うたもち現代詩

詩を書き連ねる場所

No.67 追憶の手紙

 

雨の音がする
雨の中傘を差して行き交う
人々の足音が聞こえる
目を閉じて
彼女のことをまぶたの裏に映す

 

彼女はとても綺麗だった
何もかも完璧なほど
油断も隙もない女だった
そんな彼女を
失うことは何よりも辛かった

 

蘇る
映画のワンシーン
愛する者を守るため
死んでいった
男の最期の顔

 

私は
老人になるまでこの男に憧れた
そして今ペンを取り
薄汚い文字で
彼女に宛てた手紙を書いている

 

〝美しい君よ
永遠にその心で
誰にも怯えること無く
永遠にその魂で
生き続けよ
私の心は
いつも君のそばにある
この荒んだ人生に
光を与えてくれた
何よりも大切な
何よりも純粋な
愛をくれた
ありがとう
美しい君よ
永遠にその瞳で
私を見つめ返しておくれ___〟

 

彼女はもういない
どこを探しても見つからない
しかし彼女は
引き出しの中に 戸棚の上に
窓辺に 机に並んだ二つの椅子に

 

いつも
映し出せる

 

いつも
蘇る

 

悲しいことに
重要なことを何も話せなかった
何十年も前の記憶が
蘇る
そして

 

私はまたペンを取る

 

〝美しい君よ
愛する君よ
私の心はもう
冷たい牢獄から

二度と出られないだろう____〟

No.66 飴玉


眠ったままに煙草を吸う男が寝返った
布団に火がつき瞬く間に燃え上がった
そして男は目覚めること無く焼死した
そんなホラ話で笑いながら酒を飲んだ

 

家に帰ると灰皿を準備して煙草に火を
つけようとして布団の上に座りながら
日々の憂鬱をめくるめく思い返し始め
ライターを投げ灰皿をどかし横になる

 

彼はその憂鬱の一粒一粒をこねて丸め
飴玉のように舐めてその味を堪能した
彼の頭の中を切り出して吸い出したら
濃厚などす黒い液体が溢れ出すだろう

 

ソファーに身体を預けその重みで沈む
彼は投げたライターを拾って火をつけ
ぼやける蛍光灯を眺めて煙草をくわえ
飴玉を吐き捨てるように煙を生み出す

 

彼は燻製になるほどに煙草を吸い続け
頬を伝う涙の意味を確かめて沈みゆく
悲しみは心の奥の箱に入れて鍵をかけ
苦しみは心の表面に塗りたくってゆく

 

 

No.65 懺悔に似た回顧

…これは現実にあった話を基にしている…


いや
僕の家族はきっと
僕が生まれた後の数年だけが幸福だった

僕には兄がいる
兄は幸福だ
何故なら僕が生まれる前までは
両親のまともな愛を独り占め出来たのだから

僕は一人遊びが好きで
父親
「お前は一人で遊んでしまうから遊び方がわからなかった」
と言っていた
その名残からか
今でも一人で考え事をするのが好きだ

空想の中で僕は魔法使いだった
あるいはドラゴン使いだった
SFやファンタジーに想いを馳せて
母がたまに内職に使う程度の
大きなパソコンのワードに物語を綴った

主人公は
家電量販店のマッサージチェアに座っている
すると向こうから不思議な老人がやってきて
「私と一緒に来い」
と言うのだ
主人公は頼れる者がいないいわゆる孤児で
その老人に導かれるまま魔法学校へ…

そんな話を信じて
そんな話を綴った

僕は夢を見ていたのだ
今も夢を見ているのだろう
父と母はそんな僕の空想を
僕だけのものだと思ってくれていた
だから興味のある本は買ってくれたし
ゲームよりそっちの方が魅力的だった

幼稚園から小学校に上がる頃になると
社会が牙を剥き始めた
本能的に生きていた僕は
学校では問題児扱いだった
泣きながら兄と帰り
「だってムカついたから」
と犯罪者のような台詞を吐いていた

先生はいつも僕を監視した
優しく あるいは厳しく
その先生の思惑の上で僕は転がされた
そして小学三年に上がる時
突然引越しすることを告げられた

転校初日
忘れもしない
僕は何故かわからないが
同級生に首を絞められた
それからと言うもの
転校先が嫌いで仕方なかった

場所が変わっても僕は問題児だ
兄は大人しかったので
僕に腹を立てても許してくれた
今思えば
あの頃の僕は兄に守られていたのかもしれない

きっかけは何かはわからないが
学級閉鎖するほどの異常事態にもなった
同級生に馴染めない僕は
母に「お前のせいだ」と言われた
その時は戸惑ったが
今思えば
そうだったのかも知れない

