No.90 ハキダメ処/2

落書きで 赤のクレヨン 使い切り 黒く濁った 血を描き出して/

深爪の 痛みで目覚め また眠る 繰り返しても 朝は遠のく/

蝉の声 五月の晴れに 鳴りだして こびり付いたら 朝にうつむく/

「忘れない」 この痛みにも 意味がある そう信じても 何にもならず/

脳内に 無数のヒビが 入っても 見た目変わらず 思想改装/

夜更かしで 瞳張り付く コンタクト 剥がれないまま 何年か経つ/

ピストルに 似せて作った 万華鏡 一人殺せば 散らばる破片/

額縁に 入れた少女の 見る夢は 御伽噺を 黒く染めゆく/

乗車券 無くしたままで 汽車に乗る 狸寝入りで 往復旅行/

青インク 滲み出た海 鮮やかに 腹を浮かべた 小魚の群れ/

何事も 抜かり無くとは いかなくて 今日拗らせ 貧しく暮らす/

自転車に 爆弾詰めて ペダル漕ぐ 夢にまで見た 都会の中で/

灰皿に 錆びた模様が 似合わない いっそこの血で 彩ってしまえ/

老人が 座って眠る ベンチには ハゲタカに似た 烏が集る/

雨が降る 街路樹濡らす 雨が降る 緑は黙り 俯いている/

空気にも 調子の悪い 時がある 今朝方だけで 数人死んだ/

夜空には 青一つなく 昼を待つ 来るはずだった 青空を待つ/

故障中 エレベーターの 扉開く 見えない細部 湧き出す恐怖/

話しても 無駄になるのは 老婦人 目的地には 辿り着けない/

羽のある 魚に乗って 雲の上 ひれある鳥で 海底探査/

目を閉じた 耳を塞いだ 口閉じた 鼻もつまんで 脳内会議/

怒りさえ 消えて失せたら 常夜灯 独り言には 拍車がかかる/

CDを PCに入れ 再生し 誰も聞かない 歌を覚える/

寂しさに 押しつぶされて ペラペラの 紙になったら 布団に潜る/

何もない 一日ならば過ぎるだけ 何かあっても ただ過ぎるだけ/

憂鬱は 打ち倒せても 蘇る エンカウントは 無限に続く/

学校に 忘れた鞄 取りに行く 誰も来てない 日曜の朝/

制服の 中に私服を 着て行って 帰り道には ゲームセンター/

暗がりで 照らされた顔 気味悪い 怖くなったら 帰りの支度/

千円を 崩した名残 小銭だけ 自販機見つけ コーヒーを買う/

ただいまも 言う気になれず 横になる 母が夕食 支度する音/

何もせず 家に籠もれば 憂鬱で 手首掻いたら ミミズが走る/

赤ペンを ミミズに沿って当ててゆく 何故か心地が 良くなる不思議/

夕食の 席でミミズが 暴れ出す 三日続いた カレーの仕業/

No.87 ハキダメ処/

 

