No.72 石になったガム

 

吐き捨てたガムが
コンクリートに張り付いて石になる
それを見ながら彼は
人を待つことに飽き始めている

 

吹き荒ぶからビルは傾いて見え
傾いているから彼は落ち着く
ポケットにしまったライターを取り出し
煙草に火をつけると涙をこぼす

 

さあ うちに帰ろうか
あてもなく彷徨い歩く日々を終わらせて
彼の家は此処から遠く
電車は一時間に二本しかないけれど

 

煙草を灰皿に落として
水に浸かる音を聞く そして彼は思う
(これが夢ならどれだけ救われるか)
退屈で窮屈な人生のつまらない仮定

 

やっと来た電車の中はからっぽで
しばらくは貸し切りで揺られる
徐々に人が多くなると擦れる雑音で
熱を帯びた脳がストレスを抱く

 

さっき見つめていた
石になったガムが羨ましい
誰もいない静かな場所で
じっとしているだけで良いのだから

 

 

No.71 詩人の詩

 

朝早くに小鳥のさえずりが聞こえて
冷えた部屋の床に足をつける
ありふれた日常とありふれた寝不足で
ふらついた思考は時間の波間を漂う

 

おかえりとただいまを同時に言えたなら
僕はこの部屋から出なくて済むのに
電気を付けて寝癖を直しながら
自分の中で何かを殺さなければならない

 

詩人たちは今日も空回りしている
街は穏やかに彼らを包み込む
詩人たちの憂鬱を吸い込んだ空は
今にも壊れそうに青く佇む

 

僕は思ってもいないことを
他人に話さなければならない
いつか帰るべき場所を探して
本心を隠し通さなければならない

 

それに疲れたら一瞬でも忘れて
詩を書いてみるよ それが詩と呼べなくても
誰かに必要とされたいと思っても
詩は書いた途端に僕のものじゃなくなるけれど

 

疑うことや怒ることをやめずにいよう
僕は彼らに追いつけないかも知れないけれど
好きなことを絶えずに続けていれば
いつか小さなものでも遺せると信じて

 

詩人たちは苦しまなければならない
苦しみを詩にしなければならない
そう自分を追い込んで行くと
どこかに消え果てたくなってしまう

 

だから僕は今日も誰かの皮を被って
異星人と話すように誰かと話すだろう
その皮が剥がれ落ちたその時に
僕を理解出来る人は僕の詩を読むだろう

 

 

No.68 夢の住人

 

遠い昔 夢を見ていた
少年は 今はもういない
悲しいけれど 事実を歌う
私はきっと 夢の住人

 

遠い景色 眺めていても
少女には 何も見えなくて
寂しいけれど 事実を歌う
あなたはきっと 夢の住人

 

少年と 少女には
私たちは もう見えなくて
切ないけれど 事実を歌う
やがて消える 夢の住人

 

頭の中だけ 世界が広がる
行方知れずなら とりとめもない
貧しいけれど 幸福歌う
静かに踊る 夢の住人

 

 

No.65 懺悔に似た回顧

…これは現実にあった話を基にしている…


いや
僕の家族はきっと
僕が生まれた後の数年だけが幸福だった

僕には兄がいる
兄は幸福だ
何故なら僕が生まれる前までは
両親のまともな愛を独り占め出来たのだから

僕は一人遊びが好きで
父親
「お前は一人で遊んでしまうから遊び方がわからなかった」
と言っていた
その名残からか
今でも一人で考え事をするのが好きだ

空想の中で僕は魔法使いだった
あるいはドラゴン使いだった
SFやファンタジーに想いを馳せて
母がたまに内職に使う程度の
大きなパソコンのワードに物語を綴った

主人公は
家電量販店のマッサージチェアに座っている
すると向こうから不思議な老人がやってきて
「私と一緒に来い」
と言うのだ
主人公は頼れる者がいないいわゆる孤児で
その老人に導かれるまま魔法学校へ…

そんな話を信じて
そんな話を綴った

僕は夢を見ていたのだ
今も夢を見ているのだろう
父と母はそんな僕の空想を
僕だけのものだと思ってくれていた
だから興味のある本は買ってくれたし
ゲームよりそっちの方が魅力的だった