覚えていることは断片的だし
その頃の空想癖を考えると半分は夢かも知れない
ただその小学校は僕にとって監獄で
毎日投獄されるようなものだった

兄に連れられ兄の友達と良く遊んだ
兄の友達は口々に
「生意気な弟だね」
と話しているのはわかった
我慢させていると自覚したのはその頃だ
しかし僕の行動はさらに過激になった

小学三年と四年の頃に頭を支配したのは
幼稚園の時に母が狂った記憶だった
「狂った」は例えじゃない
精神的に追い詰められ
僕たちは虐待に近いことをされていたのだ

芸能人が夫になると言われ
父について行くか?と本気で聞かれたり
物心もつかない頃に
理屈を捻じ曲げた説教を何時間も聞いた
一番良く思い出すのは
「指しゃぶりをするから」
と言う理由で後ろ手にガムテープを巻かれ
口にまでガムテープを貼られたことだ
その事実を
父が知っているかは僕にはわからない

いずれにしても
めちゃくちゃな毎日だった
小学五年と六年になって
システムをようやく理解してきた
それは父と母が離婚して
父が僕と兄を母から隔離したからだ

父が子供の頃に使っていたらしい
当時 築七十年は過ぎていた平家を引っ越して
祖母の家に近いマンションに住んだ
それからはまさしく男の世界だった

父は夜遅く帰ってきたので
祖母の家で夜ご飯と風呂を済ませ
九時ごろに家に帰るのが当たり前だった
しかし後から聞くと
夜中に出歩いている「問題児」と
保護者たちに白い目で見られていたらしい

僕の何がそんなに問題だったのか?
そんなことはわからない
小学校にはいじめも暴力も存在していた
僕にはそれがくっきりと
重く重くのしかかった
僕もいじめ いじめられ
暴力を振るわれ 暴力を振るった
そんな世界だ
子供は夢を見て
大人の言うことを聞くなど
大人の夢だった

母がいた頃
僕と兄を連れて
車のガソリンがなくなるまで
何処か遠くへ行ったことがある
何処に行き着いたかはわからない
山奥のコンビニで眠った
翌日警察に連れられ
父が迎えに来た
その記憶は不思議なことに
本物か嘘かわからない
そんな不確かな話だが
僕にとっては切実な空想を作り出す
大きな素材 もしくは骨格になった

小学校を卒業する頃には
僕は頭の中で完全な世界を作っていた
それは何をしても許される世界で
現実世界の中学校にはみ出して来た

許されないことを何度もしたし
何か悪いことがあると
まず僕が悪いと決めつけられた
しかし残念なことに
決めつけられた罪は外れてはなかった
僕は坂を転がりだして止まらなくなった鉄球のように
社会の中で孤立する道を選びかねなかった

その道を選ばなかった理由は
父と兄の存在だろう
父と兄は当時頭が良くて
僕が知らないことを全て知っていた
数学が得意で
何でも合理的に考えることが出来た

僕はそんな二人に憧れ
合理的に自分の罪を正当化しようとした
ただ中学三年にもなると
それが限界に達して
とうとう悪いことをするべきじゃないと思い知らされた

母とはたまに会うくらいで
授業参観に来るのは嬉しかった
小学生時代には保護者会にも出ていた
母親失格と烙印を押されて
窮屈な思いもしたはずだろう
しかし母は
僕の見えないところで戦っていた

今思えば
全て僕が元凶かも知れない
厄介者の役立たず
僕はそう自分に言い聞かせた
そしてそれを演じていた
それも事実かも知れない

家族崩壊も学級閉鎖も
友達が出来ないのも
全てが僕の仕業だったのかも知れない
それを僕が望んでいたのか?
それは違う
ただただ寂しさに負けていた
孤独に打ち勝つすべを知らなかった

そのすべを知ったのは
本当の意味での「友人たち」に出会ってからだ
しかし
その友人たちはもう僕の中で死んでしまった
そして
友人たちの中で僕はもう死んでしまった
だから話すべきではないだろう

僕は間違えている
いつもそう思う
何を選択してもどんな道に進んでも
間違えているのだ
だからこそ面白いと感じる
僕は今置かれている状況が切迫すればするほど
もっと間違えてしまいたいと思っている