カーテンの 裾からさした 陽の光 浮かぶ埃と 晴れぬ心と/


夢の中 逃げれば少し 楽になる 悪夢にもなりゃ 覚めて安堵し/


窮屈な ベッドの上で 苦しがる 横の女は いまだ寝ている/


飲んでいる コーラを全て 捨てたなら 流しのにおい マシになるかな/


暗がりに ポツリと光る 赤い点 人魂に似た テレビの端っこ/


「ジャンパー」を 「アウター」表記に 切り替える 今まで着てた 服を捨てつつ/


俺の声 僕の耳には 届かない 私の声は お前に届かず/


書きかけの 絵の次の筆 探してる うなされながら 絵の具を足して/


売れぬ絵を 部屋に飾れば 満足し これで良いかと 夢も捨てつつ/


わけもなく 涙を流す 八時半 晴れぬ心は 腫れて膿みだす/


SFに のめり込んでは 移りゆく 季節の合間に アストロノーツ/


親しげな 得体の知れない 生き物が 姿見の裏 顔を出しつつ/


鼻をかみ ビニール袋 捨てたなら コンタクト入れ また眠りだす/


現実と 夢の見分けも 付かぬまま 働くことの 空恐ろしさ/


捨てられた 子犬のような 婆さんが 今もこっちを じっと見ている/


侍が 切って切られて 血塗られて 夢が覚めたら 固まる鼻血/


犬猫の 動画を見つつ 煙草吸い 負け犬気分で 猫にまたたび/


ハムスター 買う計画も 破綻して びくともしない 置物を買う/


一日の 無駄の仕方を 競い合い 完敗したら こちらの大勝/


過ぎ去った たまの休みも ほぼ眠り 疲れは取れず 腹も痛める/


特撮で ヒーローになり 悪を討つ 着ぐるみ脱いで 酒を飲む夢/


外人と 異星人とを ごちゃ混ぜに ペラペラ喋る 何十ヶ国語/


スライスし 薄くなりゆく 玉ねぎを 水に浸して アクを抜きつつ/


レタスなど やぶり流水 皿に盛る 上に蒸し鶏 今日の朝食/


昼になり ファストフードに 溺れつつ 通行人に あだ名を付ける/


不謹慎 言葉で全て 片付けて 笑顔で描く 反ユートピア/


通勤の 電車の中で 高いびき サラリーマンの おかしい悲哀/


靴の中 蠢いたのは 羽虫かな 昨日殺した 小さな俺か/


日向にも 日陰にもなる 今日の日は 行く末見据え 震えて困る/


ドア開く そして閉じたら また開く まぶたの動き 真似するように/


フェンス越し 見える景色の つまらなさ 四季はくだらぬ どこにでもある/


冬も散り 春が咲いても また散って 夏が咲いたら 次は秋かな/


体調の 優れぬ今日の 遅延には 誰かの恨み 晴らされた痕/


ホームには 一人で喋る 女だけ 二人っきりでも ときめきもせず/


各駅で 止まらぬ駅の 奥深さ こんな所に 霊の行列/


DVD 回る音には 脳内を 搔き乱したる アレが滴る/


集めたら 捨てて掃いてを 繰り返し ペットボトルの キャップの遊び/


制服で 敬礼すれば 様になる その頭から 血が出ていても/


借金の 形に心臓 奪われる 返せる日まで 死に顔のまま/


戯れで たわんだ皮膚を 捻る指 吐息交じりに 殺意の一つ/


怖がりを 馬鹿にされても 直さずに 叩く石橋 過ぎても叩く/


青空と 曇り空との 中間の 何とも言えぬ 空の色々/


ポスターの 絵の具乾けば かさぶたと 一緒に剥がし 何故か清々/


気味悪い 男の指の 絆創膏 丸めて捨てた 血を隠しつつ/


赤ん坊 泣いてしまって 睨まれて 母親探し 店をうろつく/


ラクタの 城を崩して ほくそ笑む 錆がまわれば またほくそ笑む/


八分咲き 紫煙絡めて 待ち惚け 暗くなったら 散りゆく桜/


深々と 椅子に座って 目を閉じる 雑音の中 姿が消える/


空想の 大きさにさえ 怯えつつ 銃の感触 額に刻む/


中華そば 不味く作れば 客が来て 美味く作れば 客は遠のく/


埋もれゆく 記憶の彼方 砂と城 いくら掘っても 砂は減らずに/


狂おしく 咲いた花びら アスファルト 踏まれ踏まれて 押し花のよう/


ある日暮れ 些細なことで 腹を立て むず痒い腹 捌いて開く/


ボールペン ぐるぐる書きの 現代詩 破って捨てて 新しい紙/

 

No.86 Untitled

 

静寂を破って
どうしようもない罵声を
浴びせられるような
そんな気分になる午後

電子音の波がイヤホンから聞こえる
地を這うような低音が鼓膜を揺らす
誰よりも惨めで残酷な運命を抱いて
何処かに辿り着くまで穴を掘るような音

誰も知らない秘密を持っている
誰にも見せられない傷を負っている
誰かになりたいと思っている
誰かを陥れようと企んでいる

自分は自分だと証明出来るものが
この世に一つでもあるなら
情熱を注いで 命を費やして
今この時を飾り立て 彩ることも出来るのに

透明人間になった気がする
自分が何処を漂っているのかわからなくなる
せめてこの耳で鳴り響く音のように
何処かに辿り着くまで穴を掘れたら良い

悲しいことにそんな道具もない
虚しいことに誰かの手も借りられない
自分が自分であることを見失うほど
仮の自分が自分であると信じ込んでしまう

不安で押し潰されそうだ
煙草が身体中に巡り煙になりそうだ
不健康で不健全など構いはしない
堕落してこそ本当の自分になれそうだ

 

No.79 移りゆく

 

鼻白む君の顔に
終わりを感じていたのか
ただ退屈な時間が
終わりを伝えていたのか

 

あの頃の僕の言葉は
君の感情を乱して
あの頃の君の言葉は
僕の感情を壊して

 

移りゆく季節とは裏腹
全く変わらない気持ちとは
縁を切りたいのにバラバラに
千切れそうな切ない気持ちで

 


花開くのは新たな
恋心の先の愛で
ただ退屈な時間も
終わらなければそれで良い

 

あの頃の僕の言葉は
今も心の奥に眠り
あの頃の君の言葉は
今はもう消えてしまいそう

 

移りゆく気持ちとは裏腹
また同じ季節がやって来た
縁を切れたのにふとした時
千切れそうな切ない気持ちだ

 


花が散る頃にはもう
愛が消える頃にはもう
ただただ眺めているよ
終わりはそう怖くないよ

 