幼稚園から小学校に上がる頃になると
社会が牙を剥き始めた
本能的に生きていた僕は
学校では問題児扱いだった
泣きながら兄と帰り
「だってムカついたから」
と犯罪者のような台詞を吐いていた

先生はいつも僕を監視した
優しく あるいは厳しく
その先生の思惑の上で僕は転がされた
そして小学三年に上がる時
突然引越しすることを告げられた

転校初日
忘れもしない
僕は何故かわからないが
同級生に首を絞められた
それからと言うもの
転校先が嫌いで仕方なかった

場所が変わっても僕は問題児だ
兄は大人しかったので
僕に腹を立てても許してくれた
今思えば
あの頃の僕は兄に守られていたのかもしれない

きっかけは何かはわからないが
学級閉鎖するほどの異常事態にもなった
同級生に馴染めない僕は
母に「お前のせいだ」と言われた
その時は戸惑ったが
今思えば
そうだったのかも知れない

覚えていることは断片的だし
その頃の空想癖を考えると半分は夢かも知れない
ただその小学校は僕にとって監獄で
毎日投獄されるようなものだった

兄に連れられ兄の友達と良く遊んだ
兄の友達は口々に
「生意気な弟だね」
と話しているのはわかった
我慢させていると自覚したのはその頃だ
しかし僕の行動はさらに過激になった

小学三年と四年の頃に頭を支配したのは
幼稚園の時に母が狂った記憶だった
「狂った」は例えじゃない
精神的に追い詰められ
僕たちは虐待に近いことをされていたのだ

芸能人が夫になると言われ
父について行くか?と本気で聞かれたり
物心もつかない頃に
理屈を捻じ曲げた説教を何時間も聞いた
一番良く思い出すのは
「指しゃぶりをするから」
と言う理由で後ろ手にガムテープを巻かれ
口にまでガムテープを貼られたことだ
その事実を
父が知っているかは僕にはわからない

いずれにしても
めちゃくちゃな毎日だった
小学五年と六年になって
システムをようやく理解してきた
それは父と母が離婚して
父が僕と兄を母から隔離したからだ

父が子供の頃に使っていたらしい
当時 築七十年は過ぎていた平家を引っ越して
祖母の家に近いマンションに住んだ
それからはまさしく男の世界だった

父は夜遅く帰ってきたので
祖母の家で夜ご飯と風呂を済ませ
九時ごろに家に帰るのが当たり前だった
しかし後から聞くと
夜中に出歩いている「問題児」と
保護者たちに白い目で見られていたらしい

僕の何がそんなに問題だったのか?
そんなことはわからない
小学校にはいじめも暴力も存在していた
僕にはそれがくっきりと
重く重くのしかかった
僕もいじめ いじめられ
暴力を振るわれ 暴力を振るった
そんな世界だ
子供は夢を見て
大人の言うことを聞くなど
大人の夢だった

母がいた頃
僕と兄を連れて
車のガソリンがなくなるまで
何処か遠くへ行ったことがある
何処に行き着いたかはわからない
山奥のコンビニで眠った
翌日警察に連れられ
父が迎えに来た
その記憶は不思議なことに
本物か嘘かわからない
そんな不確かな話だが
僕にとっては切実な空想を作り出す
大きな素材 もしくは骨格になった

小学校を卒業する頃には
僕は頭の中で完全な世界を作っていた
それは何をしても許される世界で
現実世界の中学校にはみ出して来た

許されないことを何度もしたし
何か悪いことがあると
まず僕が悪いと決めつけられた
しかし残念なことに
決めつけられた罪は外れてはなかった
僕は坂を転がりだして止まらなくなった鉄球のように
社会の中で孤立する道を選びかねなかった

その道を選ばなかった理由は
父と兄の存在だろう
父と兄は当時頭が良くて
僕が知らないことを全て知っていた
数学が得意で
何でも合理的に考えることが出来た

僕はそんな二人に憧れ
合理的に自分の罪を正当化しようとした
ただ中学三年にもなると
それが限界に達して
とうとう悪いことをするべきじゃないと思い知らされた

母とはたまに会うくらいで
授業参観に来るのは嬉しかった
小学生時代には保護者会にも出ていた
母親失格と烙印を押されて
窮屈な思いもしたはずだろう
しかし母は
僕の見えないところで戦っていた

