No.179 歪めいた形

 

 

感傷的なあなたと 不感症気味なわたしに


一輪華を添えて あの人笑顔で 手を振っていたの

 

夢みたいなイルミネーション 狂ったように見えるでしょう?


悲しいことなんて何もない わたしは言い聞かせた あなたに

 

ブラックコーヒーと タバコの香りで 涙がいっぱい


ドラックに焦がれ 堕ちたりしないでね

 

空っぽのへやに一人 タバコの香りが 壁紙にいっぱい


トラックに轢かれ 逝ったりしないでね

 

優柔不断を 鎧みたいに着て わたしに甘える


収集つかないよ 鎧剥ぎ取ってみても あなたの身体

 

鉄のように 硬くて 弾いてしまうと ひび割れそうで


わたしの爪は 超合金で 弾いてしまうと 崩れそうで

 

 

No.177 社員

 

 

押し込んだ憂鬱を

溜め込んだ苛立ちを

二言目にその添えそうになる

後はつまんで食べてくれ

 

工場の隙間から

見えている景色には

灰色の膜が張り

火種になりそうなダンボー

 

だだっ広い駐車場

真っ白なシフト表

誰も居ない 居た形跡もない

ルールの中 ループの中

 

そんな幻想は人気が無い

そこを目指し屋上に行く

階段を駆け上っても

麻痺しているアドレナリン

 

憂鬱と上手に踊ろう

隠しておどけて笑おう

苛立ちと上手に語ろう

誤魔化して冷やして飲み干そう

 

 

No.176 旅

 

 

 

 

旅をしよう

何処に行こう?

服を着よう

何を着よう?

 

 

覚めた朝 冷めた風

良い加減 飽きた街

見慣れてた 景色から

変わるには 三時間

 

 

旅をしよう

此処に行こう

夢を見よう

追いかけよう

 

 

春の言葉 尋ねたら

おばさんは こう言った

花言葉 精神美」

難しい わからない

 

 

旅をしたら

此処についた

追いかけたら

追いついた

 

 

夢の先 続く道

また歩こう まだ進もう

何も無い 筈はない

旅をしよう 僕と行こう

 

 

人々が 増えてきた

息を止め 足早に

通り過ぎ もっと奥へ

旅をしよう 君と行こう

 

 

 

No.175 喪失

 

 

ぶっ倒れそうな身体をベンチに座らせた
この公園には煙草の吸殻が多過ぎた
捨ててあった空き缶を灰皿にして
眩しい太陽から逃げるように日陰

 

そう はぐれてしまったのだ
勤め先には 訳あって行かなくなった
それから身体は日を数えるごとに重くなるし
このままでは畳に人型の穴が空くだろう

 

その穴を見て
死体が腐って 布団を 畳を 腐らせて…
そうやって出来た穴だと思う人が
きっと多いことだろう

 

しかし 忘れてはならない
まだ死んでいないのだ ベンチの上で息をし
蠅のようなか細い声で 鳴いていた
身体に集るのは 蠅ではなく視線だ

 

誰のものでもない視線
複数いる自分の視線
何処に居ても感じてしまう
お前のせいだ お前が悪い お前が弱い

 

お前が汚い
お前が逃げた
お前が居なければ
お前の周りは幸福だった

 

そんなことを
言われているような
口を動かさずに
囁かれているような

 

掻き消そうとしても
日陰の奥の奥に仕舞い込んでも
めり込み 突き刺し 視線に何処までも追いかけられた
罪悪感という名を借りて 何処までも追い詰められた

 

そして次の一歩をむしり取り
むしゃりむしゃりと素知らぬ顔で平らげた
右足をやったから腹一杯だと思いきや
几帳面に左足まで食いやがった

 

さて どうしたものかな
公園から出られなくなってしまった
腹も減って来たし 少し眠りたい
太陽はいつの間にか月にどかされていた

 

「おい お前 そこのお前
何してんだ こっちを見ろ
おい お前だよお前 聞こえてるだろ
蠅みたいな声でも 届いてるはずだろ」

 

声をかけていたのは下手くそな落書きだった
落書きに上手いも下手も無いが
この壁には そしてこの落書きには
誰かのほんの小さな精神すら残っていなかった

 

この落書きだ
自分は この落書きと同じだ
そういえば こんな顔をしていた
いや 待てよ 此処は何処だ?