あの頃の僕の言葉は
君との時間を終わらせた
あの頃の君の言葉は
僕との時間をわからせた


移りゆく世界を眺めても
新しいものは見つからない
縁を切った流行り物の歌に
千切れそうな気持ちも湧かない

 


移りゆく心も僕たちも
正しいとは言えないとしても
縁を切った瞬間にもう
千切れそうな言葉を失う

 


移りゆく全てを認めては
正しいと信じて疑わず
縁を切りそうになったとしても
千切れてしまわぬよう繋いで

 


移りゆく
変わってゆく
そして君も
新しい季節に

 


移りゆく
僕の心
そして君も
新しい思いに

 

 

No.77 水面はいつも穏やかに佇み

 

 

詩人は釣り人と似ていると彼は言った
ひたすらに待ち続け
針にかかるのを待つしかない
詩人と釣り人の違いは
釣り上げたものがどんなガラクタでも
それを愛せるか愛せないかだ
詩人はガラクタを愛することが出来る
ラクタを愛せない詩人はただの釣り人だ
針にかかる獲物が何かを選べるはずもない
釣り上げられたものこそがその価値なのだ

 

そして僕は彼の言葉に感化されて詩を書いた
色々な工夫をしてみた
煌びやかにして目に付く詩を書いたり
どす黒く水に紛れる詩を書いたり
釣り上げられたものは
片手で数えられるほどだった
しかし僕はそれを愛することにした
彼の言う「釣り人」にはなりたくなかった
確かにガラクタが紛れていることもあった
しかし僕は釣り糸を垂らすことをやめなかった

 

そしてある日 自分が詩を書く意味を求めた
途端に釣り糸は切れて針は浮きと流されて行った
その時に僕はこう考えた
(意味などないものこそが詩なのではないか)と
そして僕は新しい釣竿と
新しい釣り糸と新しい浮きと新しい針を買った
そして自分の好きな場所に垂らしてみた
すると釣れなくても楽しいことに気がついた

 

僕は釣り人ではなく詩人になれたと感じた
波紋が新しい詩を頭の中に語りかけていた
そして僕は今自由に詩を書いている
恥ずかしげもなく恥ずかしいことを書いている
彼と同じように何も求めずに
ただひたすらに何かを待ち続けている
詩人は釣り人ではないかも知れないが
永遠に待ち人であり続けるのかも知れないと思う

 

 

No.72 石になったガム

 

吐き捨てたガムが
コンクリートに張り付いて石になる
それを見ながら彼は
人を待つことに飽き始めている

 

吹き荒ぶからビルは傾いて見え
傾いているから彼は落ち着く
ポケットにしまったライターを取り出し
煙草に火をつけると涙をこぼす

 

さあ うちに帰ろうか
あてもなく彷徨い歩く日々を終わらせて
彼の家は此処から遠く
電車は一時間に二本しかないけれど

 

煙草を灰皿に落として
水に浸かる音を聞く そして彼は思う
(これが夢ならどれだけ救われるか)
退屈で窮屈な人生のつまらない仮定

 

やっと来た電車の中はからっぽで
しばらくは貸し切りで揺られる
徐々に人が多くなると擦れる雑音で
熱を帯びた脳がストレスを抱く

 

さっき見つめていた
石になったガムが羨ましい
誰もいない静かな場所で
じっとしているだけで良いのだから

 

 

No.71 詩人の詩

 

朝早くに小鳥のさえずりが聞こえて
冷えた部屋の床に足をつける
ありふれた日常とありふれた寝不足で
ふらついた思考は時間の波間を漂う

 

おかえりとただいまを同時に言えたなら
僕はこの部屋から出なくて済むのに
電気を付けて寝癖を直しながら
自分の中で何かを殺さなければならない

 

詩人たちは今日も空回りしている
街は穏やかに彼らを包み込む
詩人たちの憂鬱を吸い込んだ空は
今にも壊れそうに青く佇む

 

僕は思ってもいないことを
他人に話さなければならない
いつか帰るべき場所を探して
本心を隠し通さなければならない

 

それに疲れたら一瞬でも忘れて
詩を書いてみるよ それが詩と呼べなくても
誰かに必要とされたいと思っても
詩は書いた途端に僕のものじゃなくなるけれど

 

疑うことや怒ることをやめずにいよう
僕は彼らに追いつけないかも知れないけれど
好きなことを絶えずに続けていれば
いつか小さなものでも遺せると信じて

 

詩人たちは苦しまなければならない
苦しみを詩にしなければならない
そう自分を追い込んで行くと
どこかに消え果てたくなってしまう

 

だから僕は今日も誰かの皮を被って
異星人と話すように誰かと話すだろう
その皮が剥がれ落ちたその時に
僕を理解出来る人は僕の詩を読むだろう