今思えば
全て僕が元凶かも知れない
厄介者の役立たず
僕はそう自分に言い聞かせた
そしてそれを演じていた
それも事実かも知れない

家族崩壊も学級閉鎖も
友達が出来ないのも
全てが僕の仕業だったのかも知れない
それを僕が望んでいたのか?
それは違う
ただただ寂しさに負けていた
孤独に打ち勝つすべを知らなかった

そのすべを知ったのは
本当の意味での「友人たち」に出会ってからだ
しかし
その友人たちはもう僕の中で死んでしまった
そして
友人たちの中で僕はもう死んでしまった
だから話すべきではないだろう

僕は間違えている
いつもそう思う
何を選択してもどんな道に進んでも
間違えているのだ
だからこそ面白いと感じる
僕は今置かれている状況が切迫すればするほど
もっと間違えてしまいたいと思っている

きっと間違いを正すことよりも
間違えを正しいことだと思えるようになったのだ
正解の道はこの世にはない
あの世に行ってからゆっくり探すことにする

とりあえずこのくらいで
僕の話はよしておこう
最後まで読んでくれた人がいるなら
それが間違いだと思わないことを願うだけだ

No.58 断片集

 


布団には 詰まった麻薬 秘めやかに
バレることなく 起きることなく

 

常夜灯 暗がり欲しさ 水欲しさ
乾いた喉に 薄暗い糸

 

画面割れ 顔が二つの 著名人
やけにいらつき 電源を消す

 

小鳥鳴く 電線の上 曇り空
感電死した 幻想覗く

 

今月の 給料袋 破り捨て
家計簿捨てて 浮世も捨てる

 

息もせず 死にもしないで 見上げれば
天井の影 怪物の顔

 

映画館 一人っきりで スプラッター
切り刻まれた 腕を食べつつ

 

諦めで 瞼を閉じた 情けなさ
夢は現に 喰われて死んだ

 

カルタ絵の 語る笑顔の 恐ろしさ
無数の蟻が 巣に持ち帰る

 

お互いの 凹凸合わせ 絵になった
パズル崩せば 視界は滲む

 

置き去りの 傘の錆すら 美味そうに
見える飢えには 垂れる雨粒

 

服役中 園児の声が 響いたら
耳を塞いで 描く血飛沫

 

殴りつけ 殴られ続け 腫れ上がる
心の中では 憎悪が育つ

 

 

 

No.52 ミア・ウタモチ

物言わぬロボット

私の恋人だ

名前はミア・ウタモチ

パルプフィクションから拝借した名前だ

 

彼女の外観は黒髪のショート

スレンダーで統率の取れた体型

当たり前のことだが歩くのはぎこちない

人肌の感触のゴムを使っている

 

私はこのロボットを完成させるのに

20年の時を費やして来た

壊れにくく丈夫で

老後の介護のことも視野に入れて設計した

 

彼女は体が膨れて

ベッド代わりになったり

変形して車になり

電気を蓄えれば走れるようになる

 

彼女は至ってシンプルな思考を持って

私の要求に応える

「物を取れ」と言えば

物を取ることしかしない

 

この前彼女と街中を歩いていると

失礼な若者がシャッターを押した

そのシャッター音に気がついた彼女は

少しだけ悲しそうな顔をした

 

プログラムされていないはずの

「ロボットである自覚」と「恥」が

突然に生まれたのだろうか?

