No.143 おろかもの

 

たくさんの頭で考えていた

たくさんの景色を思い出していた

少年と少女は 手を繋ぎながら

辿々しく ただただ 歩いていた

 

目まぐるしく流れた日々に

石を投げても自分に跳ね返って来て

硝子は割れることなく 少年と少女は

狭苦しい場所を歩いていた

 

言葉だけを並べても伝わらない

仕草だけを眺めても分かり合えない

二人は寄り添って そして離れた

枝についた葉がひらひらと落ちるように

 

悲しいことに 少年と少女は

別々の道を行かなければならない

それでも石を投げていた頃より

少しだけ広い場所を歩いている

 

「僕と君は変わらなければならない」

言い聞かせる歌は ただただ辿々しく

「いつかこの先で会えると良い」

別れの言葉を胸に 歩き続ける

 

No.142 永い独り

 

夏が終わり 安堵している

日の光に目が焦げることもない

永遠の冬 雪のない田舎で

僕はただじっとしていたい

 

冷たい外気に触れぬように

毛布にくるまって数を数えて

誰に咎められることなく

朝と夜を交わしていきたい

 

そして訪ねる人があれば

数十個ある鍵を開けて

「すこしキュウクツになったなぁ」と

狭い部屋の中で語り合いたい

 

世間から切り離されて

何もない部屋の中で

愛が生まれるなら そのままにして

夢を見るならば 毛布を分け与え

 

そんな毎日を

ただ過ごしていたい

 

No.136 私と僕の愛

 

私の脳細胞 しっかりと捕まえて

あなたの好感を 搾り取るための愛

 

僕の老廃物 しっかりと流して

君の愛し方を 否定するような愛

 

振りまいた愛想と 振る舞いの愛憎と

混じる心と吐息は 冷めた素肌となって

 

やがて朝になる夜を 過ごしている時を

恥じる病とノイズは 冷めた光となって

 

差し込まれて 私の中へと

差し込んだら 僕の中へと

 

私は諦めて 差し込まれ

僕は改めて 差し込んで

 

光は一つになって 境界線はなくなる

朝も夜もなくなって 私も僕も一つに

 

二つに離れたら 愛すら忘れて

ただのあなたと 君になって

 

他人を着飾って 出かければ

腕を組むこともなく歩く

 

他人の言葉を 掛け合っていれば

誰にも気付かれずに歩ける