No.136 私と僕の愛

 

私の脳細胞 しっかりと捕まえて

あなたの好感を 搾り取るための愛

 

僕の老廃物 しっかりと流して

君の愛し方を 否定するような愛

 

振りまいた愛想と 振る舞いの愛憎と

混じる心と吐息は 冷めた素肌となって

 

やがて朝になる夜を 過ごしている時を

恥じる病とノイズは 冷めた光となって

 

差し込まれて 私の中へと

差し込んだら 僕の中へと

 

私は諦めて 差し込まれ

僕は改めて 差し込んで

 

光は一つになって 境界線はなくなる

朝も夜もなくなって 私も僕も一つに

 

二つに離れたら 愛すら忘れて

ただのあなたと 君になって

 

他人を着飾って 出かければ

腕を組むこともなく歩く

 

他人の言葉を 掛け合っていれば

誰にも気付かれずに歩ける

 

No.135 少女とウサギとヒツジ

 

こそこそ話す


ウサギの群れが


夢見がちな


少女の


夢の中で


陰口を叩くたび


少女は


うなされて


首元を掻いて


明日の


6時間目の


心配をしながら


放課後の


友人たちとの


関係を

 

模索していると


ウサギたちは


夢から出て


ヒツジたちが


代わりにやって来るのは


人々への恐怖心を


反映させているからであり


ウサギの残骸は


ヒツジたちの


寝床になっている

 

No.134 雄弁な木々

(詩とは

 小さな物語?

 大きな世界?

 たったひとつのもの)

 

木々が雄弁になると

窓ガラスは黙り込む

 

僕は椅子に座って

そんな景色を見ている

 

冷えてしまったコーヒー

香りは出て来た頃より薄れて

飲む気力まで失せてゆくと同時に

僕は木々の語りに聞き入った

 

「何年前にここに来たかなんてことは忘れてしまったが引っこ抜かれた彼らの代わりに我々は植えられた」

 

そのことを僕は知っていたけれど

彼はあまりにも

真っ直ぐ 伸びすぎていたので

 

窓越しに

不味くなったコーヒーを飲み干して

僕は席を立つことにした

 

No.133 変わることのない景色

 

変わることのない景色が彼を閉じ込めている

懐かしさに恋い焦がれ過ぎ去った時を磨いても

輝くのはひと時だけですぐに虚しくなる

忘れ去られた人々はいつも彼の周りを漂い

恨みつらみも無く ただただ報われずに嘆いている

 

そんな彼を愛した人もいた

そんな彼も人を愛していた

変わることのない景色の中で

彼は変わっていった

 

大きな雑音に巻き込まれて押しつぶされそうになって

彼は自分の顔や手の皺を見て最期の時を悟った

変わらない景色の中で老いていった彼に残ったものは

愛し 愛されていたと信じていた心だけだった

そして 変わることのなかった景色はどこまでも真っ白な空間に変わった

 

その真っ白な空間の広さに打ちのめされながら

彼は彼を忘れてしまった人々に嘆いている

 

No.132 あいつ

 

感覚がなくなるまでつねった頰
感覚がないのでいつまでもつねる
つねる必要すら無かったと知り
見知らぬ世界を歩き出す

 

知った顔が何人かいる
時代や性別がごちゃ混ぜだが
あれは担任の教師だったか
あれはいじめっ子の女装か

 

不思議なことに
人気者になれた
あいつを探したけれど
あいつは見つからなかった

 

鏡が現れた
大きくて高そうだ
自分の顔を見ると
あいつの顔になっていた

 

周りの人々がこちらを見て
あまりにも驚いていたので笑った
あいつだから人気者なんだ
あいつだから驚いているんだ

 

憧れはなく
蔑んでいたあいつが
初めて羨ましく思って
悔しさで涙が溢れた

 

あいつだから
皆が心配している
あいつだから
差し伸べる手がある

 

目覚めると
天井が低く見えた
壁は近づいて見えた
窮屈な部屋を出て空気を吸った

 

そしてあいつは
死にそうな顔で道を歩いていた
何故か安心して呼び止めると
あいつはこちらを向いて笑った

 

No.131 お似合いの二人

 

何をするにも覚束ない男と
何をするにもそつなくこなす女
二人は出会ってたちまち恋に落ちて
落ちた理由も分からぬまま真っ逆さまに

 

派手に着飾って飲み歩いた街並みに
小鳥が飛んでカラスが鳴いて二人きり
覚束ない足取りとそつなく動く頭で
計算してみれば明日はきっと夢心地

 

何気なく言った一言で窮屈になり
男は女を振り払うために必死
何気なく蘇った考えで幸福になり
女は男にしがみつくために必死

 

何をするにも冴えない男と
何をするにも要領が良い女
二人は出会ってたちまち愛に溺れて
溺れた理由も分からぬままに真っしぐらに

 

派手に飲み歩いた後に着く男の部屋に
置き忘れていた女のピアスと二人きり
覚束ない思考とそつなく動く身体ごと
計算高い女は明日はきっと夢の中

 

何気なく言った一言でその気になり
男は女を引き止めるために必死
何気なく裏切られた気分で不幸になり
女は男を見捨てるために必死

 

そんな毎日を繰り返す 怠慢な自由に
待ち構える未来は真っ暗な二人きり
美しく燃える朝日か夕日かも分からぬ太陽が
二人きりの部屋に差し込んでいる