そう思ったが単なる光の当たり具合だった

 

人間(この場合はロボットだが)は

光の当たり具合で違う表情が出る

彼女に当たったフラッシュが

私の見ている角度に反射すると切なげに見えただけだ

 

彼女の左手は私の右手をしっかり掴む

人肌と同じように温度を設定している

少し寒かったので

43度ほどにあげるとカイロ代わりになる

 

彼女はずっと私に付いてくれるが

ふと考えてしまった

(彼女との子供は…)

そこまで考えて思考を停止した

 

ロボットに対する愛情と人間に対する愛情を

履き違えればただの狂人だ

私は三日三晩考えた

そして彼女を壊してしまうことにした

 

そう 私はミアをすでに愛していたのだ

他の何者でもない人間として または狂人として

自動記述日記2(何年か前に書いたもの)

 

 

先生が僕を見ている。授業が始まったらしい。数学はあまり好きじゃないけれど暇潰しにはちょうど良い。ノートに数字を沢山書いていると自分の中の世界に潜り込んで行ける。
7と8の間に人間の足を見つけた。×と÷に神秘的な魅力を感じた。5と6の間に人間の腕を見つけた。+と-に平凡な生活を感じた。3と4の間に機械の胴体を見つけ1と2の間に機械の脳を見つけた。
それを混ぜこぜにすると色々な形が出来た。人間と機械が混じり合うと不思議なフォルムが出来上がった。
その遊びを先生は理解出来ないらしい。ちらちら僕を見ては首を傾げている。先生の授業はいつも静かだ。生徒たちは退屈で眠っている。

2Dに僕の鉛筆が炭を残す度に頭の中が刺激される。数字や絵が直接脳に響く。それは立体となって視界に現れる。動いているxとyが落書きのペンギンを追いかけている。
僕の脳にコードを繋いでテレビに接続してみたい。思考の全てが僕の理解出来るものではないと思うからだ。宇宙を旅するような感覚だろうか。大画面のテレビを用意しなくてはならない。
電気屋で流れる頭に残って仕方がない曲が「テレビ」からの連想で流れ始めた。これが流れると僕は気持ちが悪くなる。この曲はきっと僕を駄目にするものなのだ。現実逃避をしなければならない。
エレクトロが響き始めた。良い感じだ。さっきのCMソングは彼方に消えた。あの宇宙人が教えてくれたヘンテコだけれど恰好良いエレクトロは中毒性があるらしい。たまに洗脳されているのではないかと思うくらいだ。

授業を忘れて僕はSFを展開してゆく。

 

 

000084=38+〆63]25$4

 

 

僕はその星をダビデ星と名付けた。
この星の人々は全員ダビデ像の形をしている。僕は自分の形がデビッドボウイなら良いのに。と思った。
僕の「地球で最も宇宙人に近い男」ランキングの1位を独占しているデビッドボウイだ。頭の中でチェンジスが流れた。

宇宙飛行士は皆の憧れだと思う。
けれど宇宙旅行はそれほど夢があるものではない。小さな船に乗って機械任せでたらたらと目的地まで漂うだけだ。
漂うというのも最短距離でスパッと向かってくれずにグラグラと方向転換をしながら旅をするからだ。そしてタビデ星人のダビデ顔を見ていると10日で嫌気が差す。しかも見分け方が名札というのも腹立たしい。ワッペンにボブやらサムやら書かれている。
たまにヨシコやミツコなどを見ると親近感が湧いたけれど女性なら女性の型にプレスすれば良いのにと思った。サモトラケのニケやミロのヴィーナスだと人体欠損グロになってしまいそうだけれど。

ダビデ星に着いたのは14日後だった。
2週間はかなりの長旅だ。これから先待ち受けることに期待と不安を感じながらも空港(らしき場所)に降り立った。かなり大きな施設で宇宙船が何千も並んでいる。ちょうどCDラックのように縦横にズラリと並んでいるのだ。その光景はかなり衝撃的だった。
空中に浮かんだエスカレーターで乗り降りをする。この星にいた他のダビデ達は揃って僕に興味を示した。自分と違う顔がよほど珍しいのだろう。僕は顔を赤くしながらスタスタと歩いてゆく。
僕と一緒に来てくれたダビデの一団は先にバス乗り場に行って僕を手招きしていた。荷物が少ないので人にぶつかることもなくそこへ辿り着いた。