きっと間違いを正すことよりも
間違えを正しいことだと思えるようになったのだ
正解の道はこの世にはない
あの世に行ってからゆっくり探すことにする

とりあえずこのくらいで
僕の話はよしておこう
最後まで読んでくれた人がいるなら
それが間違いだと思わないことを願うだけだ

No.64 3つの世界

 

 

僕の思いつきが僕の世界を作って
悲しいことに僕自身がその世界を壊した
漂う煙の中で佇んでいる死神が
こっちを向いて笑うから 早くうちに帰ろう

 

彼の思いつきで彼の世界を救って
切ないほどに彼自身がその世界を愛した
疑う民の中で踊っている天使が
こっちを向いて叫ぶから 今のうちに黙ろう

 

君の思いつきを君の世界が隠して
苦しいことに君自身がその世界を隠した
躊躇うことを忘れられたら良い
こっちに来て世界を混ぜ 今のうちに去ろう

 

こんな世界とは?どんな世界に見える?
僕は綺麗で汚い天国か地獄に見える
遠くから見れば全て小さく見えると言うが
全てが矛盾しているので不安になってしまう

 

僕と彼と君の思いつきが
この世界を乱す時には手を取り合おう
仲良くやろうなんて思わなくて良い
こっちに来て世界を見て 今のうちを楽しもう

 

 

No.63 煙たい部屋の中

 

 

世界が僕に背を向ける時も
君はいつか見せたような笑顔で
世界が君に背を向ける時も
僕はいつも見せるような笑顔で

 

鉄で出来た心に鍵をかけても
熱い炎で溶かしてしまえば良い
鎖で繋いだ心が空へ飛んでも
細く長い糸で手繰り寄せれば良い

 

君はいつも馬鹿にしておくれ
必死になって生きている僕を
僕はいつも馬鹿でいたいから
冷めた瞳で君は笑い飛ばしておくれ

 

そんなことを言い聞かせたい夜
君との時間は足早に過ぎて行く
満ち足りてはいるが金が無いから
貧乏な遊びで気取っていれば良い

 

420円もする灰になるだけの棒が
白い煙で僕に語りかけるから嬉しい
君が眠る時間すら幸福に感じるから
眠ることが勿体無いと思ってしまう

 

愛を口にすれば空虚な感じがするなら
口に含んで吐き出す煙に想いを乗せて
この部屋にいる証を残すように
壁紙を台無しにするのも悪く無い

 

 

No.62 流船

 

 

煌めく理想郷から突き出ている摩天楼
儚げに光るのは一筋の涙のような流星
実はそれは星の残骸に似た宇宙船だが
理想郷に住む人たちは願い事を唱えた

 

無重力の中で掴み合う二人の男の目的
それは宇宙で一番輝く鉱石と膨大な金
赤と青の宇宙服は空中を泳ぎ掴み合う
鉱石と金は宇宙船の中を無軌道に舞う

 

流星に間違えられた宇宙船の中の死が
人たちの願いを聞き入れるわけもない
青色の宇宙服が勝鬨を上げる瞬間にも
鉱石と金は同じ顔のまま無重力を舞う

 

宇宙船は高速で止まらずに星々を通り
一人を乗せ何処へとも無く進んでゆく
青い宇宙服を脱いで機内に重力を加え
彼は長い髪の毛を下ろしソファで眠る

 

金色に輝く髪は宝石より煌めいていた
青い目が閉じられ何時間か過ぎていた
鉱石は金と擦れて傷が付いてしまった
小さな星にぶつかり宇宙船は爆破した

 

 

No.61 街路

 

長髪のスーツ姿の男が煙草をくわえて

短髪のスーツ姿の男を待ち続けている
熱いコーヒーを啜る音が喫煙室に響く
冷たいコーラを買い男が喫煙室に入る

 

二人はどういうわけか暫く会話しない
何か事情があるような顔で煙草を吸う
煙は排出装置にただただ吸い込まれて
一緒に二人の空間も吸い込まれそうだ

 

ふと短髪のスーツ姿の男が話しかける
ふと長髪のスーツ姿の男が笑っている
コーラを飲み干して伸びをしている男
コーヒーを置いて溜息を吐いている男

 

スーツに着いた埃を払い整えた二人は
喫煙室を出て路地を足早に歩いてゆく
店の看板が街に乾いた雰囲気を落とし
スーツ姿の男たちを無機質に演出する

 

道路に突然黒い車が二人の横に停車し
窓が開くと無数の棒が車から突き出る
途端に爆音が街中に鳴り響き走り去る
スーツ姿の二人は完全に無機質になる