No.79 移りゆく

 

鼻白む君の顔に
終わりを感じていたのか
ただ退屈な時間が
終わりを伝えていたのか

 

あの頃の僕の言葉は
君の感情を乱して
あの頃の君の言葉は
僕の感情を壊して

 

移りゆく季節とは裏腹
全く変わらない気持ちとは
縁を切りたいのにバラバラに
千切れそうな切ない気持ちで

 


花開くのは新たな
恋心の先の愛で
ただ退屈な時間も
終わらなければそれで良い

 

あの頃の僕の言葉は
今も心の奥に眠り
あの頃の君の言葉は
今はもう消えてしまいそう

 

移りゆく気持ちとは裏腹
また同じ季節がやって来た
縁を切れたのにふとした時
千切れそうな切ない気持ちだ

 


花が散る頃にはもう
愛が消える頃にはもう
ただただ眺めているよ
終わりはそう怖くないよ

 

あの頃の僕の言葉は
君との時間を終わらせた
あの頃の君の言葉は
僕との時間をわからせた


移りゆく世界を眺めても
新しいものは見つからない
縁を切った流行り物の歌に
千切れそうな気持ちも湧かない

 


移りゆく心も僕たちも
正しいとは言えないとしても
縁を切った瞬間にもう
千切れそうな言葉を失う

 


移りゆく全てを認めては
正しいと信じて疑わず
縁を切りそうになったとしても
千切れてしまわぬよう繋いで

 


移りゆく
変わってゆく
そして君も
新しい季節に

 


移りゆく
僕の心
そして君も
新しい思いに

 

 

No.77 水面はいつも穏やかに佇み

 

 

詩人は釣り人と似ていると彼は言った
ひたすらに待ち続け
針にかかるのを待つしかない
詩人と釣り人の違いは
釣り上げたものがどんなガラクタでも
それを愛せるか愛せないかだ
詩人はガラクタを愛することが出来る
ラクタを愛せない詩人はただの釣り人だ
針にかかる獲物が何かを選べるはずもない
釣り上げられたものこそがその価値なのだ

 

そして僕は彼の言葉に感化されて詩を書いた
色々な工夫をしてみた
煌びやかにして目に付く詩を書いたり
どす黒く水に紛れる詩を書いたり
釣り上げられたものは
片手で数えられるほどだった
しかし僕はそれを愛することにした
彼の言う「釣り人」にはなりたくなかった
確かにガラクタが紛れていることもあった
しかし僕は釣り糸を垂らすことをやめなかった

 

そしてある日 自分が詩を書く意味を求めた
途端に釣り糸は切れて針は浮きと流されて行った
その時に僕はこう考えた
(意味などないものこそが詩なのではないか)と
そして僕は新しい釣竿と
新しい釣り糸と新しい浮きと新しい針を買った
そして自分の好きな場所に垂らしてみた
すると釣れなくても楽しいことに気がついた

 

僕は釣り人ではなく詩人になれたと感じた
波紋が新しい詩を頭の中に語りかけていた
そして僕は今自由に詩を書いている
恥ずかしげもなく恥ずかしいことを書いている
彼と同じように何も求めずに
ただひたすらに何かを待ち続けている
詩人は釣り人ではないかも知れないが
永遠に待ち人であり続けるのかも知れないと思う

 

 

No.72 石になったガム

 

吐き捨てたガムが
コンクリートに張り付いて石になる
それを見ながら彼は
人を待つことに飽き始めている

 

吹き荒ぶからビルは傾いて見え
傾いているから彼は落ち着く
ポケットにしまったライターを取り出し
煙草に火をつけると涙をこぼす

 

さあ うちに帰ろうか
あてもなく彷徨い歩く日々を終わらせて
彼の家は此処から遠く
電車は一時間に二本しかないけれど

 

煙草を灰皿に落として
水に浸かる音を聞く そして彼は思う
(これが夢ならどれだけ救われるか)
退屈で窮屈な人生のつまらない仮定

 

やっと来た電車の中はからっぽで
しばらくは貸し切りで揺られる
徐々に人が多くなると擦れる雑音で
熱を帯びた脳がストレスを抱く

 

さっき見つめていた
石になったガムが羨ましい
誰もいない静かな場所で
じっとしているだけで良いのだから

 

 

No.71 詩人の詩

 

朝早くに小鳥のさえずりが聞こえて
冷えた部屋の床に足をつける
ありふれた日常とありふれた寝不足で
ふらついた思考は時間の波間を漂う

 

おかえりとただいまを同時に言えたなら
僕はこの部屋から出なくて済むのに
電気を付けて寝癖を直しながら
自分の中で何かを殺さなければならない

 