ダビデ星は不思議な星だった。空は暗く永遠の夜。街灯が太陽代わりだ。
陸は赤茶の砂。木々は枯れて水も見当たらない。メロンパンのような形の家々が建ち並んでいる。

僕たちはゾロゾロと歩いていたけれどヨシコとミツコはいつの間にか帰ってしまったらしい。親近感が湧いていただけに少し寂しかった。前に食べさせて貰ったゼリーを食べようということになって食堂へ向かう。僕を含め4人で行動していた。席に着くとウェイトレスのダビデがメニューを置いてくれた。
「◯◯は何にしたい」名札にジェットと書いた少し大人しめのダビデが僕に聞く。ジェットは英語が堪能で日本語よりもそちらで話すことが多いらしい。だから発音が映画に出てくる日本語を話す外人のように拙い。優しく低い声だった。
「チャーハンみたいなものはありますか」ダビデ星でどんな食事があるのか知らない僕は恐る恐る聞いた。
「あぁ。あるよ。それはこの星でも凄く人気なんだ」ジェットはニコリと笑った。

旅の途中ポーカーで遊んだボブとサムの二人はブルーベリーパイのような味のゼリーを食べていた。そしてチャイの炭酸入りのような飲み物をジュルジュルと吸って溜息をつきながら満足そうに腹を撫でた。僕らはダビデ星の話と地球の話を交互にしていた。周りにいたダビデ達は僕たちの話に興味を持っていた。
「この星には海がないんだ。地球との一番の違いはそこだね。そして君がこうして息を吸ったり吐いたり出来るのは機械のおかげなんだ。このゼリーの中には小さな小さな機械が組み込まれていて消化すると有害な空気を吸っても綺麗にしてくれるんだよ。本来この星は人間が住めるような星ではないんだ」ボブが食後の休憩中に話した。それを良く考えてみると不思議に思った。何故このダビデ達はこの星に生まれたのだろう。まず人間の作った石像から型を取って生まれた彼らがこの星でどうやって繁栄したのだろうか。
もしかしたら人間の形がこの星でブームなだけで元の形は隠されているだけなのかもしれない。

イギリス人のような綺麗な鼻や目や髪の毛を持って生まれてきていれば。と強く思った。僕は平凡な日本人だ。だからこのダビデ星で浮いてしまうし美しい顔だらけの中にいると劣等感に押し潰されそうだ。
少しホームシックになりかけの僕はダビデ達に連れられてダビデ星の映画を見た。それは凄く不思議な話だった。同じ顔の登場人物達があらゆる困難に立ち向かうのだ。ラストの敵は巨大なダビデで身体は蛸の形だった。8本の足は6両編成の電車くらいの大きさでバームクーヘン型のビルを壊しまくる。圧巻はウルトラマンのようにでっかくなった主人公と敵のツーショット。しかし普通なら燃えるシーンも同じ顔で身体の形だけが違うとなると倒した時のカタルシスが全くないのだ。だからダビデ蛸が死体となってぐったりとした時に主人公が自分自身の内面の怪物と戦っていたような錯覚を覚えて虚無感が襲ってきた。それがこの映画の狙いであったなら凄いと思う。DVDに焼いて地球へ持って帰りたいくらいだ。とりあえず鑑賞後に思い返すと良い映画だと思えるような内容だった。

ダビデ達は何故僕をここに連れて来たのだろう。映画館から出てバスに乗り込むと灯りの少ない郊外へ向かった。そして辿り着いた場所は大きな何かの工場だった。ガゴンガゴンと轟音が鳴り響いている。
持ち物チェックをして防護服を着て消毒を終えてやっと中に入れた。その中には色々な生物がいた。しかし地球に住む生物ではない不思議なモンスター達だ。毛むくじゃらの玉のようなものや足が全身にびっしり付いたようなものが檻の中で様々な声をあげていた。それはまさしくグロテスクな形ばかりで吐き気を催してしまった。ダビデ達は気を使って僕を足早に事務室へと連れて行った。事務室の中ではダビデ達が働いていた。俳優ダビデのポスターなんかも貼ってあった。その奥の来賓用の部屋に通される。その中には誰もいなかった。

「君がここに招待された理由を聞きたいだろう」ジェットが少し低く僕に聞いた。部屋の端から端までの大きさがあるソファーにすわりながらダビデ達3人は僕を見つめている。僕は反対側にある端から端までのソファーに一人で座っている。
「はい。旅行というわけではなさそうですね」僕の声は小さく響く。ダビデ達は少し考えているようだった。