No.214 綿雲

 

 

君がどこへ行くのか

誰にもわからない

けれど君と僕は

出会わなければならない

 


空を見上げる

二度と同じ形のない君に

願いを乗せてみよう

美しい場所へ 君だけでも

 


雨の日には見えない太陽よりも

快晴では見えない君の方が

僕にとっては 悲しいことで

眩しさに 目を背ける

 


君と出会ったら

何を話せば良いのだろう

それとも君から

声をかけてくれるだろうか

 


迷う心も 揺るがない思いも

全てが風に流されて

美しい場所にさえ行き着ければ

僕は何も言うことはない

 


また変わり続ける君に会えれば

僕は何も言うことはない

 

 

そして僕は 変わらない思いを

君に乗せて 風にゆだね 時を過ごす

 

 

No.204 お題「愛は、時として刃物だ。」

 

 

愛は、時として刃物だ。

真実は、いつも残酷なものだ。

分かり合えないと誓いも揺らいで、

寂しさに隠れたくなり、心を閉ざしたくなる。

 


そして考える。僕らは何を求めているのだろう、と。

明日の朝目覚めて、愛する者が隣にいると、

何故言い切れるだろう? 何故、言い切れないのだろう。

傷付け合うことを恐れるが故に、傷つけ合ってしまう。

 


愛は、時として魔物だ。

秘密は、いつも凄惨なものだ。

分かり合えないことが多過ぎて、

悲しさに浸りたくなり、二匹は擦り減らされる。

 


そして考える。僕らは何のためにいるのだろう、と。

明日の朝目覚めずに、愛する者が横たわり、

何故生き永らえてしまったのか!何故、一匹が残ってしまったのか!

そんな風に引き裂かれることもあり得るのに、何のために?

 


刃物を持った魔物が、二匹並んでいる。

僕らは手を繋ぎ、明日までのカウントダウンを始める。

愛は時として、真実も秘密も潰してしまうスクラップ工場だ。

その時だけは、一匹が二匹でいる意味がはっきりとする。 

 

 

No.198 誰かの愛

 

誰が誰を好むのかなど

誰も気にすることはない

何が何を望むのかなど

何も気にすることはない

 

彼は彼を受け入れるか

彼女が彼女を突き放すか

彼が彼女と手を組むか

彼女が彼を手放すか

 

そんなことなどちっぽけ過ぎて

何の役にも立ちはしない

そんなことなど捨てておけば

何の心配もいらない

 

この頃は 誰かの誰かへの感情が溢れて

僕の目に突き刺さり 心が沈む

愛など信じてはない 永遠などない

そんなことを信じても始まらない

 

誰かを愛することは容易く

誰かを憎むことも容易く

それほど価値のあるものではない

主張しても仕方ない

 

声を荒げる人々に

僕はいつまでも反発することだろう

愛する人々のことを

肯定しながらも 否定することだろう

 

そして僕の心もまた

誰のためにもならない

誰が誰を愛そうが憎もうが

そんなことは問題ではない

 

生きていかなければならない

苦痛は味合わなければならない

目をそらすことは出来ない

誰も逃げられない

 

勝敗など関係ない

死は平等に訪れる

それがとても怖くて

それがとてもとても幸福である

 

No.179 歪めいた形

 

 

感傷的なあなたと 不感症気味なわたしに


一輪華を添えて あの人笑顔で 手を振っていたの

 

夢みたいなイルミネーション 狂ったように見えるでしょう?


悲しいことなんて何もない わたしは言い聞かせた あなたに

 

ブラックコーヒーと タバコの香りで 涙がいっぱい


ドラックに焦がれ 堕ちたりしないでね

 

空っぽのへやに一人 タバコの香りが 壁紙にいっぱい


トラックに轢かれ 逝ったりしないでね

 

優柔不断を 鎧みたいに着て わたしに甘える


収集つかないよ 鎧剥ぎ取ってみても あなたの身体

 

鉄のように 硬くて 弾いてしまうと ひび割れそうで


わたしの爪は 超合金で 弾いてしまうと 崩れそうで

 

 