詩人たちは今日も空回りしている
街は穏やかに彼らを包み込む
詩人たちの憂鬱を吸い込んだ空は
今にも壊れそうに青く佇む

 

僕は思ってもいないことを
他人に話さなければならない
いつか帰るべき場所を探して
本心を隠し通さなければならない

 

それに疲れたら一瞬でも忘れて
詩を書いてみるよ それが詩と呼べなくても
誰かに必要とされたいと思っても
詩は書いた途端に僕のものじゃなくなるけれど

 

疑うことや怒ることをやめずにいよう
僕は彼らに追いつけないかも知れないけれど
好きなことを絶えずに続けていれば
いつか小さなものでも遺せると信じて

 

詩人たちは苦しまなければならない
苦しみを詩にしなければならない
そう自分を追い込んで行くと
どこかに消え果てたくなってしまう

 

だから僕は今日も誰かの皮を被って
異星人と話すように誰かと話すだろう
その皮が剥がれ落ちたその時に
僕を理解出来る人は僕の詩を読むだろう

 

 

No.68 夢の住人

 

遠い昔 夢を見ていた
少年は 今はもういない
悲しいけれど 事実を歌う
私はきっと 夢の住人

 

遠い景色 眺めていても
少女には 何も見えなくて
寂しいけれど 事実を歌う
あなたはきっと 夢の住人

 

少年と 少女には
私たちは もう見えなくて
切ないけれど 事実を歌う
やがて消える 夢の住人

 

頭の中だけ 世界が広がる
行方知れずなら とりとめもない
貧しいけれど 幸福歌う
静かに踊る 夢の住人

 

 

No.65 懺悔に似た回顧

…これは現実にあった話を基にしている…


いや
僕の家族はきっと
僕が生まれた後の数年だけが幸福だった

僕には兄がいる
兄は幸福だ
何故なら僕が生まれる前までは
両親のまともな愛を独り占め出来たのだから

僕は一人遊びが好きで
父親
「お前は一人で遊んでしまうから遊び方がわからなかった」
と言っていた
その名残からか
今でも一人で考え事をするのが好きだ

空想の中で僕は魔法使いだった
あるいはドラゴン使いだった
SFやファンタジーに想いを馳せて
母がたまに内職に使う程度の
大きなパソコンのワードに物語を綴った

主人公は
家電量販店のマッサージチェアに座っている
すると向こうから不思議な老人がやってきて
「私と一緒に来い」
と言うのだ
主人公は頼れる者がいないいわゆる孤児で
その老人に導かれるまま魔法学校へ…

そんな話を信じて
そんな話を綴った

僕は夢を見ていたのだ
今も夢を見ているのだろう
父と母はそんな僕の空想を
僕だけのものだと思ってくれていた
だから興味のある本は買ってくれたし
ゲームよりそっちの方が魅力的だった

幼稚園から小学校に上がる頃になると
社会が牙を剥き始めた
本能的に生きていた僕は
学校では問題児扱いだった
泣きながら兄と帰り
「だってムカついたから」
と犯罪者のような台詞を吐いていた

先生はいつも僕を監視した
優しく あるいは厳しく
その先生の思惑の上で僕は転がされた
そして小学三年に上がる時
突然引越しすることを告げられた

転校初日
忘れもしない
僕は何故かわからないが
同級生に首を絞められた
それからと言うもの
転校先が嫌いで仕方なかった

場所が変わっても僕は問題児だ
兄は大人しかったので
僕に腹を立てても許してくれた
今思えば
あの頃の僕は兄に守られていたのかもしれない

きっかけは何かはわからないが
学級閉鎖するほどの異常事態にもなった
同級生に馴染めない僕は
母に「お前のせいだ」と言われた
その時は戸惑ったが
今思えば
そうだったのかも知れない

覚えていることは断片的だし
その頃の空想癖を考えると半分は夢かも知れない
ただその小学校は僕にとって監獄で
毎日投獄されるようなものだった

兄に連れられ兄の友達と良く遊んだ
兄の友達は口々に
「生意気な弟だね」
と話しているのはわかった
我慢させていると自覚したのはその頃だ
しかし僕の行動はさらに過激になった

小学三年と四年の頃に頭を支配したのは
幼稚園の時に母が狂った記憶だった
「狂った」は例えじゃない
精神的に追い詰められ
僕たちは虐待に近いことをされていたのだ

芸能人が夫になると言われ
父について行くか?と本気で聞かれたり
物心もつかない頃に
理屈を捻じ曲げた説教を何時間も聞いた
一番良く思い出すのは
「指しゃぶりをするから」
と言う理由で後ろ手にガムテープを巻かれ
口にまでガムテープを貼られたことだ
その事実を
父が知っているかは僕にはわからない