 


気が付くと朝になった
畳には穴が開いていたが
その形は人では無く
小さな小さな円だった

 

公園からどう帰って来たのかわからない
今何時なのかもわからない
窓から差し込む光の加減で
夜が明けて間もないことだけがわかった

 

そして
身体は天井のシミになっていた
拭いても拭いても取れない
悪夢のような形でこびり付いていた

 

自分は 自分ですら無くなり
残ったのは小さな円の穴だけで
誰に顧みられることもなく
ただただ 寝室を見下ろしていた

 

 

それからというもの

ただただ 寝室を見下ろしている

No.174 日記のようなもの(3/25)

 

だだっ広い場所の大きな金属
錆びて こちらを向いている
僕らは目的も無く歩いて来た
花に止まる蜂や 屋根の上を歩く烏

そして ぶっきらぼうに積まれた
大きな金属の写真を撮りながら

久し振りに煙草を買った
頭はぼんやりと春を確かめていた
子供の多いマクドナルドで
ポテトのLを一つとバーガー二つを頼んだ

青い看板を目印にして進み続けると
象が印象的な店を見つけた
中には色彩豊かな服や石があり
世界中で寄せ集められた品々だと書かれていた

歩き歩き 当てもなく歩き
やがて辿り着いたのはずっと前に住んでいた街
懐かしいと思いながら
夕方になったので帰りのバスに乗った

すっかり暗くなって家に着くと
疲労が頭にのしかかって来たが
一日の終わりにしては清々しく
写真に収めたものも満足のいくものだった

 

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No.172 ほんの短い家出

 

 

閉店したスーパーの前を横切る
駐車場に車は当然無い
目的を探して歩くけれど
あてもなく彷徨う羽目になりそうだ


(一人になりたい君は 寒そうな外に出かけた
その後を追うわけでも無く 僕は煙草を買った
夜空に吸い込まれてゆく煙が 何故か寂しそうだ
満天の星空を覆い尽くすほど 煙を打ち上げたくなった)


どうしようもない感情に流されて
どうしようもないことばかり数えて
君は何処かで何かをしているから
僕も何処かで何かをしているよ


告げるための言葉と
仕舞い込むための言葉を
量りに乗せたところで
重さが分かるわけでも無く


背負いこんだ過去が
僕らを責め立てているから
時には目を閉じて 耳を澄ませ
風の過ぎる音を聞いていよう


小さな部屋に帰って来た君は
凍えた声で少し呟いただけで
あとは黙って 俯いていた
僕も同じように 蛍光灯の下で置物になる


カメラで切り取った ほんの小さな物語が
夜の街を彩るのなら 君の姿を映したい
シャッター音を嫌うのなら 代わりに僕の瞳で
ほんの小さな物語を 綴るように 映したい

 

そんなことを思った 君の家出の後に

二人きりの日々の中 こんな日があっても良いと思える

No.171 従者

 

 

一日中煙草でも吸って
意味の無いことを考えていたい


改札でごった返す人の波も
通学路で遊ぶ賑やかな声も
憂鬱な顔をして佇むビルも
何も無い一日を ただ過ぎる一日を


求めながら 彷徨う頭の中は
何処までも広がる空洞のようで
見渡しても 音を鳴らしても
果てなど無く広がり続ける空間のようで


足を取られ 髪を引かれ
喉元に突き出された 鎌の色を覚え
ほくそ笑むそいつの眼差しの中に
笑い返す自分を見つける

 

一日中紫煙でも吐いて
意味のあるものを捨て去りたい


一日は終わり 一日は始まり
ただ過ぎる時間は 追い立てるためにあり
焦りながら 戸惑いながら 進むしか無く
それ以外に 何の手立てもなく 立ち向かうしか無く