No.177 社員

 

 

押し込んだ憂鬱を

溜め込んだ苛立ちを

二言目にその添えそうになる

後はつまんで食べてくれ

 

工場の隙間から

見えている景色には

灰色の膜が張り

火種になりそうなダンボー

 

だだっ広い駐車場

真っ白なシフト表

誰も居ない 居た形跡もない

ルールの中 ループの中

 

そんな幻想は人気が無い

そこを目指し屋上に行く

階段を駆け上っても

麻痺しているアドレナリン

 

憂鬱と上手に踊ろう

隠しておどけて笑おう

苛立ちと上手に語ろう

誤魔化して冷やして飲み干そう

 

 

No.176 旅

 

 

 

 

旅をしよう

何処に行こう?

服を着よう

何を着よう?

 

 

覚めた朝 冷めた風

良い加減 飽きた街

見慣れてた 景色から

変わるには 三時間

 

 

旅をしよう

此処に行こう

夢を見よう

追いかけよう

 

 

春の言葉 尋ねたら

おばさんは こう言った

花言葉 精神美」

難しい わからない

 

 

旅をしたら

此処についた

追いかけたら

追いついた

 

 

夢の先 続く道

また歩こう まだ進もう

何も無い 筈はない

旅をしよう 僕と行こう

 

 

人々が 増えてきた

息を止め 足早に

通り過ぎ もっと奥へ

旅をしよう 君と行こう

 

 

 

No.175 喪失

 

 

ぶっ倒れそうな身体をベンチに座らせた
この公園には煙草の吸殻が多過ぎた
捨ててあった空き缶を灰皿にして
眩しい太陽から逃げるように日陰

 

そう はぐれてしまったのだ
勤め先には 訳あって行かなくなった
それから身体は日を数えるごとに重くなるし
このままでは畳に人型の穴が空くだろう

 

その穴を見て
死体が腐って 布団を 畳を 腐らせて…
そうやって出来た穴だと思う人が
きっと多いことだろう

 

しかし 忘れてはならない
まだ死んでいないのだ ベンチの上で息をし
蠅のようなか細い声で 鳴いていた
身体に集るのは 蠅ではなく視線だ

 

誰のものでもない視線
複数いる自分の視線
何処に居ても感じてしまう
お前のせいだ お前が悪い お前が弱い

 

お前が汚い
お前が逃げた
お前が居なければ
お前の周りは幸福だった

 

そんなことを
言われているような
口を動かさずに
囁かれているような

 

掻き消そうとしても
日陰の奥の奥に仕舞い込んでも
めり込み 突き刺し 視線に何処までも追いかけられた
罪悪感という名を借りて 何処までも追い詰められた

 

そして次の一歩をむしり取り
むしゃりむしゃりと素知らぬ顔で平らげた
右足をやったから腹一杯だと思いきや
几帳面に左足まで食いやがった

 

さて どうしたものかな
公園から出られなくなってしまった
腹も減って来たし 少し眠りたい
太陽はいつの間にか月にどかされていた

 

「おい お前 そこのお前
何してんだ こっちを見ろ
おい お前だよお前 聞こえてるだろ
蠅みたいな声でも 届いてるはずだろ」

 

声をかけていたのは下手くそな落書きだった
落書きに上手いも下手も無いが
この壁には そしてこの落書きには
誰かのほんの小さな精神すら残っていなかった

 

この落書きだ
自分は この落書きと同じだ
そういえば こんな顔をしていた
いや 待てよ 此処は何処だ?

 


気が付くと朝になった
畳には穴が開いていたが
その形は人では無く
小さな小さな円だった

 

公園からどう帰って来たのかわからない
今何時なのかもわからない
窓から差し込む光の加減で
夜が明けて間もないことだけがわかった

 

そして
身体は天井のシミになっていた
拭いても拭いても取れない
悪夢のような形でこびり付いていた

 

自分は 自分ですら無くなり
残ったのは小さな円の穴だけで
誰に顧みられることもなく
ただただ 寝室を見下ろしていた

 

 

それからというもの

ただただ 寝室を見下ろしている