いずれにしても
めちゃくちゃな毎日だった
小学五年と六年になって
システムをようやく理解してきた
それは父と母が離婚して
父が僕と兄を母から隔離したからだ

父が子供の頃に使っていたらしい
当時 築七十年は過ぎていた平家を引っ越して
祖母の家に近いマンションに住んだ
それからはまさしく男の世界だった

父は夜遅く帰ってきたので
祖母の家で夜ご飯と風呂を済ませ
九時ごろに家に帰るのが当たり前だった
しかし後から聞くと
夜中に出歩いている「問題児」と
保護者たちに白い目で見られていたらしい

僕の何がそんなに問題だったのか?
そんなことはわからない
小学校にはいじめも暴力も存在していた
僕にはそれがくっきりと
重く重くのしかかった
僕もいじめ いじめられ
暴力を振るわれ 暴力を振るった
そんな世界だ
子供は夢を見て
大人の言うことを聞くなど
大人の夢だった

母がいた頃
僕と兄を連れて
車のガソリンがなくなるまで
何処か遠くへ行ったことがある
何処に行き着いたかはわからない
山奥のコンビニで眠った
翌日警察に連れられ
父が迎えに来た
その記憶は不思議なことに
本物か嘘かわからない
そんな不確かな話だが
僕にとっては切実な空想を作り出す
大きな素材 もしくは骨格になった

小学校を卒業する頃には
僕は頭の中で完全な世界を作っていた
それは何をしても許される世界で
現実世界の中学校にはみ出して来た

許されないことを何度もしたし
何か悪いことがあると
まず僕が悪いと決めつけられた
しかし残念なことに
決めつけられた罪は外れてはなかった
僕は坂を転がりだして止まらなくなった鉄球のように
社会の中で孤立する道を選びかねなかった

その道を選ばなかった理由は
父と兄の存在だろう
父と兄は当時頭が良くて
僕が知らないことを全て知っていた
数学が得意で
何でも合理的に考えることが出来た

僕はそんな二人に憧れ
合理的に自分の罪を正当化しようとした
ただ中学三年にもなると
それが限界に達して
とうとう悪いことをするべきじゃないと思い知らされた

母とはたまに会うくらいで
授業参観に来るのは嬉しかった
小学生時代には保護者会にも出ていた
母親失格と烙印を押されて
窮屈な思いもしたはずだろう
しかし母は
僕の見えないところで戦っていた

今思えば
全て僕が元凶かも知れない
厄介者の役立たず
僕はそう自分に言い聞かせた
そしてそれを演じていた
それも事実かも知れない

家族崩壊も学級閉鎖も
友達が出来ないのも
全てが僕の仕業だったのかも知れない
それを僕が望んでいたのか?
それは違う
ただただ寂しさに負けていた
孤独に打ち勝つすべを知らなかった

そのすべを知ったのは
本当の意味での「友人たち」に出会ってからだ
しかし
その友人たちはもう僕の中で死んでしまった
そして
友人たちの中で僕はもう死んでしまった
だから話すべきではないだろう

僕は間違えている
いつもそう思う
何を選択してもどんな道に進んでも
間違えているのだ
だからこそ面白いと感じる
僕は今置かれている状況が切迫すればするほど
もっと間違えてしまいたいと思っている

きっと間違いを正すことよりも
間違えを正しいことだと思えるようになったのだ
正解の道はこの世にはない
あの世に行ってからゆっくり探すことにする

とりあえずこのくらいで
僕の話はよしておこう
最後まで読んでくれた人がいるなら
それが間違いだと思わないことを願うだけだ

No.58 断片集

 


布団には 詰まった麻薬 秘めやかに
バレることなく 起きることなく

 

常夜灯 暗がり欲しさ 水欲しさ
乾いた喉に 薄暗い糸

 

画面割れ 顔が二つの 著名人
やけにいらつき 電源を消す

 

小鳥鳴く 電線の上 曇り空
感電死した 幻想覗く

 

今月の 給料袋 破り捨て
家計簿捨てて 浮世も捨てる

 

息もせず 死にもしないで 見上げれば
天井の影 怪物の顔

 

映画館 一人っきりで スプラッター
切り刻まれた 腕を食べつつ

 

諦めで 瞼を閉じた 情けなさ
夢は現に 喰われて死んだ

 

カルタ絵の 語る笑顔の 恐ろしさ
無数の蟻が 巣に持ち帰る

 

お互いの 凹凸合わせ 絵になった
パズル崩せば 視界は滲む

 

置き去りの 傘の錆すら 美味そうに
見える飢えには 垂れる雨粒

 

服役中 園児の声が 響いたら
耳を塞いで 描く血飛沫

 

殴りつけ 殴られ続け 腫れ上がる
心の中では 憎悪が育つ