴飛ばしながら進むことに変わりなく

もやは一向に晴れることはないだろう

 


「誰もが気付いて欲しいと思っている」

彼はそう言っていた

「私は一人 気付かれずにいたい」

彼女はそう言っていた

 


彼も彼女も もう存在していないが

病は相変わらず 何処にでも存在している

蹴飛ばした靴に穴が空いてしまっても

視界の悪さに安心する日々は続いた

 


「誰もが美しい過去を思い返している」

彼はそう言っていた

「私は現在 過去でも未来でもない」

彼女はそう言っていた

 


もやがより濃くなっていき

その色が瞳に張り付いている気がした

彼と彼女が話したことも忘れてゆき

最後には足を止め 進むことはなかった

 

 

No.214 綿雲

 

 

君がどこへ行くのか

誰にもわからない

けれど君と僕は

出会わなければならない

 


空を見上げる

二度と同じ形のない君に

願いを乗せてみよう

美しい場所へ 君だけでも

 


雨の日には見えない太陽よりも

快晴では見えない君の方が

僕にとっては 悲しいことで

眩しさに 目を背ける

 


君と出会ったら

何を話せば良いのだろう

それとも君から

声をかけてくれるだろうか

 


迷う心も 揺るがない思いも

全てが風に流されて

美しい場所にさえ行き着ければ

僕は何も言うことはない

 


また変わり続ける君に会えれば

僕は何も言うことはない

 

 

そして僕は 変わらない思いを

君に乗せて 風にゆだね 時を過ごす

 

 

No.204 お題「愛は、時として刃物だ。」

 

 

愛は、時として刃物だ。

真実は、いつも残酷なものだ。

分かり合えないと誓いも揺らいで、

寂しさに隠れたくなり、心を閉ざしたくなる。

 


そして考える。僕らは何を求めているのだろう、と。

明日の朝目覚めて、愛する者が隣にいると、

何故言い切れるだろう? 何故、言い切れないのだろう。

傷付け合うことを恐れるが故に、傷つけ合ってしまう。

 


愛は、時として魔物だ。

秘密は、いつも凄惨なものだ。

分かり合えないことが多過ぎて、

悲しさに浸りたくなり、二匹は擦り減らされる。

 


そして考える。僕らは何のためにいるのだろう、と。

明日の朝目覚めずに、愛する者が横たわり、

何故生き永らえてしまったのか!何故、一匹が残ってしまったのか!

そんな風に引き裂かれることもあり得るのに、何のために?

 


刃物を持った魔物が、二匹並んでいる。

僕らは手を繋ぎ、明日までのカウントダウンを始める。

愛は時として、真実も秘密も潰してしまうスクラップ工場だ。

その時だけは、一匹が二匹でいる意味がはっきりとする。